リクエスト:退屈いらずの楽園
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・レン
夜、ここはバイト先のレストラン。
「ネガを捜し出して燃やせばいい。いらっしゃいませー」
「あの教授、どこに隠してると思う? やっぱ、自宅かな…。ありがとうございましたー」
「……場所移せば?」
客として席についてオレンジジュースを飲んでいる華音にツッコまれ、あたしと森尾は同時に小さく頷いた。
*****
あたしと森尾と華音は化粧室に集まった。
ちゃんと扉には“ただいま、清掃中”という掛札をかけておく。
それでも森尾に落ち着きがない。
「そんなに気にしなくても誰も入ってこねえって」
「だ、だって、ここ女子トイレだぞ」
本当に森尾は真面目だ。
「そんなことより、今はどうやってネガ(元)を奪うかって話だ」
「……自宅はたぶん、ない。広い自宅より、狭い研究室に隠した方が本人も見つけやすいだろう。研究室が散らかってるなら尚更だ。自宅はもっと酷いはず」
森尾の推理に、腕を組んで納得する。
「じゃあ、その研究室か…」と華音。
「自分で持ってるか…」と言葉を継ぐあたし。
「いらねえことすんな」
「「「!?」」」
突然由良の声が聞こえ、扉を開けたが、誰もいない。
「ここだ、バカ」
バンッ
「わ!!」
いきなり清掃用具置き場から出てきた。
いつからそこにいたのだろうか。
とにかく、先程の会話を聞かれていたのは間違いない。
「お、おまえいつからそこに…。っていうかここ女子トイレなんだけど!」とあたしが指摘すると、ばつが悪そうに「それはさっきオレも言った」と森尾が返した。
「テメーのケツはテメーでぬぐう」
「おとなしく留学する気か?」
望んでないクセに。
「このオレがおとなしくしてると思うか?」
「おまえが少しでもおかしな行動とったら、向こうだって警戒するだろ。ノーマークのあたし達が動いた方が写真のネガも奪いやすい」
「だから、余計なことすんなって…」
「余計じゃねえよ!!」
煩わし気に頭を掻きながら冷たく言う由良に対し、腹を立てたあたしは声を上げて言い返した。
「……………」
森尾と華音が不安そうに、あたしと由良の顔を交互に見る。
あたしと由良は睨み合ったままなにも言わず、由良は「あ、そ」と化粧室から出て行った。
乱暴に扉が閉められ、それは胸の奥にまで轟く。
*****
翌日、あたしは朝早くに大学に行くことにした。
森尾と華音と一緒に行動したかったが、単独の方がいいと思ったからだ。
ひとりで大学まで歩いて行ったのは入学式以来だ。
なんだか落ち着かなかった。
大学に到着し、さっそく準備に取り掛かる。
*****
作戦1
ベンチで呑気にホットの缶コーヒーを飲んでいる教授を見つけた。
テニス部から服を拝借して着替えたあたしの手にはラケットとボールを握りしめている。
ボールを軽く真上に放り、横に振りかぶってサーブを打ち込んだ。
憎しみ付きで。
それは真っ直ぐに缶コーヒーに向かって飛んでいき、見事に命中。
缶コーヒーは宙で一回転し、教授のスーツにかかる。
「熱っ!!」
当然、教授は驚いて立ち上がった。
ざまみろだ。
内心で舌を出して笑ってやったが表に出すわけにはいかない。
あたしは申し訳なさそうな顔を作り、教授に駆け寄る。
「すみませーん。大丈夫ですかー?」
思ってもないことだからなのか、棒読み気味だ。
駆け寄ったあと、すぐに教授のスーツを脱がした。
さりげなく内ポケットなどを探ってみたが、ネガはない。
「チッ」
*****
作戦2
講義を全てサボり(第一、今、気まずくて由良に会えないし)、第一食堂で席について食事中の教授の蕎麦の中に、こっそりと強力な下剤を投入する。
効果はすぐに出たようだ。間もなく教授は真っ青な顔で立ち上がり、トイレへと走った。
あたしはその隙にテーブルの下に潜って教授のカバンの中を漁る。
教科書、携帯、財布、眼鏡ケース、わけのわからないビン。
それでもネガはなかった。
苛立ってカバンを叩きつける。
カバンの中にもねえのかよ!
つか、カバンの中もごっちゃごちゃじゃねえか。
「!」
その時、定期券と一緒に入った研究室のカードキーを見つけた。
*****
中に誰もいないか確認してからカードキーを差し込み、研究室の扉を開ける。
ゆっくりと中に入り、扉は半開きのままにしておいた。
改めて室内を見て、早くも挫折しそうになる。
由良の部屋より酷いかもしれない。
由良の部屋がマシなのは、週一で森尾が勝手に入って片付けをしているからだ。
「…やるか」
早くしないと、教授が戻ってくるかもしれない。
机の引出しをすべて探ったり、物をどけたり、戸棚を開けたり、床に散らばっている本を片っ端からパラパラと開けて挟まってないか確認したりしたが、問題のネガは見つからない。
腕時計を見ると、夕方5時をまわっていた。
そろそろ撤退しないと、教授が戻ってきてしまう。
「クソ…。もしかして、自宅なんじゃ…」
背後にあった、積まれた本の山に背をもたせかけた時だ。
「!?」
支えを失った。
そのまま後ろに倒れ、本が崩れてくる。
「いたっ。あたた!」
本に埋まったあたしは、這いあがり、疲れのあまり床に寝ころんだ。
「こりゃ確かに女いねえわ」
「悪かったね」
「!!」
飛び起きると同時に、扉が閉められる。
目の前には教授が立っていた。予定より早く戻ってきたようだ。
あたしはすぐに立ち上がり、身構える。
「気は済んだかい?」
「……なんのことですか?」
睨みつけたまま、笑みを浮かべた。
必死に頭の中で言い訳を考え、言葉を継ぐ。
「あたしはただ、たまたま廊下に落ちていたカードキーを拾って、部屋が散らかっていたので片付けてさしあげようかと……」
「お友達のネガをお探しかな?」
「!」
いきなり図星を突かれ、口を噤んだ。
「自覚していないようだが、あの由良と常に一緒にいて、目立たないとでも思っていたのか?」
それどころか、思いっきり公衆の面前で一緒にライブとかやってたからな。
あたしは笑みをやめ、諦めのため息をついてから目の前の教授を睨みつけた。
「…オッケー。本音で語ろうぜ、卑怯者。おとなしく写真のネガを渡せ」
コブシを握りしめる。
教授の視線がそれをとらえた。
「なんだ? 暴力か? それならば喜んで告訴しよう。私は言い訳も得意でねえ…」
不気味な笑みを見て、あたしの背筋が凍りつく。
今は退散したほうが利口だと考え、机を踏み台にしてそのまま教授の横を通過し、扉のノブに手をかけたが、開かない。
「!?」
「鍵は掛けさせてもらったよ」
「!」
教授の手には銀色に光る鍵があった。
内側はその鍵がないと開かないのか。
「くっ…」
窓に視線をやったが、研究室は4階だ。
飛び降りて無事なわけがない。
教授が笑みを浮かべながらこちらにゆっくりと近付いてくる。
こちらが攻撃しないのをいいことに。
教授に合わせ、近付くたびに後ろに一歩一歩と下がった。
だが、背中が扉にぶつかる。
「………ふざけるな…。アンタのために、由良がここからいなくなるなんて……」
威嚇の眼差しを向けながら、殴りかかる衝動を抑えるのに必死だ。
証拠を残してはいけないのはわかってる。
「絶対に…嫌だ…」
大学から追い出されるのだけは絶対に嫌だ。
もっとここにいたい。
4人一緒に。
「由良はあたし達と一緒に…!」
怒声をあげた瞬間、
「ほーら、言わんこっちゃねえ」
「「!」」
真っ逆さまの由良が天井からぶらさがっていた。
「スパイダーマ…、由良!?」
よく見ると、由良の腰に太めのロープのようなものがくくりつけられてある。
目でたどっていくと、天井のパネルが一部開けられていた。
由良は体勢を戻し、机の上に足をつく。
教授は驚いて由良を凝視していた。
「貴様…!?」
「オレのネガはそこか?」
由良は笑みを浮かべ、教授に向けて勢いよく右脚を伸ばす。
初め、教授の頭部を蹴ったと思ったが、その時、あたしに向かってなにかが飛んできた。
思わずそれを両手で受け、仰天する。
「わあ!!?」
ヅラだ。
ひっくり返すと、ヅラのくぼみにたくさんのネガが入れられていた。
「なあ!!?」
髪を失った教授本人もかなりびっくりしている。
まさかバレるとは思ってなかったのだろう。
すかさず、由良はポケットからデジカメを取り出して構え、
ピピッ
シャッターを切った。
「証拠写真ゲット~♪」
「ぐ!?」
由良はあの意地悪な笑みを浮かべる。
「退学にしてもいいんスよ。そんなことをしても、テメーにとっては手遅れだ。…あれぇ? このセリフ、どっかで聞いたよな~?」
気のせいか、悪魔が見える。
教授は再び唸った。
「か…、返…!」
由良に手を伸ばすが、由良はあたしに向けてデジカメを放った。
「レン、パ―――ス」
「っと!」
思わずナイスキャッチ。
教授はあたしに向きを変えて突進してこようとした。
「レン!」
由良が自分の両手を組む。
察したあたしはすぐに駆け出し、教授の手を避け、勢いをつけてジャンプし、由良の組んだ両手を踏み台にして天井に飛び移った。
「由良!」
天井から由良を呼ぶ。
由良は腰にくくりつけたロープを、クイクイ、と軽く引っ張った。
合図だったのか、教授に捕まる前に、一気に由良が引っ張り上げられる。
「じゃあな―――。その姿で帰れよ―――」
「返せ―――!!」
泣きながら教授が叫んだ。
最早、紳士の欠片もない。
ロープは実習室まで繋がっていた。
到達すると、ロープを引っ張っていたのはやっぱり森尾と華音だった。
「重かった…」
ロープを放した森尾の第一声がそれだ。
デジカメと、ヅラと、取り戻したネガを実習室の机の上に並べる。
なにがあったのか2人に話すと、華音は大爆笑だ。
「ひゃはははっ! ヅラだったんだ、あの教授!」
「ヅラもそうだけど、よくそこにネガがあるってわかったな…」
あたしがそう言うと、由良は自慢げに答える。
「オレの洞察力を見くびんなよ? それに、秘密を隠すなら秘密の宝箱だ。あんな散らかったところから引っ張り出すなんて面倒臭いこと、本人もイヤだろ。オレだってイヤだ」
「まあ確かに」とあたしと森尾は頷いた。
「ホームズをナメるなってことだ、ワトソン君♪」
「言っとくけど、さっきのおまえ、完全にルパンだったから。ヅラ盗ったし」
あたしがそうツッコんだあと、由良はデジカメを操作し、あの証拠写真をあたし達に見せる。
そのあとすぐに、削除ボタンを押した。
「え!?」
思わず声を上げてしまう。
由良はデジカメをポケットにしまったあと、ネガをハサミで切り刻みながら言った。
「オレ、残すの嫌いだから。それに、もうあのハゲはちょっかいだしてこねえよ♪」
細切れに切り刻まれたネガが、ひらひらと花びらのように床に舞い落ちる。
*****
森尾の部屋に、あたしと華音と森尾は集まった。
途中で、由良はまたふらりとどこかへ行ってしまった。
あたしは机に伏して落ち込む。
「結局なにもできなかった…」
「いいとこ持っていかれちゃったしねー」
向かい側に座る華音があたしの頭を撫でながら追い打ちをかけた。
さらに背中に重いものが圧し掛かる。
コーヒーを運んできた森尾は、それらをあたし達の前に置きながら言った。
「でも、由良としては嬉しかったんじゃないか?」
「え?」
なんとか顔を上げる。
「「余計なことをするな」って言ったのだって、なにかあってレンが退学になるのが嫌だから…」
「……………」
あいつがそんなことを思ってくれたのだろうか。
由良のことを知るには、1年じゃ足りない。
「お―――い、開けてくれ―――」
噂をすればなんとやら。
由良の声に伴ってノック音が聞こえた。
あたしは立ち上がり、ドアを開ける。
途端に、ずいっとなにかを突きつけられた。
ケーキの箱だ。
「……え?」
「礼」
「は?」
「言っとくけど、オレの金だからな」
茫然としたまま、両手にケーキの箱を受け取る。
そのあと、由良はあたしの横を通過して森尾の部屋へと入った。
「レン、早く持ってこいよ」
振り返ってあたしを呼ぶ。
「あ…、わ、わかった」
華音は皿を運び、森尾は由良の分のコーヒーを入れ、由良はフォークを持ちながら「まだかー」と待ちきれないという態度をとり、あたしは華音が並べた皿の上にケーキを載せていく。
それからあとはいつものように雑談で盛り上がった。
その時、ふと思ったことがあるのだが、由良はどうやって金を稼いでいるのだろうか。
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夜、ここはバイト先のレストラン。
「ネガを捜し出して燃やせばいい。いらっしゃいませー」
「あの教授、どこに隠してると思う? やっぱ、自宅かな…。ありがとうございましたー」
「……場所移せば?」
客として席についてオレンジジュースを飲んでいる華音にツッコまれ、あたしと森尾は同時に小さく頷いた。
*****
あたしと森尾と華音は化粧室に集まった。
ちゃんと扉には“ただいま、清掃中”という掛札をかけておく。
それでも森尾に落ち着きがない。
「そんなに気にしなくても誰も入ってこねえって」
「だ、だって、ここ女子トイレだぞ」
本当に森尾は真面目だ。
「そんなことより、今はどうやってネガ(元)を奪うかって話だ」
「……自宅はたぶん、ない。広い自宅より、狭い研究室に隠した方が本人も見つけやすいだろう。研究室が散らかってるなら尚更だ。自宅はもっと酷いはず」
森尾の推理に、腕を組んで納得する。
「じゃあ、その研究室か…」と華音。
「自分で持ってるか…」と言葉を継ぐあたし。
「いらねえことすんな」
「「「!?」」」
突然由良の声が聞こえ、扉を開けたが、誰もいない。
「ここだ、バカ」
バンッ
「わ!!」
いきなり清掃用具置き場から出てきた。
いつからそこにいたのだろうか。
とにかく、先程の会話を聞かれていたのは間違いない。
「お、おまえいつからそこに…。っていうかここ女子トイレなんだけど!」とあたしが指摘すると、ばつが悪そうに「それはさっきオレも言った」と森尾が返した。
「テメーのケツはテメーでぬぐう」
「おとなしく留学する気か?」
望んでないクセに。
「このオレがおとなしくしてると思うか?」
「おまえが少しでもおかしな行動とったら、向こうだって警戒するだろ。ノーマークのあたし達が動いた方が写真のネガも奪いやすい」
「だから、余計なことすんなって…」
「余計じゃねえよ!!」
煩わし気に頭を掻きながら冷たく言う由良に対し、腹を立てたあたしは声を上げて言い返した。
「……………」
森尾と華音が不安そうに、あたしと由良の顔を交互に見る。
あたしと由良は睨み合ったままなにも言わず、由良は「あ、そ」と化粧室から出て行った。
乱暴に扉が閉められ、それは胸の奥にまで轟く。
*****
翌日、あたしは朝早くに大学に行くことにした。
森尾と華音と一緒に行動したかったが、単独の方がいいと思ったからだ。
ひとりで大学まで歩いて行ったのは入学式以来だ。
なんだか落ち着かなかった。
大学に到着し、さっそく準備に取り掛かる。
*****
作戦1
ベンチで呑気にホットの缶コーヒーを飲んでいる教授を見つけた。
テニス部から服を拝借して着替えたあたしの手にはラケットとボールを握りしめている。
ボールを軽く真上に放り、横に振りかぶってサーブを打ち込んだ。
憎しみ付きで。
それは真っ直ぐに缶コーヒーに向かって飛んでいき、見事に命中。
缶コーヒーは宙で一回転し、教授のスーツにかかる。
「熱っ!!」
当然、教授は驚いて立ち上がった。
ざまみろだ。
内心で舌を出して笑ってやったが表に出すわけにはいかない。
あたしは申し訳なさそうな顔を作り、教授に駆け寄る。
「すみませーん。大丈夫ですかー?」
思ってもないことだからなのか、棒読み気味だ。
駆け寄ったあと、すぐに教授のスーツを脱がした。
さりげなく内ポケットなどを探ってみたが、ネガはない。
「チッ」
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作戦2
講義を全てサボり(第一、今、気まずくて由良に会えないし)、第一食堂で席について食事中の教授の蕎麦の中に、こっそりと強力な下剤を投入する。
効果はすぐに出たようだ。間もなく教授は真っ青な顔で立ち上がり、トイレへと走った。
あたしはその隙にテーブルの下に潜って教授のカバンの中を漁る。
教科書、携帯、財布、眼鏡ケース、わけのわからないビン。
それでもネガはなかった。
苛立ってカバンを叩きつける。
カバンの中にもねえのかよ!
つか、カバンの中もごっちゃごちゃじゃねえか。
「!」
その時、定期券と一緒に入った研究室のカードキーを見つけた。
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中に誰もいないか確認してからカードキーを差し込み、研究室の扉を開ける。
ゆっくりと中に入り、扉は半開きのままにしておいた。
改めて室内を見て、早くも挫折しそうになる。
由良の部屋より酷いかもしれない。
由良の部屋がマシなのは、週一で森尾が勝手に入って片付けをしているからだ。
「…やるか」
早くしないと、教授が戻ってくるかもしれない。
机の引出しをすべて探ったり、物をどけたり、戸棚を開けたり、床に散らばっている本を片っ端からパラパラと開けて挟まってないか確認したりしたが、問題のネガは見つからない。
腕時計を見ると、夕方5時をまわっていた。
そろそろ撤退しないと、教授が戻ってきてしまう。
「クソ…。もしかして、自宅なんじゃ…」
背後にあった、積まれた本の山に背をもたせかけた時だ。
「!?」
支えを失った。
そのまま後ろに倒れ、本が崩れてくる。
「いたっ。あたた!」
本に埋まったあたしは、這いあがり、疲れのあまり床に寝ころんだ。
「こりゃ確かに女いねえわ」
「悪かったね」
「!!」
飛び起きると同時に、扉が閉められる。
目の前には教授が立っていた。予定より早く戻ってきたようだ。
あたしはすぐに立ち上がり、身構える。
「気は済んだかい?」
「……なんのことですか?」
睨みつけたまま、笑みを浮かべた。
必死に頭の中で言い訳を考え、言葉を継ぐ。
「あたしはただ、たまたま廊下に落ちていたカードキーを拾って、部屋が散らかっていたので片付けてさしあげようかと……」
「お友達のネガをお探しかな?」
「!」
いきなり図星を突かれ、口を噤んだ。
「自覚していないようだが、あの由良と常に一緒にいて、目立たないとでも思っていたのか?」
それどころか、思いっきり公衆の面前で一緒にライブとかやってたからな。
あたしは笑みをやめ、諦めのため息をついてから目の前の教授を睨みつけた。
「…オッケー。本音で語ろうぜ、卑怯者。おとなしく写真のネガを渡せ」
コブシを握りしめる。
教授の視線がそれをとらえた。
「なんだ? 暴力か? それならば喜んで告訴しよう。私は言い訳も得意でねえ…」
不気味な笑みを見て、あたしの背筋が凍りつく。
今は退散したほうが利口だと考え、机を踏み台にしてそのまま教授の横を通過し、扉のノブに手をかけたが、開かない。
「!?」
「鍵は掛けさせてもらったよ」
「!」
教授の手には銀色に光る鍵があった。
内側はその鍵がないと開かないのか。
「くっ…」
窓に視線をやったが、研究室は4階だ。
飛び降りて無事なわけがない。
教授が笑みを浮かべながらこちらにゆっくりと近付いてくる。
こちらが攻撃しないのをいいことに。
教授に合わせ、近付くたびに後ろに一歩一歩と下がった。
だが、背中が扉にぶつかる。
「………ふざけるな…。アンタのために、由良がここからいなくなるなんて……」
威嚇の眼差しを向けながら、殴りかかる衝動を抑えるのに必死だ。
証拠を残してはいけないのはわかってる。
「絶対に…嫌だ…」
大学から追い出されるのだけは絶対に嫌だ。
もっとここにいたい。
4人一緒に。
「由良はあたし達と一緒に…!」
怒声をあげた瞬間、
「ほーら、言わんこっちゃねえ」
「「!」」
真っ逆さまの由良が天井からぶらさがっていた。
「スパイダーマ…、由良!?」
よく見ると、由良の腰に太めのロープのようなものがくくりつけられてある。
目でたどっていくと、天井のパネルが一部開けられていた。
由良は体勢を戻し、机の上に足をつく。
教授は驚いて由良を凝視していた。
「貴様…!?」
「オレのネガはそこか?」
由良は笑みを浮かべ、教授に向けて勢いよく右脚を伸ばす。
初め、教授の頭部を蹴ったと思ったが、その時、あたしに向かってなにかが飛んできた。
思わずそれを両手で受け、仰天する。
「わあ!!?」
ヅラだ。
ひっくり返すと、ヅラのくぼみにたくさんのネガが入れられていた。
「なあ!!?」
髪を失った教授本人もかなりびっくりしている。
まさかバレるとは思ってなかったのだろう。
すかさず、由良はポケットからデジカメを取り出して構え、
ピピッ
シャッターを切った。
「証拠写真ゲット~♪」
「ぐ!?」
由良はあの意地悪な笑みを浮かべる。
「退学にしてもいいんスよ。そんなことをしても、テメーにとっては手遅れだ。…あれぇ? このセリフ、どっかで聞いたよな~?」
気のせいか、悪魔が見える。
教授は再び唸った。
「か…、返…!」
由良に手を伸ばすが、由良はあたしに向けてデジカメを放った。
「レン、パ―――ス」
「っと!」
思わずナイスキャッチ。
教授はあたしに向きを変えて突進してこようとした。
「レン!」
由良が自分の両手を組む。
察したあたしはすぐに駆け出し、教授の手を避け、勢いをつけてジャンプし、由良の組んだ両手を踏み台にして天井に飛び移った。
「由良!」
天井から由良を呼ぶ。
由良は腰にくくりつけたロープを、クイクイ、と軽く引っ張った。
合図だったのか、教授に捕まる前に、一気に由良が引っ張り上げられる。
「じゃあな―――。その姿で帰れよ―――」
「返せ―――!!」
泣きながら教授が叫んだ。
最早、紳士の欠片もない。
ロープは実習室まで繋がっていた。
到達すると、ロープを引っ張っていたのはやっぱり森尾と華音だった。
「重かった…」
ロープを放した森尾の第一声がそれだ。
デジカメと、ヅラと、取り戻したネガを実習室の机の上に並べる。
なにがあったのか2人に話すと、華音は大爆笑だ。
「ひゃはははっ! ヅラだったんだ、あの教授!」
「ヅラもそうだけど、よくそこにネガがあるってわかったな…」
あたしがそう言うと、由良は自慢げに答える。
「オレの洞察力を見くびんなよ? それに、秘密を隠すなら秘密の宝箱だ。あんな散らかったところから引っ張り出すなんて面倒臭いこと、本人もイヤだろ。オレだってイヤだ」
「まあ確かに」とあたしと森尾は頷いた。
「ホームズをナメるなってことだ、ワトソン君♪」
「言っとくけど、さっきのおまえ、完全にルパンだったから。ヅラ盗ったし」
あたしがそうツッコんだあと、由良はデジカメを操作し、あの証拠写真をあたし達に見せる。
そのあとすぐに、削除ボタンを押した。
「え!?」
思わず声を上げてしまう。
由良はデジカメをポケットにしまったあと、ネガをハサミで切り刻みながら言った。
「オレ、残すの嫌いだから。それに、もうあのハゲはちょっかいだしてこねえよ♪」
細切れに切り刻まれたネガが、ひらひらと花びらのように床に舞い落ちる。
*****
森尾の部屋に、あたしと華音と森尾は集まった。
途中で、由良はまたふらりとどこかへ行ってしまった。
あたしは机に伏して落ち込む。
「結局なにもできなかった…」
「いいとこ持っていかれちゃったしねー」
向かい側に座る華音があたしの頭を撫でながら追い打ちをかけた。
さらに背中に重いものが圧し掛かる。
コーヒーを運んできた森尾は、それらをあたし達の前に置きながら言った。
「でも、由良としては嬉しかったんじゃないか?」
「え?」
なんとか顔を上げる。
「「余計なことをするな」って言ったのだって、なにかあってレンが退学になるのが嫌だから…」
「……………」
あいつがそんなことを思ってくれたのだろうか。
由良のことを知るには、1年じゃ足りない。
「お―――い、開けてくれ―――」
噂をすればなんとやら。
由良の声に伴ってノック音が聞こえた。
あたしは立ち上がり、ドアを開ける。
途端に、ずいっとなにかを突きつけられた。
ケーキの箱だ。
「……え?」
「礼」
「は?」
「言っとくけど、オレの金だからな」
茫然としたまま、両手にケーキの箱を受け取る。
そのあと、由良はあたしの横を通過して森尾の部屋へと入った。
「レン、早く持ってこいよ」
振り返ってあたしを呼ぶ。
「あ…、わ、わかった」
華音は皿を運び、森尾は由良の分のコーヒーを入れ、由良はフォークを持ちながら「まだかー」と待ちきれないという態度をとり、あたしは華音が並べた皿の上にケーキを載せていく。
それからあとはいつものように雑談で盛り上がった。
その時、ふと思ったことがあるのだが、由良はどうやって金を稼いでいるのだろうか。
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