リクエスト:君だけに咲き誇る
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・たまき
由良の部屋は、はっきり言って最悪。
部屋のあちらこちらに缶クッキーの空箱、使い終わった絵の具、ボロボロの筆、どこからか拾ってきたガラクタの山。
使いもしないクセに置くな、という話でしょ。
足の踏み場もないの。
私はべつに酷い潔癖ってわけじゃないけど、ここまで最悪だったらさすがに堪忍袋の緒が切れるわよ。
「片付けてよ!!!」
屋敷中に轟くほどの怒鳴り声を上げる。
由良はうんざりした顔で両手で両耳を塞いだ。
「鼓膜が破れる…」
「破られたくなかったら、さっさと掃除してよね、自分で(←重要)!!」
持っていた箒を由良の目の前に突きつける。
一人用のソファーに座っていた由良は露骨にため息をつき、肩を落とした。
「キビシー。キビシーぜ、タマ。そんな子に育てた覚えはねえ!」
「そんな親に育てられた覚えもないわ」
冷たく言い返してやる。
いつまで経っても由良は箒に触れようとしなかったけど、無理矢理押しつけた。
座ってるのをいいことに、由良の頭にタオルを巻き、エプロンをかけさせ、清掃員の姿にさせる。
「……………」
その格好で箒を片手に困ってる由良を見て、笑いたくなった。
ダメダメ。
ここで笑ったら、厳しい自分が崩れてしまう。
床や机に置かれた中身の入った缶クッキーや菓子類を拾い、部屋の扉を開けた。
「これ没収! 片付いてなかったらエサ抜き!」
扉を閉める直前、小さなテーブルの上に置かれた小さな植木鉢を一瞥した。
相変わらず、枯れて茶色のままだ。
なんの花だったのかさえ、わからない。
あれからずっと、あのまま。
「ペットじゃねえんだぞ! オレのクッキー返せ―――!!」
扉越しから由良の嘆きの声が聞こえたが、無視。
*****
リビングのテーブルの席に座ってオレンジジュースを飲みながら、森尾と華音に報告した。
「え゛。由良ひとりにやらせたのか?」
向かいでコーヒーを飲もうとしていた森尾が驚いた顔をする。
「あったり前でしょ。手伝うわけないじゃん」
私は当然のように言って、オレンジジュースを飲み干した。
久しぶりに大きな声を上げたから、まだ喉が渇いてる。
新たに、パックに入ったいちご牛乳(由良の没収品から拝借したもの)を飲みながら言葉を継ぐ。
「なんでも拾って来て散らかしっぱなしの由良が悪い。あんな状態が続いて病気になったらどうするのよ。昨日、イニシャルGが出てきた時はさすがに戦慄したわよ」
目の前を横切ったGを思い出しただけで鳥肌が立った。
「自分で掃除する、っていう癖もつけてほしいけど、いろんなものを拾ってくる癖も治すべきね」
「ひゃはっ、でもタマちゃんって、由良に拾われてここに来たんだよねー」
隣でカップケーキを食べていた華音が言う。
同時に、その時のことを思い出した。
今でも鮮明に覚えてる。
忘れるはずがない。
初めて能力者になって、能力者の自分を恐れた。
誰も助けてくれないのに、逃げ場所もないのに、どうにもならないのに、私は薄暗い裏路地へと逃げ込んだ。
そこで膝を抱え、ただ怯えていた。
今の自分は、もう人間じゃない。
誰かに「バケモノ」と言われてしまうかもしれない。
『死ね』
またあの声が聞こえそうで恐ろしい。
死ぬのは嫌だ。
でも、私が生きていける場所なんてあるの?
絶望が押し寄せてきたとき、自分と同じものが近付いてきていることに気付いた。
私が入って来たところからじゃない。
でも、反対側はブロック塀で行きどまりとなっていて、その前は粗大ゴミなどが捨てられていた。
反応がだんだん近づいてくる。
突然、ブロック塀にツナギの男―――由良が飛び乗った。
向こう側からだ。
敵か味方かわからず、警戒しながら窺っていると、由良は私と目を合わせたあと、無造作に置かれた粗大ゴミの前に着地し、私に背中を向けて積み上げられたゴミをあさり出した。
なにをしているのかと首を傾げたとき、由良は左手になにかをつかみ、ゴミの中から引っ張りだした。
植木鉢だ。
ヒビもなく割れてはないものの、植えられていた植物はすでに茶色くなって枯れている。
それを左腕に抱え、こちらに振り返って近付いてきた。
「なにしてんだ、そこで」
「……かまわないで」
私は目を逸らし、刺々しく言った。
それでも由良はムッと顔をしかめることなく、私を見下ろす。
あまりじっと見つめないでほしい。
期待してしまうから。
由良を見上げ、睨みつける。
「ほっといて。“仲間”としての頼み」
あまり言いたくない言葉だった。
由良はベッと舌を出し、意地悪な笑みを浮かべて言う。
「“仲間”として、断る」
同時に、右手が伸びてきた。
「ちょ…!?」
軽々と、掬いあげられるように抱え上げられる。
裏路地の出口へと足を向ける由良の胸の中で、当然私は暴れた。
「放してよ! 私、そっち行きたくない! 嫌!! お願い、放して!!」
由良は足を止めてくれない。
「私、これでも能力者なのよ! 放さないと、あんたなんか…っ」
「そうだ、そうやって言い張りながら明るいとこに出ていきゃいい。あんなジメジメしたとこにいたら、せっかくの新しい自分が咲かねえだろ」
「……「咲く」?」
暴れるのをやめ、首を傾げた。
そんな綺麗な言葉を使っていいの?
「オレ達はもうクズじゃない。それはむしろ好きになるのが当たり前だ。選ばれて、特別な種をもらったんだからな」
由良の周りにシャボン玉が浮かんだ。
目の前の光に照らされたそれは、とても美しかった。
「…綺麗」
思わず見惚れてしまった。
「おまえも、こんな綺麗なのが使えんだ。能力者になったこと、誇っていいんだぜ。宝の持ち腐れにしちゃ、もったいねえだろ?」
そう言って、由良は笑みを浮かべる。
いつの間にか光の下に出たのに、恐れることはなにもなかった。
なくなっていた。
文字通り、私は由良に拾われた
汚れた植木鉢とともに
.
由良の部屋は、はっきり言って最悪。
部屋のあちらこちらに缶クッキーの空箱、使い終わった絵の具、ボロボロの筆、どこからか拾ってきたガラクタの山。
使いもしないクセに置くな、という話でしょ。
足の踏み場もないの。
私はべつに酷い潔癖ってわけじゃないけど、ここまで最悪だったらさすがに堪忍袋の緒が切れるわよ。
「片付けてよ!!!」
屋敷中に轟くほどの怒鳴り声を上げる。
由良はうんざりした顔で両手で両耳を塞いだ。
「鼓膜が破れる…」
「破られたくなかったら、さっさと掃除してよね、自分で(←重要)!!」
持っていた箒を由良の目の前に突きつける。
一人用のソファーに座っていた由良は露骨にため息をつき、肩を落とした。
「キビシー。キビシーぜ、タマ。そんな子に育てた覚えはねえ!」
「そんな親に育てられた覚えもないわ」
冷たく言い返してやる。
いつまで経っても由良は箒に触れようとしなかったけど、無理矢理押しつけた。
座ってるのをいいことに、由良の頭にタオルを巻き、エプロンをかけさせ、清掃員の姿にさせる。
「……………」
その格好で箒を片手に困ってる由良を見て、笑いたくなった。
ダメダメ。
ここで笑ったら、厳しい自分が崩れてしまう。
床や机に置かれた中身の入った缶クッキーや菓子類を拾い、部屋の扉を開けた。
「これ没収! 片付いてなかったらエサ抜き!」
扉を閉める直前、小さなテーブルの上に置かれた小さな植木鉢を一瞥した。
相変わらず、枯れて茶色のままだ。
なんの花だったのかさえ、わからない。
あれからずっと、あのまま。
「ペットじゃねえんだぞ! オレのクッキー返せ―――!!」
扉越しから由良の嘆きの声が聞こえたが、無視。
*****
リビングのテーブルの席に座ってオレンジジュースを飲みながら、森尾と華音に報告した。
「え゛。由良ひとりにやらせたのか?」
向かいでコーヒーを飲もうとしていた森尾が驚いた顔をする。
「あったり前でしょ。手伝うわけないじゃん」
私は当然のように言って、オレンジジュースを飲み干した。
久しぶりに大きな声を上げたから、まだ喉が渇いてる。
新たに、パックに入ったいちご牛乳(由良の没収品から拝借したもの)を飲みながら言葉を継ぐ。
「なんでも拾って来て散らかしっぱなしの由良が悪い。あんな状態が続いて病気になったらどうするのよ。昨日、イニシャルGが出てきた時はさすがに戦慄したわよ」
目の前を横切ったGを思い出しただけで鳥肌が立った。
「自分で掃除する、っていう癖もつけてほしいけど、いろんなものを拾ってくる癖も治すべきね」
「ひゃはっ、でもタマちゃんって、由良に拾われてここに来たんだよねー」
隣でカップケーキを食べていた華音が言う。
同時に、その時のことを思い出した。
今でも鮮明に覚えてる。
忘れるはずがない。
初めて能力者になって、能力者の自分を恐れた。
誰も助けてくれないのに、逃げ場所もないのに、どうにもならないのに、私は薄暗い裏路地へと逃げ込んだ。
そこで膝を抱え、ただ怯えていた。
今の自分は、もう人間じゃない。
誰かに「バケモノ」と言われてしまうかもしれない。
『死ね』
またあの声が聞こえそうで恐ろしい。
死ぬのは嫌だ。
でも、私が生きていける場所なんてあるの?
絶望が押し寄せてきたとき、自分と同じものが近付いてきていることに気付いた。
私が入って来たところからじゃない。
でも、反対側はブロック塀で行きどまりとなっていて、その前は粗大ゴミなどが捨てられていた。
反応がだんだん近づいてくる。
突然、ブロック塀にツナギの男―――由良が飛び乗った。
向こう側からだ。
敵か味方かわからず、警戒しながら窺っていると、由良は私と目を合わせたあと、無造作に置かれた粗大ゴミの前に着地し、私に背中を向けて積み上げられたゴミをあさり出した。
なにをしているのかと首を傾げたとき、由良は左手になにかをつかみ、ゴミの中から引っ張りだした。
植木鉢だ。
ヒビもなく割れてはないものの、植えられていた植物はすでに茶色くなって枯れている。
それを左腕に抱え、こちらに振り返って近付いてきた。
「なにしてんだ、そこで」
「……かまわないで」
私は目を逸らし、刺々しく言った。
それでも由良はムッと顔をしかめることなく、私を見下ろす。
あまりじっと見つめないでほしい。
期待してしまうから。
由良を見上げ、睨みつける。
「ほっといて。“仲間”としての頼み」
あまり言いたくない言葉だった。
由良はベッと舌を出し、意地悪な笑みを浮かべて言う。
「“仲間”として、断る」
同時に、右手が伸びてきた。
「ちょ…!?」
軽々と、掬いあげられるように抱え上げられる。
裏路地の出口へと足を向ける由良の胸の中で、当然私は暴れた。
「放してよ! 私、そっち行きたくない! 嫌!! お願い、放して!!」
由良は足を止めてくれない。
「私、これでも能力者なのよ! 放さないと、あんたなんか…っ」
「そうだ、そうやって言い張りながら明るいとこに出ていきゃいい。あんなジメジメしたとこにいたら、せっかくの新しい自分が咲かねえだろ」
「……「咲く」?」
暴れるのをやめ、首を傾げた。
そんな綺麗な言葉を使っていいの?
「オレ達はもうクズじゃない。それはむしろ好きになるのが当たり前だ。選ばれて、特別な種をもらったんだからな」
由良の周りにシャボン玉が浮かんだ。
目の前の光に照らされたそれは、とても美しかった。
「…綺麗」
思わず見惚れてしまった。
「おまえも、こんな綺麗なのが使えんだ。能力者になったこと、誇っていいんだぜ。宝の持ち腐れにしちゃ、もったいねえだろ?」
そう言って、由良は笑みを浮かべる。
いつの間にか光の下に出たのに、恐れることはなにもなかった。
なくなっていた。
文字通り、私は由良に拾われた
汚れた植木鉢とともに
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