02:人間じゃない
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音もなく、5人の男達に囲まれてしまった。
全員、黒いスーツを着ている。
レンと兄は咄嗟に背中合わせになり、様子を窺った。
「…わかりやすい奴らだな」
「兄貴、こいつら通り魔?」
「さぁ…。どうなんだ? テメーら…」
兄が男たちに尋ねると、沈黙の代わりに男たちの奥から、黒のスーツに黄色のペイズリー柄のシャツを着た銀髪を右に流したような髪型の二十代前半の男と、迷彩服を着たツーブロックの茶髪の二十代後半の男が不気味な笑みを浮かべながらやってきた。
迷彩服の男がレンと兄を指さす。
「キミら、アンラッキー。銀夜(ぎんや)さんの練習台」
そう言い放つと、5人の男達が一斉にレン達を捕らえようと襲いかかってくる。
しかし、レンと兄は襲撃に慣れていた。
同時に不敵な笑みを浮かべ、男達の手をかわしながら殴り倒していく。
「あたしらと…」
「ケンカしようってか?」
兄は肘鉄で男のひとりの顔中央を殴りつけて一撃でおとし、レンは近くにいた別の男の足を引っ掛けて転ばせてからつま先で腹を蹴り上げるなど、いつものケンカのやり方で反撃する。
黒いスーツの男たちは呻きながら地面に倒れた。
その様子を見ていた銀髪の男―――銀夜が口笛を吹く。
「できるほうだな。強い方が実験し甲斐がある」
「喧嘩が強かろうが、オレ達の敵じゃない」
迷彩服の男が兄に向かって進むのが見えた。
兄は男の腹を膝で蹴り上げて倒したあと、こちらに向かってくる迷彩服の男を迎え撃とうとする。
「今度は、テメーが相手か?」
先手必勝と兄がコブシを振ると、迷彩服の男は余裕の表情で体をそらして避けたが、すかさず、兄は左手で迷彩服の男の肩をつかみ、顔目掛けてコブシを振るった。
しかし、迷彩服の男はそれを片手で受け止める、そのまま兄は次の攻撃に移ろうとした。
「うっ!?」
だが、迷彩服の男の目が妖しく光ったのを見て、動きを止めてしまった。
レンもその瞳に背筋が凍りつく。
人間じゃない、そう思った。
ジュウウウウッ!
「うがああああああ!!」
兄の絶叫と共に肉が腐るような腐臭が鼻を突いた。
「ぐぅぅ!!」
右手の灼熱の激痛に耐えかねた兄は、身をよじって迷彩服の男から後退する。
「あ…ッ、うわああああ!!?」
自身の右手を見ると、手首から先が、指と手のひらの骨が見えるほどボロボロと皮膚が崩れてしまった。
初めて見る錯乱状態の兄とその惨たらしい光景に、レンは冷水を浴びせられたかのように真っ青な顔で「ひッ」と声を漏らした。
兄は呻きながら傷口を押さえてその場にうずくまり、そこへ興奮で頬を紅潮させた迷彩服の服の男が兄に近づいてくる。
真っ先に反応したのはレンだ。
(兄貴が…! 兄貴が、殺される…!)
恐怖で硬直しかけた身体を無理やり動かし、迷彩服の男に殴りかかろうとしたとき、
「っ!!」
レンは右肩に痛みを覚え、不意に足を止める。
見ると、右肩に1本の釘が突き刺さっていた。
迷彩服の男の向こうにいた銀夜の腕が何かを投げた動きのまま止まっている。釘を投げつけたのは奴だとレンは理解した。
思ったようにいかなかったのか、銀夜は残念そうな顔をしている。
「あれ…、頭狙ったつもりが…、やっぱまだまだ練習が必要だな。なぁ、式條(しきじょう)」
銀夜が、迷彩服の男―――式條にふった。
「オレは至近距離からしか能力が発揮できないから不便なもんだ」
場違いの談笑だ。
(こいつら、いったい…!?)
「なんなんだよ、おまえら…」
まともな神経をしている連中ではない、とレンは痛みに耐えながら声を絞り出す。
銀夜はレンの姿を見て嘲笑いを浮かべると、腰に携えた革のケースから大量の釘をつかみ取った。
「先に女からだ」
(…っ!! 殺される……!)
案の定、抜き取った大量の釘をレンに向けて投げつけた。
放射線を描くどころか、大量の釘は一斉射撃された矢のように真っすぐにレン目がけて直線状に飛んでくる。
「く…ッ!」
釘の方が速い。
レンは反射的に腕を交差させて頭だけは守ろうとした。
その時、地面を蹴った兄がレンを前から抱きしめた。
「―――兄貴…?」
レンに痛みはない。
まさか、とおそるおそるその兄の背中を擦ると、冷たい凹凸があった。
兄は、レンに投げつけられた釘をすべて背中で受け止めたのだ。
兄を触ったレンの左手には、血がベッタリと付着している。
レンの頭の中は現状を受け取ることができない。
「あたしを…、庇っ……」
「……レン…悪…い。……オレと…親父達の分まで…生き……」
レンの頭を撫でていた兄の左手が、ずるりと落ちた。
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