短編:君と似た温もり
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・奈美
犬を拾ってから4日が経過した。
ポスターを見ていないのか、犬を見捨てたのか、飼い主は一向に現れない。
このままでは情が移ってしまう、と考えたが、もう遅かった。
叶はすっかり犬を自分の娘のように可愛がっている。
別れ際が辛くなるだけというのに。
そういう私も、すっかり情を移していた。
庭で夜鳴きをすれば駆けつけたり、食事中に見つめられるとついついあげてしまったり、フリースビーを持ってくれば、遊んであげたり。
私も、別れ際を覚悟しておかなければならない。
*****
学校から帰宅してすぐだった。
玄関に、リードを持った叶と、繋がれた犬がいた。
散歩に行こうとしているのだろう。
「おかえりー」
「キャンッ」
叶は、門をくぐった私を見つけ、手を振った。
犬は尻尾を振っている。
「ただいま」
私はしゃがんで犬の頭を撫でた。
そうしながら、叶を見上げて尋ねる。
「散歩か?」
「ああ」
叶にも母さんに色んな仕事を頼まれているはずだ。
部屋の掃除、洗濯物の取り込み、料理の手伝いなど。
犬の散歩が終わってからそれらをすべてやり遂げるつもりなのだろうか。
「私が散歩してこようか?」
気付けば、口に出していた。
叶は「え」と目を見開く。
「叶の仕事も、ひとつ減るだろ」
私は立ち上がり、通学用の鞄とリードを交換した。
叶は戸惑いながら私の鞄を受け取る。
「じゃあ…、頼もっかな。…大丈夫か?」
「し、心配するな…」
そう言ったあと、犬と一緒に門から出る。
犬は嬉しそうに私の足下を飛び跳ねた。
足首にリードが巻きついてこけそうになる。
「こ…、こら、はしゃぐな」
「キャンッ♪」
*****
叶がまわっていたコースを思い出しながら散歩させる。
住宅街を進み、公園の近くを通った。
「グルル…」
「!」
途中で凶暴そうな灰色の野犬に遭遇。
「キャンッ」
犬は怯えて私の後ろに隠れる。
野犬は唸り声をたてながら、こちらにゆっくりと近付いてきた。
明らかに犬を狙っている。
立ち止まっては近付きを繰り返した。
犬はそれを見て、ホッとしたりビクッとしたりを繰り返す。
遊ばれているとなぜわからないのか。
「……………」
呆れのため息をついたあと、野犬を睨みつけた。
「!!」
野犬が大きく飛び退き、逃げていく。
少し傷ついた。
犬は安心して後ろから出てくる。
それで「それじゃあ行こうか」と済ませる私ではない。
しゃがんで犬と目を合わせた。
「ダメじゃないか。せめて、唸るぐらいはして抵抗しないと…」
「キュウゥン…」
犬は頭を垂れて落ち込む。
メスであろうと、いつでも戦えるように心構えておくことが大事であることを教えたかっただけなのに。
太陽が灰色の雲に隠れてしまい、辺りが陰る。
雨の匂いがした。
同じことを思ったのか、犬は真上を見上げて鼻をヒクヒクとさせる。
ゴロゴロ…
遠くの方で雷の音が聞こえた。
そして、辺りが光ったかと思うと、ドン、と大きな音が響き渡った。
「キャン!!」
「!」
突然、犬が暴れ出す。
「あ…!」
勢いよく引っ張られてしまったため、リードを離してしまった。
「待って!」
慌てて追いかけたが、家と家の狭い間に入り込み、逃げてしまった。
狭い間に手を伸ばしたが、届かなかった。
茫然としている暇はない。
急いで遠回りをして犬を行方を捜した。
しかし、反対側に回ったはいいものの、犬の姿がどこにも見当たらない。
「どこに…」
頬に冷たいものが当たった。
真上を見上げると、ポツポツと、顔に落ちては伝って落ちたり、そのまま張り付いたりする。
雨だ。
寒い思いをさせてしまう、と思い、犬の捜索を続けた。
雨脚はだんだん強くなる。
鳴き声ひとつ聞こえなかった。
「私だ! 返事して!」
何度呼んでも、雨の音しか耳に入らない。
頬に濡れた髪が張りつく。
視界も悪かった。
靴の中に雨水が入る。
私が自分で引き受けたのに…。
叶にバレてしまったら、どんな顔をされるか、考えるだけでも怖い。
あれだけ可愛がっていたのに、逃がしてしまったと言ったら、叱責されるかもしれない。
いつの間にか、言いわけばかり考えていた。
再び雷鳴が轟く。
犬は今頃怯えているだろう。
「―――ミ!」
背後から聞き慣れた声が聞こえた気がした。
さっきの雷鳴でかき消されてしまったようだ。
今度ははっきり聞こえる。
「ナミ!」
立ち止まって振り返ると、レインコートを着た叶がこちらに駆け寄ってきた。
「か…のう…」
頭の中で考えていた言い訳が一瞬で吹き飛ぶ。
「犬は?」
「……誤ってリードを離してしまって……」
視線を逸らし、正直に答えた。
「え!?」
「まだこの辺りにいるかもしれない! だから…」
「……………」
今にも怒鳴り声をあげるんじゃないか、と覚悟していたが、叶は「わかった、オレも捜す」と言ったあと、レインコートを脱いだ。
それを私の前につきつける。
「これ着て」
「いや…、もう手遅れだし…、叶が…」
今の私がそれを着れば、レインコートの内側もびしょびしょになってしまう。
叶は私から視線を逸らして、言いにくそうに言った。
「…す…、透けてる…から…」
「!!?」
制服1枚であるため、雨に濡れて下着が透けて見えていた。
この格好で捜し回っていたのだ。
急いで叶からレインコートを受け取って着る。
「あ…、ありがとう…」
礼を言うのを忘れない。
「わ…、私はこっちを捜す」
「わかった。じゃあ、オレ、あっちな。またここで合流ってことで!」
叶は、私とは反対の方向へ走り出した。
私も前に向き直って走り出す。
叶のためにも、犬のためにも、私のためにも、見つけなければならない。
しかし、どれだけ捜しても、どれだけ呼んでも、犬の姿を見つけることはできなかった。
合流場所で叶と再び合流する。
先に来ていたようだ。
「いたか?」
「……………」
私はゆっくりと首を横に振った。
「そうか…」
叶は肩を落とす。
「…すまない…。私が…」
目を伏せながら謝ると、頭に叶のてのひらがのった。
思わずビクッとしてしまう。
「…一度家に帰って、懐中電灯取ってくるか。もうすぐ暗くなるし…、危ないだろ」
「……………」
「そんな顔するなよ。リードを離したのは、オレだったかもしれないし」
「でも…」
「戻ろう。な? ナミ」
この、元気づけてくれるような笑顔には逆らえない。
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犬を拾ってから4日が経過した。
ポスターを見ていないのか、犬を見捨てたのか、飼い主は一向に現れない。
このままでは情が移ってしまう、と考えたが、もう遅かった。
叶はすっかり犬を自分の娘のように可愛がっている。
別れ際が辛くなるだけというのに。
そういう私も、すっかり情を移していた。
庭で夜鳴きをすれば駆けつけたり、食事中に見つめられるとついついあげてしまったり、フリースビーを持ってくれば、遊んであげたり。
私も、別れ際を覚悟しておかなければならない。
*****
学校から帰宅してすぐだった。
玄関に、リードを持った叶と、繋がれた犬がいた。
散歩に行こうとしているのだろう。
「おかえりー」
「キャンッ」
叶は、門をくぐった私を見つけ、手を振った。
犬は尻尾を振っている。
「ただいま」
私はしゃがんで犬の頭を撫でた。
そうしながら、叶を見上げて尋ねる。
「散歩か?」
「ああ」
叶にも母さんに色んな仕事を頼まれているはずだ。
部屋の掃除、洗濯物の取り込み、料理の手伝いなど。
犬の散歩が終わってからそれらをすべてやり遂げるつもりなのだろうか。
「私が散歩してこようか?」
気付けば、口に出していた。
叶は「え」と目を見開く。
「叶の仕事も、ひとつ減るだろ」
私は立ち上がり、通学用の鞄とリードを交換した。
叶は戸惑いながら私の鞄を受け取る。
「じゃあ…、頼もっかな。…大丈夫か?」
「し、心配するな…」
そう言ったあと、犬と一緒に門から出る。
犬は嬉しそうに私の足下を飛び跳ねた。
足首にリードが巻きついてこけそうになる。
「こ…、こら、はしゃぐな」
「キャンッ♪」
*****
叶がまわっていたコースを思い出しながら散歩させる。
住宅街を進み、公園の近くを通った。
「グルル…」
「!」
途中で凶暴そうな灰色の野犬に遭遇。
「キャンッ」
犬は怯えて私の後ろに隠れる。
野犬は唸り声をたてながら、こちらにゆっくりと近付いてきた。
明らかに犬を狙っている。
立ち止まっては近付きを繰り返した。
犬はそれを見て、ホッとしたりビクッとしたりを繰り返す。
遊ばれているとなぜわからないのか。
「……………」
呆れのため息をついたあと、野犬を睨みつけた。
「!!」
野犬が大きく飛び退き、逃げていく。
少し傷ついた。
犬は安心して後ろから出てくる。
それで「それじゃあ行こうか」と済ませる私ではない。
しゃがんで犬と目を合わせた。
「ダメじゃないか。せめて、唸るぐらいはして抵抗しないと…」
「キュウゥン…」
犬は頭を垂れて落ち込む。
メスであろうと、いつでも戦えるように心構えておくことが大事であることを教えたかっただけなのに。
太陽が灰色の雲に隠れてしまい、辺りが陰る。
雨の匂いがした。
同じことを思ったのか、犬は真上を見上げて鼻をヒクヒクとさせる。
ゴロゴロ…
遠くの方で雷の音が聞こえた。
そして、辺りが光ったかと思うと、ドン、と大きな音が響き渡った。
「キャン!!」
「!」
突然、犬が暴れ出す。
「あ…!」
勢いよく引っ張られてしまったため、リードを離してしまった。
「待って!」
慌てて追いかけたが、家と家の狭い間に入り込み、逃げてしまった。
狭い間に手を伸ばしたが、届かなかった。
茫然としている暇はない。
急いで遠回りをして犬を行方を捜した。
しかし、反対側に回ったはいいものの、犬の姿がどこにも見当たらない。
「どこに…」
頬に冷たいものが当たった。
真上を見上げると、ポツポツと、顔に落ちては伝って落ちたり、そのまま張り付いたりする。
雨だ。
寒い思いをさせてしまう、と思い、犬の捜索を続けた。
雨脚はだんだん強くなる。
鳴き声ひとつ聞こえなかった。
「私だ! 返事して!」
何度呼んでも、雨の音しか耳に入らない。
頬に濡れた髪が張りつく。
視界も悪かった。
靴の中に雨水が入る。
私が自分で引き受けたのに…。
叶にバレてしまったら、どんな顔をされるか、考えるだけでも怖い。
あれだけ可愛がっていたのに、逃がしてしまったと言ったら、叱責されるかもしれない。
いつの間にか、言いわけばかり考えていた。
再び雷鳴が轟く。
犬は今頃怯えているだろう。
「―――ミ!」
背後から聞き慣れた声が聞こえた気がした。
さっきの雷鳴でかき消されてしまったようだ。
今度ははっきり聞こえる。
「ナミ!」
立ち止まって振り返ると、レインコートを着た叶がこちらに駆け寄ってきた。
「か…のう…」
頭の中で考えていた言い訳が一瞬で吹き飛ぶ。
「犬は?」
「……誤ってリードを離してしまって……」
視線を逸らし、正直に答えた。
「え!?」
「まだこの辺りにいるかもしれない! だから…」
「……………」
今にも怒鳴り声をあげるんじゃないか、と覚悟していたが、叶は「わかった、オレも捜す」と言ったあと、レインコートを脱いだ。
それを私の前につきつける。
「これ着て」
「いや…、もう手遅れだし…、叶が…」
今の私がそれを着れば、レインコートの内側もびしょびしょになってしまう。
叶は私から視線を逸らして、言いにくそうに言った。
「…す…、透けてる…から…」
「!!?」
制服1枚であるため、雨に濡れて下着が透けて見えていた。
この格好で捜し回っていたのだ。
急いで叶からレインコートを受け取って着る。
「あ…、ありがとう…」
礼を言うのを忘れない。
「わ…、私はこっちを捜す」
「わかった。じゃあ、オレ、あっちな。またここで合流ってことで!」
叶は、私とは反対の方向へ走り出した。
私も前に向き直って走り出す。
叶のためにも、犬のためにも、私のためにも、見つけなければならない。
しかし、どれだけ捜しても、どれだけ呼んでも、犬の姿を見つけることはできなかった。
合流場所で叶と再び合流する。
先に来ていたようだ。
「いたか?」
「……………」
私はゆっくりと首を横に振った。
「そうか…」
叶は肩を落とす。
「…すまない…。私が…」
目を伏せながら謝ると、頭に叶のてのひらがのった。
思わずビクッとしてしまう。
「…一度家に帰って、懐中電灯取ってくるか。もうすぐ暗くなるし…、危ないだろ」
「……………」
「そんな顔するなよ。リードを離したのは、オレだったかもしれないし」
「でも…」
「戻ろう。な? ナミ」
この、元気づけてくれるような笑顔には逆らえない。
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