短編:君と似た温もり
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・奈美
その日から、私と叶の、仔犬の世話生活が始まった。
一応、仔犬の性別はメスらしい。
名前はどうするのかと聞いたところ、
「飼い主いるしなぁ…。いきなり新しい名前で呼ぶと困惑すると思うから、『犬』で!」
人間の場合、『人間』と呼ばれるようなものだ。
それに、その仔犬が、自分の新しい名前は『犬』と理解してしまったらどうする気なのだろうか。
しかし、私はなにも言わなかった。
呼び名の解決策は、さすがに思いつかない。
まあ、それでいいか、と諦めた。
せめて、首輪に名前とか書いてほしいものだ。
「犬ー、フロ入ろうぜー」
さっそく、泥だらけで汚れた犬の体を洗い流そうと浴室へと向かう。
私もあとに続いた。
浴室に入る前に、叶はズボンの裾を捲る。
私は制服のスカートをはいているため、その必要はなかった。
犬を浴室に入れ、シャワーの温度を確認してから犬の頭上に一気に浴びせる。
その間、犬は大人しくしていた。
犬の横にしゃがんだ叶は、目に映ったボディーソープを手にし、犬の体を洗おうとする。
「人間用を使っても、大丈夫なのか?」
私が背後から声をかけると、叶の手が止まった。
「そういや、犬用のシャンプーって…」
「無論、ない!」
きっぱりと言い放つ。
なんて無計画なんだと呆れた。
「う~ん…。じゃあ、肌に優しい石鹸で!」
アバウトである。
ボディーソープを元の位置に置き、その隣にあった石鹸を手に取った。
泡立てて、犬の体を丁寧に洗っていく。
※犬はちゃんと犬用のシャンプーで洗うこと
全身が毛で覆われているため、犬の体がたちまち泡にまみれていった。
最後は、羊のような姿になる。
それを見て、叶が笑い出し、私もつられて笑ってしまった。
犬は、どうして笑われているのかわからない、と言いたげに首を傾げる。
浴室に2人分の笑い声が響いたあと、全身を覆っていた泡をシャワーで流した。
なんだか、痩せたように見える。
「エラいぞ」
叶がそう褒め、犬の体を拭こうとしたとき、突然、犬が体を振るわせて飛沫を飛ばした。
「「!!」」
私と叶の服が濡れてしまった。
「躾が…必要だな」
頬に付着した水滴を、手の甲で拭う。
「おう…」
最も近くにいた叶は、髪まで濡れていた。
「キャンキャン」
犬が叶の持っているタオルに飛びつく。
自分で勝手に拭く様子だ。
ある意味、叶より賢い。
翌日、学校に行こうと縁側を渡る途中だった。
「ナミ、できた!」
立ち止まって、障子の開けられた隣の部屋を見ると、叶と犬が一緒にいた。
叶は、A4の紙に、カラーペンを使って描いた絵を私に見せる。
動物の絵の下に、“飼い主捜してます!”という字と電話番号が大きく書かれていた。
「……ブタ?」
「犬だ―――!」
絵の中の犬は、鼻が少し大きい。
「!!」
その絵を見た犬自身も、ショックを受けているようだ。
表情の豊かな犬である。
「そんなに似てねえかな…」
叶はすっかり落ち込んでしまった。
自分が描いた絵を見つめながら、肩を落としている。
そこでまた私は提案を出した。
「絵じゃわかりづらいから、写真はどうだ?」
「あ、なるほど」
叶は両手を鳴らし、納得する。
犬も「それがいい」と言いたいのか、私の周りをくるくると回った。
「帰りに、使い捨てカメラ買ってくる」と言って、私は家を出て学校へと向かった。
*****
通学している学校の教室で、休み時間、友達に犬の話題を持ち出した。
「え? 奈美、犬飼い始めたの?」
「飼い主が見つかるまでだけど…」
そう言って苦笑する。
「で、犬について相談って?」
「うん、世話の仕方と躾に困ってて…」
「悪さしちゃうのかー」
「そう…」
畳の部屋で用を足してしまったり、障子を破ってしまったり、畳んだばかりの洗濯物を散らかしたりなど。
父さんと母さんに見つかる前に、叶と協力して片づけたが、これ以上続くようだと見つかるのも時間の問題だろう。
そのことを友達に話すと、友達は腹を抱えて笑った。
「あははっ、そりゃ悲惨―――」
「笑わないで。真面目に聞いてるのに…」
ムッと顔をしかめると、友達は笑ったまま両手を合わせて謝る。
「ごめんごめん。わかった。昼休みに教えてあげる」
「ありがとう」
初めてのことに戸惑った時は、経験者に聞くのが一番だ。
これで叶の苦労も減るし、喜んでくれるだろう。
*****
近くのコンビニで使い捨てカメラを買うことを忘れず、家に帰宅した。
「ただいま」
母さんがいる台所に顔を出したあと、縁側を渡った。
今朝、叶と犬がいた部屋を覗いてみる。
「「Zz…」」
叶は畳の上で大の字になり、犬は叶の右腕に頭をのせて眠っていた。
「……………」
通学用鞄の中を探り、買ったばかりの使い捨てカメラを取り出し、睡眠中の叶と犬にレンズを向け、シャッターを切る。
ちゃんと室内向けにすることを忘れなかったので、部屋の中が一瞬光った。
幸い、どちらも起きない。
思わず笑みをこぼした。
エサは幼い犬用のドッグフード、悪いことをしたらちゃんと叱ること、若いうちは適度に遊ばせることなど。
友達から教わったことを書いたメモを見ながら、私と叶は犬の世話をしていった。
「キャンッ、キャンッ」
「わっ、ナミ!」
犬のリードをつけたことがなかったため、誤って首を絞め、殺害しかけてしまう。
仕方なく叶に交代してもらい、リードをつけてもらった。
私と違って器用である。
散歩から戻ったら、練習しなくていけない。
しかし、マシになっても、それから犬がリードをつけさせてくれることはなかった。
完全に怯えてしまったらしい。
私の手からリードを奪い取ったあと、すぐに叶のところへ持って行ってしまうのだ。
散歩している間は、私達は犬のポスターを電柱や壁に貼っていった。
雨が降れば剥がれてしまうのが心配だ。
*****
庭は犬にとっては絶好の遊び場だ。
「ほら、とってこーい」
縁側に座った叶がフリースビーを投げる。
犬はそれを目で追いかけ、落ちる直前に咥えてキャッチした。
私は、叶の後ろに立ってその光景を感心の眼差しで眺める。
「賢いな」
「だろー? 飼い主にも、こうやって遊んでもらったんだろな」
叶はそう言って、穏やかな笑みを浮かべた。
犬がフリースビーを持って叶のもとへ戻ってくる。
「よしよし」
頭を撫で、もう一度フリースビーを投げた。
「それ!」
犬はまたそれを追いかける。
しかし、フリースビーは先程と違い、風のせいか、大きくカーブしてしまった。
私と叶はそれを目で追いかける。
フリースビーの先には、ハサミを片手に盆栽の手入れをしている父さんの姿があった。
「あ」と私と叶の声が重なる。
コ―――ン!
フリースビーが父さんの左側頭部に直撃した。
ジョギッ
さらに悪いことに、そのせいで父さんの手元が狂い、盆栽の枝を切ってしまった。
犬を除き、全員、一時停止。
父さんは首だけを動かし、落ちたフリースビーに駆け寄った犬を見下ろしたあと、こちらに顔を向ける。
「……………」
叶の腕は、フリースビーを投げたあとのまま、伸ばされていた。
誤魔化すのが難しい。
父さんはハサミを鳴らした。
「……………」
3秒後、命懸けの追いかけっこが始まる。
家中に叶の悲鳴が轟いた。
近所に悪い噂がたたなければいいのだが。
「キャンッ」
犬がフリースビーを咥え、こちらを見上げている。
「……………」
ポケットから使い捨てカメラを取り出し、その姿を写したあと、縁側に座って犬の口からフリースビーを受け取って投げた。
犬は嬉しそうにそれを追いかける。
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その日から、私と叶の、仔犬の世話生活が始まった。
一応、仔犬の性別はメスらしい。
名前はどうするのかと聞いたところ、
「飼い主いるしなぁ…。いきなり新しい名前で呼ぶと困惑すると思うから、『犬』で!」
人間の場合、『人間』と呼ばれるようなものだ。
それに、その仔犬が、自分の新しい名前は『犬』と理解してしまったらどうする気なのだろうか。
しかし、私はなにも言わなかった。
呼び名の解決策は、さすがに思いつかない。
まあ、それでいいか、と諦めた。
せめて、首輪に名前とか書いてほしいものだ。
「犬ー、フロ入ろうぜー」
さっそく、泥だらけで汚れた犬の体を洗い流そうと浴室へと向かう。
私もあとに続いた。
浴室に入る前に、叶はズボンの裾を捲る。
私は制服のスカートをはいているため、その必要はなかった。
犬を浴室に入れ、シャワーの温度を確認してから犬の頭上に一気に浴びせる。
その間、犬は大人しくしていた。
犬の横にしゃがんだ叶は、目に映ったボディーソープを手にし、犬の体を洗おうとする。
「人間用を使っても、大丈夫なのか?」
私が背後から声をかけると、叶の手が止まった。
「そういや、犬用のシャンプーって…」
「無論、ない!」
きっぱりと言い放つ。
なんて無計画なんだと呆れた。
「う~ん…。じゃあ、肌に優しい石鹸で!」
アバウトである。
ボディーソープを元の位置に置き、その隣にあった石鹸を手に取った。
泡立てて、犬の体を丁寧に洗っていく。
※犬はちゃんと犬用のシャンプーで洗うこと
全身が毛で覆われているため、犬の体がたちまち泡にまみれていった。
最後は、羊のような姿になる。
それを見て、叶が笑い出し、私もつられて笑ってしまった。
犬は、どうして笑われているのかわからない、と言いたげに首を傾げる。
浴室に2人分の笑い声が響いたあと、全身を覆っていた泡をシャワーで流した。
なんだか、痩せたように見える。
「エラいぞ」
叶がそう褒め、犬の体を拭こうとしたとき、突然、犬が体を振るわせて飛沫を飛ばした。
「「!!」」
私と叶の服が濡れてしまった。
「躾が…必要だな」
頬に付着した水滴を、手の甲で拭う。
「おう…」
最も近くにいた叶は、髪まで濡れていた。
「キャンキャン」
犬が叶の持っているタオルに飛びつく。
自分で勝手に拭く様子だ。
ある意味、叶より賢い。
翌日、学校に行こうと縁側を渡る途中だった。
「ナミ、できた!」
立ち止まって、障子の開けられた隣の部屋を見ると、叶と犬が一緒にいた。
叶は、A4の紙に、カラーペンを使って描いた絵を私に見せる。
動物の絵の下に、“飼い主捜してます!”という字と電話番号が大きく書かれていた。
「……ブタ?」
「犬だ―――!」
絵の中の犬は、鼻が少し大きい。
「!!」
その絵を見た犬自身も、ショックを受けているようだ。
表情の豊かな犬である。
「そんなに似てねえかな…」
叶はすっかり落ち込んでしまった。
自分が描いた絵を見つめながら、肩を落としている。
そこでまた私は提案を出した。
「絵じゃわかりづらいから、写真はどうだ?」
「あ、なるほど」
叶は両手を鳴らし、納得する。
犬も「それがいい」と言いたいのか、私の周りをくるくると回った。
「帰りに、使い捨てカメラ買ってくる」と言って、私は家を出て学校へと向かった。
*****
通学している学校の教室で、休み時間、友達に犬の話題を持ち出した。
「え? 奈美、犬飼い始めたの?」
「飼い主が見つかるまでだけど…」
そう言って苦笑する。
「で、犬について相談って?」
「うん、世話の仕方と躾に困ってて…」
「悪さしちゃうのかー」
「そう…」
畳の部屋で用を足してしまったり、障子を破ってしまったり、畳んだばかりの洗濯物を散らかしたりなど。
父さんと母さんに見つかる前に、叶と協力して片づけたが、これ以上続くようだと見つかるのも時間の問題だろう。
そのことを友達に話すと、友達は腹を抱えて笑った。
「あははっ、そりゃ悲惨―――」
「笑わないで。真面目に聞いてるのに…」
ムッと顔をしかめると、友達は笑ったまま両手を合わせて謝る。
「ごめんごめん。わかった。昼休みに教えてあげる」
「ありがとう」
初めてのことに戸惑った時は、経験者に聞くのが一番だ。
これで叶の苦労も減るし、喜んでくれるだろう。
*****
近くのコンビニで使い捨てカメラを買うことを忘れず、家に帰宅した。
「ただいま」
母さんがいる台所に顔を出したあと、縁側を渡った。
今朝、叶と犬がいた部屋を覗いてみる。
「「Zz…」」
叶は畳の上で大の字になり、犬は叶の右腕に頭をのせて眠っていた。
「……………」
通学用鞄の中を探り、買ったばかりの使い捨てカメラを取り出し、睡眠中の叶と犬にレンズを向け、シャッターを切る。
ちゃんと室内向けにすることを忘れなかったので、部屋の中が一瞬光った。
幸い、どちらも起きない。
思わず笑みをこぼした。
エサは幼い犬用のドッグフード、悪いことをしたらちゃんと叱ること、若いうちは適度に遊ばせることなど。
友達から教わったことを書いたメモを見ながら、私と叶は犬の世話をしていった。
「キャンッ、キャンッ」
「わっ、ナミ!」
犬のリードをつけたことがなかったため、誤って首を絞め、殺害しかけてしまう。
仕方なく叶に交代してもらい、リードをつけてもらった。
私と違って器用である。
散歩から戻ったら、練習しなくていけない。
しかし、マシになっても、それから犬がリードをつけさせてくれることはなかった。
完全に怯えてしまったらしい。
私の手からリードを奪い取ったあと、すぐに叶のところへ持って行ってしまうのだ。
散歩している間は、私達は犬のポスターを電柱や壁に貼っていった。
雨が降れば剥がれてしまうのが心配だ。
*****
庭は犬にとっては絶好の遊び場だ。
「ほら、とってこーい」
縁側に座った叶がフリースビーを投げる。
犬はそれを目で追いかけ、落ちる直前に咥えてキャッチした。
私は、叶の後ろに立ってその光景を感心の眼差しで眺める。
「賢いな」
「だろー? 飼い主にも、こうやって遊んでもらったんだろな」
叶はそう言って、穏やかな笑みを浮かべた。
犬がフリースビーを持って叶のもとへ戻ってくる。
「よしよし」
頭を撫で、もう一度フリースビーを投げた。
「それ!」
犬はまたそれを追いかける。
しかし、フリースビーは先程と違い、風のせいか、大きくカーブしてしまった。
私と叶はそれを目で追いかける。
フリースビーの先には、ハサミを片手に盆栽の手入れをしている父さんの姿があった。
「あ」と私と叶の声が重なる。
コ―――ン!
フリースビーが父さんの左側頭部に直撃した。
ジョギッ
さらに悪いことに、そのせいで父さんの手元が狂い、盆栽の枝を切ってしまった。
犬を除き、全員、一時停止。
父さんは首だけを動かし、落ちたフリースビーに駆け寄った犬を見下ろしたあと、こちらに顔を向ける。
「……………」
叶の腕は、フリースビーを投げたあとのまま、伸ばされていた。
誤魔化すのが難しい。
父さんはハサミを鳴らした。
「……………」
3秒後、命懸けの追いかけっこが始まる。
家中に叶の悲鳴が轟いた。
近所に悪い噂がたたなければいいのだが。
「キャンッ」
犬がフリースビーを咥え、こちらを見上げている。
「……………」
ポケットから使い捨てカメラを取り出し、その姿を写したあと、縁側に座って犬の口からフリースビーを受け取って投げた。
犬は嬉しそうにそれを追いかける。
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