短編:君と似た温もり
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・奈美
学校から帰ってきた私は、自分の部屋で、机に向かって宿題をしていた。
先に数学の宿題に手をつけていた。
先程から、背後の窓からは雨の音が聞こえている。
「……………」
時計に目を移すと、5時をまわっていた。
鉛筆をノートの脇に置き、立ち上がって窓に近付いた。
叶のやつ、大丈夫なのか…。
母さんからは、「30分前にお使いに行ってもらったから、もうすぐで帰ってくるはずよ」と聞いていたが、いつまで経っても、下の階から叶の声が聞こえてくることはない。
いつも犬のようにうるさいので、いるかどうかははっきりわかる。
だからといって、わざわざ下の階に下りて母さんに聞くと、なにを言われることやら。
女子高生のように、男女の関係に盛り上がるのだから、あまりそれらしいことはしない方がよさそうだ。
ため息をつき、窓の障子を閉めようとしたとき、庭の端にいる人影が目の端に映った。
「叶?」
傘もささず、腹を抱えたまま落ち着きがない。
辺りを見回し、コソコソと家の裏口に入った。
なにか隠している、と思った私は、すぐに叶のところへと走る。
*****
裏口は台所に繋がっている。
こちらに背を向け、右手で腹を抱え、左手で靴を脱ごうとしている叶は、台所に入った私に気付かない。
叶がこちらに振り返る前に、声をかけてみた。
「叶」
「おわ!!」
瞬間、叶は大声をあげて飛び上がった。
思わず私まで驚いてしまう。
「な…、なに?」
「ナ…、ナミか…。びっくりしたぁ~」
叶はよほど驚いたのか、私の姿を確認したあと、へたりと床に座り込んだ。
私は叶に近付き、その目の前にしゃがんで目線を合わせる。
「なぜ裏口から?」
「ちょっと…、事情があって…」
父さんとまたなにかあったのだろうか。
「ずぶ濡れじゃないか。ちょっと待ってて…」
叶の髪から垂れる雫が床に落ち、叶がずぶ濡れなことにやっと気付いた私は、タオルを取ってこようと立ち上がる。
「あ、コラ! 動くな!」
「え?」
立ち止まって叶に振り返る。
すると、叶が突然笑い声を上げた。
「ぎゃははは! や、やめろって!」
「私はなにも…」
おかしくなったのかと心配したとき、叶の腹部分の服がモゾモゾと動きだした。
「!?」
私は思わず身構える。
しばらくして、叶の服の下から、ころんっ、と小さなものが転がり落ちた。
小さくて、薄い茶色の毛皮に覆われ、つぶらな黒目が愛らしい。
「キャンッ」
「あ…」
仔犬だ。
「悪い…。拾ってきた」
叶は苦笑し、自分の後頭部を掻く。
仔犬はまた「キャンッ」と小さく鳴いた。
私と叶は仔犬をつれて自分の部屋へと戻ってきた。
叶はずぶ濡れになって重くなった上の服を脱ぎ、私が渡したタオルで体を拭き始める。
「どうする気だ…」
「キャンッ、キャンッ」
仔犬は先程から叶の周りを何周も走っていた。
飽きる様子を見せない。
「飼い主を捜す」
仔犬の首には赤色の首輪がついていた。
だから、捨て犬ではないと思ったのだろう。
「捜すとは言っても、どうやって…」
「う~ん…」
そこまで考えてはいなかったらしい。
先のことを考えているのか、いないのか。
叶は仔犬を両手で抱き上げ、見つめ合いながら難しい顔で考え込む。
そこで私は提案を出そうとした。
「じゃあ…」
「保健所はダメだぞ!!」
「キュウゥ…」
言い出す前に勘違いされてしまう。
私は呆れた表情で首を横に振った。
「じゃなくて、ポスターを作って電柱や壁に貼って捜すのはどうかな? その方が見つかりやすいと思う。飼い主が見つからなかったとしても、別の人が育ててくれるかもしれないし…」
2匹の犬の表情がパッと明るくなる。
「ナミ、頭良い!」
「キャンッ」
顔を真っ赤にして照れてしまった。
「いや…、そんな……」
誰もが考えそうなことを言ったつもりなのだが、褒められたことを素直に喜んでいいのか複雑だ。
照れを誤魔化すように、前髪に触れる。
「しかし、問題は、母さん達が許してくれるかどうか…」
叶は問題をぶつけられて、仰向けに倒れた。
「それなんだよなー。特に父ちゃん…」
父さんは絶対反対するだろう。
叶もここに居候して長くなるし、父さんがどういう人か十分に理解しているようだ。
私と叶が「うーん」と考え込んでいる時でも、仔犬は呑気に畳の上をゴロゴロと転がっている。
この部屋が気に入ったのかもしれない。
思わず口元が緩む。
叶も口元を緩ませていた。
これが動物独特の癒しというものなのだろう。
「キャンッ」
仔犬はこちらに振り返って鳴いた。
「なにかいるのか?」
下から聞こえた父さんの声に、心臓が跳ねる。
稽古を終えたばかりなのだろう。
2階に向かう階段を通過しようとしたとき、仔犬の鳴き声を聞かれてしまったようだ。
階段を上がる音が聞こえる。
私と叶は顔を見合わせ、「どうしよう、どうしよう」と部屋中を慌てふためいた。
「入るぞ」と声が聞こえ、襖が開けられる。
「あ、父さん…」
「ど…、ども…」
私と叶は父さんに背中を向けた状態で座っていた。
しかし、半裸の叶を見て黙っている父ではない。
「貴様、なんという格好で…」
やはり稽古から戻ってきたばかりだったようだ。
片手に木刀を持っている。
私はすぐにフォローした。
「違うの、父さん。ずぶ濡れだったから、乾いたタオルと服を貸そうと…」
「お…、お借りしてます…」
叶はぎこちない笑みを向けながら、タオルで頭を拭いている。
「……………」
明らかに怪しまれている。
父さんの視線がチクチクと私の体に刺さった。
「奈美、こっちを向け」
「……………」
苦しくなり、言われるままに、父さんに振り返る。
父さんの視線は、私の膨らんだ腹部をとらえた。
叶は半裸なので、服の下に隠すことができなかったのだ。
さっきから腹部がくすぐったい。
笑いたいのを唇を噛んで耐えた。
「なにを腹に入れている?」
父さんの視線がおなかに刺さった気がする。
私が正直に言おうと口を開いたとき、叶が突然、父さんに土下座をした。
自分で正直に言うつもりだ。
「すみません!! ナミの腹には、子どもがいるんです!!!」
その言葉は家中に響いたに違いない。
その場の空気が凍りついた。
「…子どもじゃなくて…、仔い……」
訂正しようとしたとき、殺気を感じ取り、思わず言葉を引っ込めてしまった。
真っ正面から痛いくらい感じる。
気のせいか、父さんの背後に阿修羅が見えた。
「………この……」
父さんは木刀の柄から下をスラリと外す。
下は真剣となっていた。
「不埒者があああああ!!!」
「ギャァァァァァァァ!!!?」
叶に切りかかる父さん。
「嫁入り前の大事な一人娘を傷モノにしよってええええええ!!!」
真剣を振り回す父さんの脇を通り抜け、叶は1階へと逃走した。
父さんはそれを怒りの形相で追いかける。
「こ―――ろ―――さ―――れ―――る―――っっ!!!」
下から叶の叫びが聞こえた。
「キュウン…」
「まだ出てきちゃダメ」
服の下から出ようとする仔犬に言う。
今出たら、巻き添えを食らってしまうからだ。
*****
切り捨てられ、手当てをしてミイラ男の姿になり果てた叶は、私とともに父さんに道場に呼び出され、仔犬をつれてそこに行った。
道場の奥には、父さんと母さんが正坐をして座っている。
私と叶は2人の前に正坐し、仔犬のことを話した。
ワケを聞いた父さんは、腕を組んで睨みつけるように、叶と、叶に抱かれた仔犬を交互に見る。
その反対に、母さんは優しい笑みを浮かべて両手を合わせた。
「まあ、仔犬を? エラいわね、叶さん」
「雨の中、寒そうだったので…」
叶は、膝の上で丸くなっている仔犬を見下ろし、優しい笑みを向ける。
不意にその仔犬が羨ましくなった。
「ダメ…かな…?」
私は、父さんより先に母さんに尋ねる。
母さんは笑みを浮かべたまま頷いた。
「いいわよ」
しかし、父さんは承諾してくれない。
母さんに顔を向け、声を上げて叱った。
「おまえ! 勝手に決めるな! ここは神聖な道場だぞ!」
どうしてこんなに頑固なのだろう。
叶がつれてきたのが気に入らないだけではないのか。
母さんは「いいじゃないですか」となだめようとしてくれるが、父さんは首を縦には振らない。
叶は必死に頼んだ。
「飼い主見つかるまで、オレ達がしっかり面倒を見ますから!」
「くどい!」
すると、叶の膝の上で丸くなっていた仔犬が立ち上がり、膝から降りて父さんのもとへと歩み寄った。
私達の視線は仔犬を追いかける。
「キャンッ」
仔犬は父さんの膝に額を擦りつけたあと、その膝にのって丸くなった。
叶は口を開け、両手をウロウロさせて困惑している。
父さんは動くことができずに困惑していた。
「あなた…」
母さんは優しく声をかけて微笑む。
それを見た父さんは、仔犬の頭を撫で、小さく言った。
「……責任を持って面倒を見たいのなら…、好きにしろ」
正直、娘の私も驚きだ。
あの父さんが快諾した。
「あ、ありがとうございます~!」
叶に尻尾があれば、今、パタパタと嬉しそうに振っていることだろう。
我が家にもう一匹、犬が増えた。
2匹とも、番犬でないことは確かだ。
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学校から帰ってきた私は、自分の部屋で、机に向かって宿題をしていた。
先に数学の宿題に手をつけていた。
先程から、背後の窓からは雨の音が聞こえている。
「……………」
時計に目を移すと、5時をまわっていた。
鉛筆をノートの脇に置き、立ち上がって窓に近付いた。
叶のやつ、大丈夫なのか…。
母さんからは、「30分前にお使いに行ってもらったから、もうすぐで帰ってくるはずよ」と聞いていたが、いつまで経っても、下の階から叶の声が聞こえてくることはない。
いつも犬のようにうるさいので、いるかどうかははっきりわかる。
だからといって、わざわざ下の階に下りて母さんに聞くと、なにを言われることやら。
女子高生のように、男女の関係に盛り上がるのだから、あまりそれらしいことはしない方がよさそうだ。
ため息をつき、窓の障子を閉めようとしたとき、庭の端にいる人影が目の端に映った。
「叶?」
傘もささず、腹を抱えたまま落ち着きがない。
辺りを見回し、コソコソと家の裏口に入った。
なにか隠している、と思った私は、すぐに叶のところへと走る。
*****
裏口は台所に繋がっている。
こちらに背を向け、右手で腹を抱え、左手で靴を脱ごうとしている叶は、台所に入った私に気付かない。
叶がこちらに振り返る前に、声をかけてみた。
「叶」
「おわ!!」
瞬間、叶は大声をあげて飛び上がった。
思わず私まで驚いてしまう。
「な…、なに?」
「ナ…、ナミか…。びっくりしたぁ~」
叶はよほど驚いたのか、私の姿を確認したあと、へたりと床に座り込んだ。
私は叶に近付き、その目の前にしゃがんで目線を合わせる。
「なぜ裏口から?」
「ちょっと…、事情があって…」
父さんとまたなにかあったのだろうか。
「ずぶ濡れじゃないか。ちょっと待ってて…」
叶の髪から垂れる雫が床に落ち、叶がずぶ濡れなことにやっと気付いた私は、タオルを取ってこようと立ち上がる。
「あ、コラ! 動くな!」
「え?」
立ち止まって叶に振り返る。
すると、叶が突然笑い声を上げた。
「ぎゃははは! や、やめろって!」
「私はなにも…」
おかしくなったのかと心配したとき、叶の腹部分の服がモゾモゾと動きだした。
「!?」
私は思わず身構える。
しばらくして、叶の服の下から、ころんっ、と小さなものが転がり落ちた。
小さくて、薄い茶色の毛皮に覆われ、つぶらな黒目が愛らしい。
「キャンッ」
「あ…」
仔犬だ。
「悪い…。拾ってきた」
叶は苦笑し、自分の後頭部を掻く。
仔犬はまた「キャンッ」と小さく鳴いた。
私と叶は仔犬をつれて自分の部屋へと戻ってきた。
叶はずぶ濡れになって重くなった上の服を脱ぎ、私が渡したタオルで体を拭き始める。
「どうする気だ…」
「キャンッ、キャンッ」
仔犬は先程から叶の周りを何周も走っていた。
飽きる様子を見せない。
「飼い主を捜す」
仔犬の首には赤色の首輪がついていた。
だから、捨て犬ではないと思ったのだろう。
「捜すとは言っても、どうやって…」
「う~ん…」
そこまで考えてはいなかったらしい。
先のことを考えているのか、いないのか。
叶は仔犬を両手で抱き上げ、見つめ合いながら難しい顔で考え込む。
そこで私は提案を出そうとした。
「じゃあ…」
「保健所はダメだぞ!!」
「キュウゥ…」
言い出す前に勘違いされてしまう。
私は呆れた表情で首を横に振った。
「じゃなくて、ポスターを作って電柱や壁に貼って捜すのはどうかな? その方が見つかりやすいと思う。飼い主が見つからなかったとしても、別の人が育ててくれるかもしれないし…」
2匹の犬の表情がパッと明るくなる。
「ナミ、頭良い!」
「キャンッ」
顔を真っ赤にして照れてしまった。
「いや…、そんな……」
誰もが考えそうなことを言ったつもりなのだが、褒められたことを素直に喜んでいいのか複雑だ。
照れを誤魔化すように、前髪に触れる。
「しかし、問題は、母さん達が許してくれるかどうか…」
叶は問題をぶつけられて、仰向けに倒れた。
「それなんだよなー。特に父ちゃん…」
父さんは絶対反対するだろう。
叶もここに居候して長くなるし、父さんがどういう人か十分に理解しているようだ。
私と叶が「うーん」と考え込んでいる時でも、仔犬は呑気に畳の上をゴロゴロと転がっている。
この部屋が気に入ったのかもしれない。
思わず口元が緩む。
叶も口元を緩ませていた。
これが動物独特の癒しというものなのだろう。
「キャンッ」
仔犬はこちらに振り返って鳴いた。
「なにかいるのか?」
下から聞こえた父さんの声に、心臓が跳ねる。
稽古を終えたばかりなのだろう。
2階に向かう階段を通過しようとしたとき、仔犬の鳴き声を聞かれてしまったようだ。
階段を上がる音が聞こえる。
私と叶は顔を見合わせ、「どうしよう、どうしよう」と部屋中を慌てふためいた。
「入るぞ」と声が聞こえ、襖が開けられる。
「あ、父さん…」
「ど…、ども…」
私と叶は父さんに背中を向けた状態で座っていた。
しかし、半裸の叶を見て黙っている父ではない。
「貴様、なんという格好で…」
やはり稽古から戻ってきたばかりだったようだ。
片手に木刀を持っている。
私はすぐにフォローした。
「違うの、父さん。ずぶ濡れだったから、乾いたタオルと服を貸そうと…」
「お…、お借りしてます…」
叶はぎこちない笑みを向けながら、タオルで頭を拭いている。
「……………」
明らかに怪しまれている。
父さんの視線がチクチクと私の体に刺さった。
「奈美、こっちを向け」
「……………」
苦しくなり、言われるままに、父さんに振り返る。
父さんの視線は、私の膨らんだ腹部をとらえた。
叶は半裸なので、服の下に隠すことができなかったのだ。
さっきから腹部がくすぐったい。
笑いたいのを唇を噛んで耐えた。
「なにを腹に入れている?」
父さんの視線がおなかに刺さった気がする。
私が正直に言おうと口を開いたとき、叶が突然、父さんに土下座をした。
自分で正直に言うつもりだ。
「すみません!! ナミの腹には、子どもがいるんです!!!」
その言葉は家中に響いたに違いない。
その場の空気が凍りついた。
「…子どもじゃなくて…、仔い……」
訂正しようとしたとき、殺気を感じ取り、思わず言葉を引っ込めてしまった。
真っ正面から痛いくらい感じる。
気のせいか、父さんの背後に阿修羅が見えた。
「………この……」
父さんは木刀の柄から下をスラリと外す。
下は真剣となっていた。
「不埒者があああああ!!!」
「ギャァァァァァァァ!!!?」
叶に切りかかる父さん。
「嫁入り前の大事な一人娘を傷モノにしよってええええええ!!!」
真剣を振り回す父さんの脇を通り抜け、叶は1階へと逃走した。
父さんはそれを怒りの形相で追いかける。
「こ―――ろ―――さ―――れ―――る―――っっ!!!」
下から叶の叫びが聞こえた。
「キュウン…」
「まだ出てきちゃダメ」
服の下から出ようとする仔犬に言う。
今出たら、巻き添えを食らってしまうからだ。
*****
切り捨てられ、手当てをしてミイラ男の姿になり果てた叶は、私とともに父さんに道場に呼び出され、仔犬をつれてそこに行った。
道場の奥には、父さんと母さんが正坐をして座っている。
私と叶は2人の前に正坐し、仔犬のことを話した。
ワケを聞いた父さんは、腕を組んで睨みつけるように、叶と、叶に抱かれた仔犬を交互に見る。
その反対に、母さんは優しい笑みを浮かべて両手を合わせた。
「まあ、仔犬を? エラいわね、叶さん」
「雨の中、寒そうだったので…」
叶は、膝の上で丸くなっている仔犬を見下ろし、優しい笑みを向ける。
不意にその仔犬が羨ましくなった。
「ダメ…かな…?」
私は、父さんより先に母さんに尋ねる。
母さんは笑みを浮かべたまま頷いた。
「いいわよ」
しかし、父さんは承諾してくれない。
母さんに顔を向け、声を上げて叱った。
「おまえ! 勝手に決めるな! ここは神聖な道場だぞ!」
どうしてこんなに頑固なのだろう。
叶がつれてきたのが気に入らないだけではないのか。
母さんは「いいじゃないですか」となだめようとしてくれるが、父さんは首を縦には振らない。
叶は必死に頼んだ。
「飼い主見つかるまで、オレ達がしっかり面倒を見ますから!」
「くどい!」
すると、叶の膝の上で丸くなっていた仔犬が立ち上がり、膝から降りて父さんのもとへと歩み寄った。
私達の視線は仔犬を追いかける。
「キャンッ」
仔犬は父さんの膝に額を擦りつけたあと、その膝にのって丸くなった。
叶は口を開け、両手をウロウロさせて困惑している。
父さんは動くことができずに困惑していた。
「あなた…」
母さんは優しく声をかけて微笑む。
それを見た父さんは、仔犬の頭を撫で、小さく言った。
「……責任を持って面倒を見たいのなら…、好きにしろ」
正直、娘の私も驚きだ。
あの父さんが快諾した。
「あ、ありがとうございます~!」
叶に尻尾があれば、今、パタパタと嬉しそうに振っていることだろう。
我が家にもう一匹、犬が増えた。
2匹とも、番犬でないことは確かだ。
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