短編:番犬は咎人と語る
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・レン
あたしはもう死んだのだろうか。
死ねば楽になるというのは本当のことだったのか。
目を開けても、布が邪魔をしてなにも見えない。
苦しさは感じられなかった。
いや、首が苦しいというより、腹に軽い圧迫感がある。
頭の布が取られた。
目の前には、由良の顔があった。
「由……良…?」
由良は看守の帽子を指先で少し上げ、目を合わせ、笑みを浮かべる。
「殺されずに済んだな」
布を取られ、あたしは状況が理解できた。
由良は看守にまぎれてきたのだ。
あたしを死刑台に上がらせたのも由良だ。
床板が開けられたと同時に、あたしは由良の脇に抱きかかえられ、落下を避けられたのだ。
死刑台の下では、看守のひとりと署長が目を見開いて驚いている。
向かい側の立会人達も、部屋の中で騒いでいた。
由良は、絞縄をはずしてあたしを床板の横におろし、ポケットから鍵を取り出してあたしの手足の枷を順番にはずしていく。
「お、やっぱり、オレの使ってた手枷か」
「おまえ…、どうやって…」
本当に吊り橋から落ちたものかと思っていた。
「落下したとき、吊り橋のロープが体に絡まってな。そのロープが崖に生えてた木の枝にひっかかって助かったんだ。あとは崖をよじのぼって戻ってきた。映画見たいだった」
助かった理由を話したあと、死刑台から署長を見下ろす。
「よう、署長さん。あんたの復讐にのってやろうかと思ってたけどよ、ダメだ、やっぱ死んでやれねえ」
「ここに戻ってきたということは、死刑台に戻ってきたのと同じことだ」
署長の傍にいる看守が警棒を構えた。
あたし達を捕らえるつもりだ。
由良の腰についてある警棒を手にしようとしたが、由良に手で制されて止められる。
「まあ、おまえもこれ聴いてからかかってこいよ」
由良は後ろポケットからなにかを取り出した。
無線機だ。
「始めていいぜ」
同時に、耳鳴りがしそうなほどの大音声が聞こえてきた。
“署長は、なんで由良にこだわるんだ?”
“彼はね…、無実なんだよ”
あたしと署長の声だ。
署長は真上を見上げたまま、真っ青な顔をしている。
懲罰房の会話が全て流れる。
この大音量だと、監獄中に響いているはずだ。
「本当は映像つき♪」
「一体、誰が…」
由良はニヤニヤとしながら、牢屋の鍵を見せた。
「まさか……」
1階の死刑囚を全員逃がしたのか。
「モニタールーム襲撃したあと、懲罰房の映像を録画して、そのテープのコピーをそれぞれ持って逃げる条件で。残った奴らには、音声だけでも流すように頼んどいた」
コピーしたテープを持って逃げた奴らは、外にバラ撒くつもりだろう。
どうせ、また捕まるくらいなら、と。
ささやかな復讐ってやつだ。
死刑囚達を解放して、ここまでさせるとは、これで無実の一般人と思っただけで少し恐ろしくなる。
―――なんて奴だ…。
だが、立会人達や看守達の耳にも、この音声は届いているはずだ。
全員、フリーズしている。
看守の手から、警棒が落ちた。
署長は膝をつき、項垂れている。
由良はそんな署長を見下ろしながら言う。
「犯罪者なんて理不尽な奴らばかりだ。…それはあんたも同じだろ。あんたが犯罪者になってどうする…」
「…ならば…、この怨みを…、怒りを…、誰に…ぶつければいい…? 勝手に奪い、勝手に死に…。ここにいる者達も…、同じ気持ちだ…」
立会人達は迷いを浮かべていた。
中には泣いている者もいる。
あたしが口を開いたとき、由良はあたしに無線機を渡した。
「出力をこっちに変えてもらった」
監獄中にあたしの声が響く。
「……復讐したい奴は死んだ。…けど、殺された人達が望んでるのは、その続きじゃない…。そんなの、八当たりする子供と似てる。大事な人に見せたい自分は、そんなのじゃないだろ?」
この場にいる者がこちらに注目している。
「死んだ自分を忘れず、けれど曲がらずに生きてる相手の姿じゃないのか?」
もう敵はいない。
幻想を追いかけても、虚しいだけだろ。
立会人達の瞳から迷いは消え、代わりに涙が流れた。
署長も泣いている。
納得したくない者もいるだろう。
でも、あとは自分の向かう方向を間違えなければいい。
「レン」
由良に手を差し伸べられ、素直にその手をつかんだ。
死刑台からおりて、茫然と立ち尽くす看守に声をかける。
「他の看守達に伝えてくれ。あたしは外へ出る。おまえらも、一度は外に出てから、自分がどうしたいか考えろ」
―――あたしはもう見つけた。
.
あたしはもう死んだのだろうか。
死ねば楽になるというのは本当のことだったのか。
目を開けても、布が邪魔をしてなにも見えない。
苦しさは感じられなかった。
いや、首が苦しいというより、腹に軽い圧迫感がある。
頭の布が取られた。
目の前には、由良の顔があった。
「由……良…?」
由良は看守の帽子を指先で少し上げ、目を合わせ、笑みを浮かべる。
「殺されずに済んだな」
布を取られ、あたしは状況が理解できた。
由良は看守にまぎれてきたのだ。
あたしを死刑台に上がらせたのも由良だ。
床板が開けられたと同時に、あたしは由良の脇に抱きかかえられ、落下を避けられたのだ。
死刑台の下では、看守のひとりと署長が目を見開いて驚いている。
向かい側の立会人達も、部屋の中で騒いでいた。
由良は、絞縄をはずしてあたしを床板の横におろし、ポケットから鍵を取り出してあたしの手足の枷を順番にはずしていく。
「お、やっぱり、オレの使ってた手枷か」
「おまえ…、どうやって…」
本当に吊り橋から落ちたものかと思っていた。
「落下したとき、吊り橋のロープが体に絡まってな。そのロープが崖に生えてた木の枝にひっかかって助かったんだ。あとは崖をよじのぼって戻ってきた。映画見たいだった」
助かった理由を話したあと、死刑台から署長を見下ろす。
「よう、署長さん。あんたの復讐にのってやろうかと思ってたけどよ、ダメだ、やっぱ死んでやれねえ」
「ここに戻ってきたということは、死刑台に戻ってきたのと同じことだ」
署長の傍にいる看守が警棒を構えた。
あたし達を捕らえるつもりだ。
由良の腰についてある警棒を手にしようとしたが、由良に手で制されて止められる。
「まあ、おまえもこれ聴いてからかかってこいよ」
由良は後ろポケットからなにかを取り出した。
無線機だ。
「始めていいぜ」
同時に、耳鳴りがしそうなほどの大音声が聞こえてきた。
“署長は、なんで由良にこだわるんだ?”
“彼はね…、無実なんだよ”
あたしと署長の声だ。
署長は真上を見上げたまま、真っ青な顔をしている。
懲罰房の会話が全て流れる。
この大音量だと、監獄中に響いているはずだ。
「本当は映像つき♪」
「一体、誰が…」
由良はニヤニヤとしながら、牢屋の鍵を見せた。
「まさか……」
1階の死刑囚を全員逃がしたのか。
「モニタールーム襲撃したあと、懲罰房の映像を録画して、そのテープのコピーをそれぞれ持って逃げる条件で。残った奴らには、音声だけでも流すように頼んどいた」
コピーしたテープを持って逃げた奴らは、外にバラ撒くつもりだろう。
どうせ、また捕まるくらいなら、と。
ささやかな復讐ってやつだ。
死刑囚達を解放して、ここまでさせるとは、これで無実の一般人と思っただけで少し恐ろしくなる。
―――なんて奴だ…。
だが、立会人達や看守達の耳にも、この音声は届いているはずだ。
全員、フリーズしている。
看守の手から、警棒が落ちた。
署長は膝をつき、項垂れている。
由良はそんな署長を見下ろしながら言う。
「犯罪者なんて理不尽な奴らばかりだ。…それはあんたも同じだろ。あんたが犯罪者になってどうする…」
「…ならば…、この怨みを…、怒りを…、誰に…ぶつければいい…? 勝手に奪い、勝手に死に…。ここにいる者達も…、同じ気持ちだ…」
立会人達は迷いを浮かべていた。
中には泣いている者もいる。
あたしが口を開いたとき、由良はあたしに無線機を渡した。
「出力をこっちに変えてもらった」
監獄中にあたしの声が響く。
「……復讐したい奴は死んだ。…けど、殺された人達が望んでるのは、その続きじゃない…。そんなの、八当たりする子供と似てる。大事な人に見せたい自分は、そんなのじゃないだろ?」
この場にいる者がこちらに注目している。
「死んだ自分を忘れず、けれど曲がらずに生きてる相手の姿じゃないのか?」
もう敵はいない。
幻想を追いかけても、虚しいだけだろ。
立会人達の瞳から迷いは消え、代わりに涙が流れた。
署長も泣いている。
納得したくない者もいるだろう。
でも、あとは自分の向かう方向を間違えなければいい。
「レン」
由良に手を差し伸べられ、素直にその手をつかんだ。
死刑台からおりて、茫然と立ち尽くす看守に声をかける。
「他の看守達に伝えてくれ。あたしは外へ出る。おまえらも、一度は外に出てから、自分がどうしたいか考えろ」
―――あたしはもう見つけた。
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