短編:番犬は咎人と語る
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・レン
15分だけ、他の看守に交代してもらい、あたしは休憩室で紙コップに入ったコーヒーを飲んでいた。
コーヒーが苦いのか、先程のことを思い出したのか、眉をひそめてしまう。
「表情が険しいよ」
「!」
休憩室に監獄署長が入ってきた。
4、50代の男だ。
監獄署長だというのに、人の良さそうな顔が不釣り合いに感じられる。
なかなか姿を見せないというのに、珍しいことだった。
あたしは署長の分のコーヒーも入れ、パイプ椅子に座りなおす。
「54人も殺害した死刑囚が入ってきたそうじゃないか」
署長は向かい側の席に座った。
「ナメた奴でしたよ。…他の死刑囚と違って、怯えた顔も見せない」
頭を撲られても、恨みの目も怯えた目も向けなかった。
あれはまるで、バカにするというより、興味を示すような目だ。
だからといって、マゾでもなさそうである。
だが、死が近づくにつれ、その余裕は消えうせていくだろう。
死が怖くない人間はいない。
死刑になりたい奴でもだ。
あいつもいつかは恐怖で顔を歪ませるはず。
「あの強がりも、いつまでもつか…」
あたしはそう呟き、最後の一口を飲み干した。
署長は紙コップに口をつけた。
「死刑囚には厳しい罰を。…わかってるね?」
今更なことを言う。
幼い時から何度も聞かされたことだ。
「殺された者の無念を傷として刻みつけるのが、あたしの役目だから」
ここはそういう場所だ。
この時代、法律は死刑囚をなくすため、現在の死刑囚を犠牲にし、教訓を世代に伝えている。
簡単に言うと、「ラクに死刑になれるだなんてとんでもない。人殺しは恐怖と激痛の毎日ののち、傷だらけの体で死んでもらいます」ってことだ。
どんな理由があろうと、人殺しは人殺し。
世間から冷たく見られるうえ、体中の激痛を伴って死んでいく。
そう思えば、人間の殺意は躊躇を見せるはず、と国が考えたのだ。
まあ、それで死刑囚がひとりもいなくなれば、あたし達はお役御免なわけだが。
人間は馬鹿だから、必ず、1週間に最低ひとりはここにやってくる。
職を失う心配はなさそうだ。
怒りも、呆れも、憐れみも、嘲笑もいらない。
ただ、相手に罰を与えるだけ。
それがあたしの仕事だから。
*****
あれから5日が経過した。
正直、こんなにナメられたのは初めてかもしれない。
「なあ、はずしてくれよ、これー」
由良は首輪の鎖を鬱陶しそうにいじっている。
あたしは無視を続けた。
「……………」
「オレだけこんなの酷くねえか?」
「……………」
「…実はオレ、ホントは無実なんだ」
「……………」
「ぎゃははっ。やっぱダメ?」
ドン!
「あだ!」
ホルスターから拳銃を取り出し、鉄格子の間から由良の左肩に命中させた。
ゴム弾のため、死にはしない。
酷い鈍痛に襲われるが。
手枷をつけられているため、代わりに由良はベッドの角に撃たれた左肩を押しつけた。
「黙ってろ、死刑囚」
四六時中見張っているこちらの身にもなってみろ。
「お…厳しい…ことで…」
私語をすれば、撃たれているとわかっているというのに、由良は毎日のように性懲りもなく繰り返した。
いつもなら、2・3日程度で死刑囚は一言も喋らなくなるというのに。
さすが54人殺害者、躾が難しそうだ。
それとも、本当にマゾなのだろうか。
なにもしない方が苦痛、というわけでもなさそうだ。
現に、本人は痛みで顔をしかめている。
ならば、頭がおかしい、という方が説明がつくだろう。
「また面倒な奴を…」
由良には聞こえない声でぼやく。
署長にも文句が言いたいところだ。
「なんか言ったか?」
ドン!
いっそのこと、『私語禁止』とでかい文字の貼り紙をこいつの目の前に貼り付けてやりたい。
.
15分だけ、他の看守に交代してもらい、あたしは休憩室で紙コップに入ったコーヒーを飲んでいた。
コーヒーが苦いのか、先程のことを思い出したのか、眉をひそめてしまう。
「表情が険しいよ」
「!」
休憩室に監獄署長が入ってきた。
4、50代の男だ。
監獄署長だというのに、人の良さそうな顔が不釣り合いに感じられる。
なかなか姿を見せないというのに、珍しいことだった。
あたしは署長の分のコーヒーも入れ、パイプ椅子に座りなおす。
「54人も殺害した死刑囚が入ってきたそうじゃないか」
署長は向かい側の席に座った。
「ナメた奴でしたよ。…他の死刑囚と違って、怯えた顔も見せない」
頭を撲られても、恨みの目も怯えた目も向けなかった。
あれはまるで、バカにするというより、興味を示すような目だ。
だからといって、マゾでもなさそうである。
だが、死が近づくにつれ、その余裕は消えうせていくだろう。
死が怖くない人間はいない。
死刑になりたい奴でもだ。
あいつもいつかは恐怖で顔を歪ませるはず。
「あの強がりも、いつまでもつか…」
あたしはそう呟き、最後の一口を飲み干した。
署長は紙コップに口をつけた。
「死刑囚には厳しい罰を。…わかってるね?」
今更なことを言う。
幼い時から何度も聞かされたことだ。
「殺された者の無念を傷として刻みつけるのが、あたしの役目だから」
ここはそういう場所だ。
この時代、法律は死刑囚をなくすため、現在の死刑囚を犠牲にし、教訓を世代に伝えている。
簡単に言うと、「ラクに死刑になれるだなんてとんでもない。人殺しは恐怖と激痛の毎日ののち、傷だらけの体で死んでもらいます」ってことだ。
どんな理由があろうと、人殺しは人殺し。
世間から冷たく見られるうえ、体中の激痛を伴って死んでいく。
そう思えば、人間の殺意は躊躇を見せるはず、と国が考えたのだ。
まあ、それで死刑囚がひとりもいなくなれば、あたし達はお役御免なわけだが。
人間は馬鹿だから、必ず、1週間に最低ひとりはここにやってくる。
職を失う心配はなさそうだ。
怒りも、呆れも、憐れみも、嘲笑もいらない。
ただ、相手に罰を与えるだけ。
それがあたしの仕事だから。
*****
あれから5日が経過した。
正直、こんなにナメられたのは初めてかもしれない。
「なあ、はずしてくれよ、これー」
由良は首輪の鎖を鬱陶しそうにいじっている。
あたしは無視を続けた。
「……………」
「オレだけこんなの酷くねえか?」
「……………」
「…実はオレ、ホントは無実なんだ」
「……………」
「ぎゃははっ。やっぱダメ?」
ドン!
「あだ!」
ホルスターから拳銃を取り出し、鉄格子の間から由良の左肩に命中させた。
ゴム弾のため、死にはしない。
酷い鈍痛に襲われるが。
手枷をつけられているため、代わりに由良はベッドの角に撃たれた左肩を押しつけた。
「黙ってろ、死刑囚」
四六時中見張っているこちらの身にもなってみろ。
「お…厳しい…ことで…」
私語をすれば、撃たれているとわかっているというのに、由良は毎日のように性懲りもなく繰り返した。
いつもなら、2・3日程度で死刑囚は一言も喋らなくなるというのに。
さすが54人殺害者、躾が難しそうだ。
それとも、本当にマゾなのだろうか。
なにもしない方が苦痛、というわけでもなさそうだ。
現に、本人は痛みで顔をしかめている。
ならば、頭がおかしい、という方が説明がつくだろう。
「また面倒な奴を…」
由良には聞こえない声でぼやく。
署長にも文句が言いたいところだ。
「なんか言ったか?」
ドン!
いっそのこと、『私語禁止』とでかい文字の貼り紙をこいつの目の前に貼り付けてやりたい。
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