10:なにもなくなるのは
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屋敷に続く山道を車で走らせていた森尾は、視界に飛び込んできた光景に急ブレーキをかけた。
シートベルトをしていなかった由良は目の前のダッシュボードに額を打ってしまう。
「痛…ッ」
「シートベルトしてないからだろっ。それよりも、前! なにか燃えてるぞ!」
森尾は先に運転席を降りて黒煙を上げる物体に駆け寄り、由良も打ち付けた額を擦りながら助手席を降りた。
「なんだこれ…」
行く手を阻むように地面から不自然に盛り上がった木の根を見つけ、さらにその先にある焦げたバイクに驚いた表情を浮かべる。
「由良…、これって…」
「レンが乗ってったバイクだ」
散らばる部品で判断した。
由良と森尾は周囲を見回し、レンの姿を探す。
「!」
道の脇に見覚えのあるキャスケット帽が落ちているのを、由良が発見した。
辺りを警戒しながら近づき、帽子を拾う。
「それはレンの…」
森尾もすぐに気付いて「レン! どこだ!?」と辺りに向けて声を張り上げた。
「……奇襲されたか? しかも、“お仲間”に…」
推察しながら由良はレンの帽子を指でまわす。
「“仲間”って…」
「レンを襲うってことは、オレ達とは別の能力者かもしれねえな。仮に、勝っつんが誘った新しい仲間のご挨拶だとしても、かなり乱暴だ。……あれかな…。トリ公が言ってた、オレ達の他にいる、“心臓”を探してる者…ってやつか?」
レンの帽子を自身の頭にのせ、森尾に薄笑みを向けた。
『我々の他にも、“アクロの心臓”を探しているものがいるとしたら?』
森尾は、北海道に到着して間もない時に言ったフクロウの言葉を思い出す。
「オレ達以外の“仲間”は“心臓”の場所を知らないんじゃ…」
「だーかーらー、わかんなかったら、知ってそうな奴つかまえて吐かせるだろ? レンも詳しくは知らねえだろうがな」
そう言って由良は、「入らねえや。頭ちっせぇな、あいつ」と帽子を外して再びくるくると弄ぶ。
「だったら、探さないと…!」
森尾が空から探そうと宙に浮いた瞬間、由良が「待てよモリヲ」と呆れ気味に声をかけた。
「オレ達は今、“仲間”の位置がわかんねーんだ。あっちも同じだろうが、モリヲが空飛んでたら真っ先に敵さんに見つかるぜ。こんな広い山ん中、闇雲に探したって痕跡探すのも大変そうだってのに」
その通りなのだが、森尾は由良の態度がどうにも気に食わない。
「由良、レンが心配じゃないのか? 喧嘩したのはお互い様だとは思うが、冷たいぞ。あいつはおまえが…」
「オレが連れてきた…、だからなんだってんだ。面白そうな“仲間”だと思ったから誘っただけだ。あいつがぶすくれて離れて行こうがオレは…」
気を悪くして眉根をひそめながら言いかけた時だ。
近くの茂みからガサガサと葉が擦れ合う音が近づいてきた。
「「!!」」
由良と森尾は肩を並べ、茂みの向こうの気配に集中する。
ふらりと茂みから出てきたのは、体中傷だらけのレンだった。
「はぁ…、はぁ…。由良…、森尾…、見つけた…」
「レン!?」
驚いて声を上げたのは森尾だ。
レンは必死に走った来たのか、肩を上下させて荒い息継ぎを繰り返し、由良と森尾の顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「よかった…。2人とも無事だったのか…」
「テメーはなんだ、そのやられようは…」
由良が話しかけると、レンは「さっき…、襲撃に遭って…」と緊張した面持ちで答えた。怖い目に遭ったのか、体が震えている。
「奴らの隙を見て逃げてきたんだ。敵の数が把握できない…。屋敷が襲われる前に、早く、勝又さん達にこのことを知らせないと…!」
「そ、そうだな…。とにかく、いったんオレの車へ…。由良はあの邪魔な根っこ壊してくれ」
レンの催促で森尾が車に向かおうとすると、
「モリヲ、こんな奴乗せんな」
緊急事態だというのに、由良は唾でも吐くかのように言い捨てた。
思わぬ発言に足を止めた森尾は「は!?」と由良に振り返る。
レンも驚いた顔で由良を凝視していた。
「いい加減にしろよ、由良! いつまで根に持ってるんだ! こんな時までケンカしてる場合じゃないだろ!」
「見損なったぞ」と怒鳴る森尾に対し、由良は知らん顔をしている。
目を伏せるレンはおそるおそるといった様子で由良に話しかけた。
「ゆ、由良…、あの時は、あたしが間違ってた…。悪かったよ…。だから…」
目に涙を浮かべて「もう、許してくれ」と懇願の表情を浮かべるレンに対し、じっとそれを眺めていた由良は口角を上げる。
「……そっか。わかってくれたならいいんだぜ。素直に謝ってえらいえらーい」
おどけた口調でそう言いながらレンに背を向け、森尾の隣に並んで「やっぱり素直がイチバンだよなー」と森尾の肩をぽんぽんと叩いた。
森尾は「おまえなー」と由良を半目で睨み、「なに考えてんだ」と呆れながら再び車に足を向ける。
そんな2人の背後に近づくレンの顔に、亀裂のような笑みが刻まれた。
気付かれない動きで両手を腰にまわし、鋭利な2本のサバイバルナイフをゆっくりと抜きながら由良と森尾の背後に近づき、無防備な2つの背中に向けて両腕を振り上げる。
(死ね!!)
バシュッ
殺意を向けた瞬間、突然地面から飛び出した大きなシャボン玉が弾けると同時に、両手が軽くなった、というより、両腕の肘から下がなくなった。
「―――ッぎゃああああっ!!」
初老の男のような声の断末魔だ。
森尾は「な、なんだ!?」と仰天して振り返ると、両腕を失くしたレンが悶絶している光景に「うわ!!?」と声を上げた。
地面に落ちた血塗れの両手はナイフが握りしめられたままだ。
「ほ―――ら、ニセモンだ」
由良は背中で絶叫を受け止め、ニヤリとほくそ笑んだ。その笑みを横から見た森尾は思わずゾッとしてしまう。
「き…さまぁ…! 気付いていたのか!?」
「むしろ騙せてたつもりなのかよ。本当の声は思ったよりじいさんだな」
膝をつくレンの姿をした何者かに、由良は振り返って歩み寄る。
「一体いつ…」
「レンがオレに謝るわけねーじゃん」
切羽詰まったニセレンに対し、答えはあっさりとしたものだった。
「ベンキョー不足。なんだあのしょーもねー顔」とケタケタと笑っている。
そして、ニセレンの前に立つと、前屈みになって目線を合わせた。
まるで観察するような目だ。
ぎょろりとした瞳に、ニセレンは「ひっ」と声を上げてガタガタと恐怖で震える。その怯えようは今度は演技ではないようだ。
しかし、レンの顔のままで、普段見ることのない怯えた表情を見ても、由良の食指は全くと言っていいほど動かない。
「……さっきの顔といい、全っ然描く気が起きねーよ、このヘタクソ」
由良はため息まじりになじって、ニセレンの肩を叩いた。
「―――で、ホンモノどこ?」
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