09:なにが悪いんだよ
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「由良のバァーカ!!」
目に涙を浮かべて露骨な怒りを叫びながらレンはバイクを飛ばして山の車道を走っていた。
屋敷へ帰る道なのだが、レンはこのあとのことを何も考えていなかった。
さてどうしたものか、と汗を浮かべて唸る。
(思わず離れちまったけど、修復すんのかコレ…。身内のケンカってわけじゃねーのに…。いっそ前の屋敷みたいに能力をぶつけ合って喧嘩した方が良かったかもしれない…)
家族同士の喧嘩でさえ珍しいほどだ。
水樹と意見の相違で喧嘩した時も、母親と父親に説教されたことで長引くことはなかった。
そう思い、他人との喧嘩を気にしている自分自身に驚いてしまう。
(それでもあたし悪くねーし!! 絶ッッ対謝ってやんねえ―――ッ!!!)
頑固が先立ち、一層険しい顔になった。
荒ぶる感情のままにアクセルをひねってさらに加速した時だ。
ガッ!!
「!!?」
バイクの前輪が突然足を引っかけられるように硬い物体にぶつかった。
レンごとバイクが縦に大きく一回転しながら宙へ飛ぶ。
「ぐ…ッ!」
驚いたレンだったが、反射的にバイクのハンドルから手を放してシートを蹴り、その勢いで大きく宙返りして地面に着地した。
同時に、高く飛んだバイクが少し離れたレンの後ろで落下し、爆発する。
爆風に煽られたレンだが、帽子が飛んだだけで怪我はない。
すぐに体勢を立て直し、事故を起こした原因に目を向けた。
「!? 根っこ…?」
走行中のバイクがぶつかったのは、地面から大きく盛り上がっていた太い木の根だった。
(おかしい…。この道は行き道にも使った…。昼過ぎに森尾の車で通った時は何もなかったはずだ。あたしだって感情的になってたけど、これだけ大きい根っこが道の真ん中にあれば気づく…!)
まるで事故を起こすために直前で意思をもって這い出てきたようだ。
違和感を覚えるままに身構え、辺りを警戒しながら落ちた帽子に近づく。
拾おうと手を伸ばした時、目の端に、蛇のように蛇行するものが映った。
「っ! うっ!?」
レンの顔面目掛けて横から槍のように伸びた木の根。
レンは顔をそらすが、右頬を掠めた。
「能力者か…!」
帽子を拾う暇がなくなり、瞬時に判断して後ろに大きく跳び、奇襲をかけてきた根から離れる。
先端に血が付着した木の根は、うねうねと蛇行しながら茂みの中に戻った。
緊張で唾を飲み込んだレンは、近くの木の枝に飛び移って辺りを見渡すが、肝心の敵の姿が見えない。
(“仲間”の位置や人数がわからねえのに…! 遠距離型か? だったら、余計に厄介だな…)
念のために持参しているスタンガンを手首に当て、スイッチを入れて体内に充電しておく。
能力の使用は無限ではないので敵の数は把握しておきたいところだ。
ひらり、と視界を何かが掠める。
視線で追いかけると、一匹の蛾(ガ)がひらひらと舞い、レンのすぐ傍まで近づいてきた。
眉をひそめ、しっしと軽く手を振る。
(蛾…。山の中だからしょーがねえけど、虫はあんまり得意じゃねーんだよな…。でも、この蛾…)
メンガタスズメに似ている。
レンは蛾の種類はわからなかったが、シリアルキラーが登場する古い映画のポスターと同じだと気付いた。ポスターの、女性の口にとまった蛾とそっくりなのだ。
蛾が翻った際、背中にドクロの模様を見つける。
瞬間、身の毛がよだった。
(あ。やばい)
蛾の体が膨張する。模様のドクロが笑ったように見えた。
パチュッ
蛾の体が破裂すると同時にレンは木の枝から落下したが、飛散した透明の液体が左肩に付着する。
「ぐぅっ!!」
強烈な刺激臭と共に左肩が灼熱の痛みを覚えた。
バランスを崩して地面を転がるレンはすぐに、液体が付着した服の左肩部分を自ら剥ぎ取る。
剥き出しの肩口は熱傷を負ってただれていた。
レンは舌を打ち、状況を把握しようと頭を回転させる。顔は痛みで脂汗を浮かべていた。
(強い酸の蛾…! 悪趣味な模様で勘が働かなかったら顔をやられてた! さっきの根っこの攻撃とは別なら最低でも敵は2人いるってことだよな…)
「不意打ちが好きな奴らだな…。木の根っこに虫、ここは最高の場所だろうよ…! いい加減出て来いよ!!」
ダメもとで辺りに呼びかけると、茂みの奥からクスクスと笑い声が聞こえた。
「見てよ、左京(さきょう)。思ったより綺麗に残ってるわよ、あの子。ダサいわね」
「右京(うきょう)、あなたが先に大怪我させ損なったからでしょ。ウザいわよ」
出てきたのは、二十代後半の双子の男達だ。どちらも同じ髪型の長い茶髪のポニーテール、端正な顔つきにはメイクを施している。
上下銀色で蛇柄の背広と黒のシャツ、まぶたには赤のアイシャドウ、開襟したシャツから見える首回りから胸元にかけてマムシの刺青をいれた男が右京で、濃い紫色の半袖のシャツ、まぶたには青のアイシャドウ、両腕にレンを襲った蛾と同じメンガタスズメの刺青をいくつも入れた男が左京だ。
「敵でいいんだよな…? ここまでされたら、どっちでもいいや…」
パチ、パチ、と小さな音を立てながらレンの体から電流が漏電している。
「色々あってムシャクシャしてんだよ…。死にたくなかったら今すぐ消えろ」
低い声を出して睨むレンに、双子は一度顔を互いの見合わせ、「アハッ」と嗤った。
「ダッサーい!」「ウッザーい!」
声が重なった瞬間、右京の足元からは木の根が蛇の如く飛び出し、左京の両腕の刺青からは酸の蛾が数匹抜け出して飛び交った。
.To be continued