短編:飛び入り転校生
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レン「由良先生」
由「Zz…」
レン「……………」
放課後の美術室には、床で仰向けになって死んだように眠る由良と、その傍らで寝顔を見つめるレンの姿があった。
起こすのを躊躇いながらも、そっと由良の肩に手を触れ、呼びかけた。
日は沈みかけ、空には三日月がぼんやりと輝いている。
*****
翌日の昼休み、奈美と恵とレンは一緒に弁当を食べていた。
恵「昨日の放課後、どこ行っていたの?」
レン「…帰りに森尾先生に捕まって、「由良を起こしに行ってくれ」って頼まれたから……」
奈「またか」
他の教員に、由良を起こしに行ってくれと頼まれたことは何度もあったのだ。
恵「なんでレンさんに頼むのかな?」
レン「見つけるのがうまいからだって」
そう言いながら、弁当のおかずのウィンナーを食べる。
由良の寝床は日によってバラバラだ。
屋上で寝る時もあれば、無人の教室の教卓で寝る時もあるし、音楽室のピアノの上で寝る時もある。
ある時は、仮病を使って保健室で寝ていたこともあった。
いつも誰よりも早く見つけることができたのは、レンただひとりだけだった。
レン「最近じゃ、美術室で寝てることが増えたけど」
奈「あの人を起こすのは大変だろう」
レン「そうなんだって。呼びかけても肩叩いても起きないし…」
ふと由良の寝顔が脳裏をよぎり、頬を赤く染めた。
レン「……気持ち良さそうに寝てるし…」
見ている夢をのぞきたくなるほどに。
*****
美術の時間は野外授業だった。
外で好きなものを描け、とのことだ。
レンは何を描こうかと迷っていた。
あまり絵を描くのは得意ではないので、簡単なものを捜したが見つからない。
レン(奈美はなに描いてんだろ…)
振り返ると、奈美の背中が目に映る。
レン「奈―――…」
手本を見ようかと歩み寄ろうとしたとき、由良が奈美に近付いた。
足を止め、しばらくその光景を眺めていたが、由良は移動しない。
奈美に何かを囁いてるのを見て、不意に、ズキン、と胸が痛んだ。
そのまま踵を返し、奈美と由良から離れた。
*****
数学の補習を終わらせ、そろそろ暗くなってきた空の下、ひとりで帰ろうとしていたところを玄関の前で勝又に呼び止められた。
勝「北条君」
レン「!」
勝「帰ろうとしているところすまないけど、由良君を捜してほしいんだが…」
由良と奈美の姿が脳裏をよぎり、ムッと顔をしかめ、思わず刺々しく言ってしまう。
レン「あたしじゃなくて、奈美に頼んでください。2人とも、仲良いみたいだし…」
勝「ここに残っている生徒はキミだけなんだ」
レン「……………」
困っている校長の頼みを断り切れず、レンは仕方なく由良を捜しに行った。
*****
やってきた場所は美術室だ。
案の定、由良はそこにいた。
スケッチブックを腹の上にのせ、仰向けになって床で眠っている。
窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
今日は新月だ。月明かりのない夜は少し怖い。
レン「由良先生、起きてください。…起きろ、コラ、バカ由良」
それでも由良は目を開けない。
じっと由良の寝顔を見つめてみた。
バランスのいい顔立ちで、半開きの口からはキバがちらりと見えている。
まつ毛も長く、女の格好をさせても似合うだろうな、と漠然と思った。
この無防備な顔を誰にも見せたくない、という独占欲に駆られる。
レン「由良…」
瞳に涙が浮かんだ。
生徒である以上、いつかは卒業する。その後、別の誰かが由良を起こしに来るかもしれない。
考えるだけで胸を抉られるようだ。誰にも譲れない役割だった。
その時、頭に何かが触れた。
由良の右手だ。
レン「!」
由「……今日は月がいないな…」
由良はゆっくりと目を開け、レンを見つめた。
レン「…新月だからな…」
驚きながらも、レンは返事を返す。
その顔を見て、由良は困ったような笑みを浮かべた。
由「機嫌悪そうだな」
レン「起こしてんのに起きないからだろ」
レンはため息をついたあと、由良から目を逸らしながら躊躇いがちに尋ねる。
レン「今日の授業…、奈美となに話してた?」
由「…太陽に恋した女の話」
レン「?」
レン(なにかのおとぎ話か?)
由「…けど、反対の話もある。男に恋した月の話だ」
レン「月が?」
思わず窓の外を見たが、月は見えない。
由良はゆっくりと語りだした。
眠っている美しい人間の男を見た月は、一目で恋に堕ちた
人間の姿となって男の傍らにい続けたが、男は目を覚まさない
何度呼びかけても、何度抱きしめても、何度口付けても…
男は永遠の眠りについていたからだ
美しい姿のまま、ずっと
それでも、月は飽きることなく毎夜男に会いにいった
傍にいられるだけでも幸せだったから
月が欠けたり消えたりするのは、その男に会いに行ってるからだ
今でも…な
レンは黙ってその話に耳を傾けていた。
由良の手がレンの頬に触れる。
由「いつか、男が目覚めると信じて…」
レン「……………」
頭や頬を撫でられながら、レンはぼんやりと考えた。
いつか目覚めた男に、月はこうして撫でてもらえるのだろうか…
無意識に自分と月を重ね、レンは目の前の男を見つめ、ただ頬に触れるてのひらの温度を感じていた。
無防備な寝顔を知っているのは…
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