09:なにが悪いんだよ
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翌日、レンは北海道の地図を片手に持ちながら、ホテルの廊下を渡っていた。
ふと立ち止まり、廊下の窓から景色を眺める。
(北海道っていいよなぁ。東京の空気と全然違うし、バイク飛ばすと気持ちいし、牛乳うまいし……。あー、ススキノに行ってみんなと騒ぎてぇ…!)
初めて北海道を訪れたことで、新鮮な場所を楽しんでいる。パンフレットもいくつか手に入れ、密かに、由良、森尾、華音の4人で北海道観光計画を考えていた。
そこでレンは目的の一室の部屋の前に立ち止まり、緩んだ顔に緊張を持たせ、思考を切り替えてドアをノックする。
少ししてから「どうぞ」と向こう側から声が聞こえ、ドアを開けて中へ入ると、部屋には勝又とフクロウがいた。
フクロウはコート掛けに留まり、傍にいる勝又は窓の前に立っている。
「勝又さん、頼まれてた地図買ってきました」
「ありがとう、北条君」
昨夜にレンは勝又から使いを頼まれていた。
勝又は柔らかく微笑んで礼を言うと、近づいたレンから地図を受け取る。
勝又は常に落ち着いた空気を纏っていた。
「……………」
その空気に触れると、レンの体から無意識に緊張が抜けていく。警戒心を抱いていても、不思議と居心地の良さを感じてしまうのだ。
ふいに勝又はレンの目を覗き込んだ。
「! なにか?」
レンがわずかに仰け反って怪訝な顔をすると、勝又は「北条君」と優しく声をかける。
「……キミは…、よくなにかを忘れるほうかい?」
「え、ほ…、他にもなにか頼みました?」
遠回しに注意されているものだと思い、レンは慌てて記憶を遡ったが、勝又はそれを手で制して首を横に振った。
「いや、聞いてみただけだよ」
「……あたし、基本的に大事なこととかなら滅多なことでは忘れませんよ。……あ、でも勉強面とかは…ちょっと……」
昨日の由良との勝負を思い出してばつが悪い顔になる。
「それでもキミは、大事ななにかを忘れてないかな?」
勝又の見透かすような目に、レンの背筋が凍りつく。またこの感じだ、と。
「……っ。大事な…なにか…?」
「そう。たとえば…、とても大きな自己満足と達成感。……そして、それと同等の、自己嫌悪と恐怖」
ドクン、とレンの心臓が大きく跳ねる。
同時に、地面に飛び散った血が、工事用のスコップが、脳裏をよぎった。
(え…?)
右手で自身の頭に触れる。
(な…、なんだ…、今の……?)
記憶の引き出しに集中しようとした瞬間、気づけば、至近距離に勝又の右手のひらがあった。
まるで顔面に焼きごてを当てられそうな恐怖感を覚え、触れられる前に後ろに下がり、「そ、そんなの、ありません…!」と言って逃げるように足早に部屋から飛び出した。
フクロウはレンが出て行ったドアを見つめる。
「……あの女は……」
「……自ら蓋をしているせいか、大きさが不確かだよ。由良君も面白い子を連れてきたね…。自分とは対照的な存在に、無意識に惹かれ合ったのか……」
「奴は…、北条は…、広瀬の代わりになりえるのか?」
「…………」
フクロウのその質問に、勝又はわずかに口角を上げた。
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