09:なにが悪いんだよ
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北海道に到着したあと、勝又一行はとあるホテルを一時的にアジトにした。
今、広い一室には、レン、由良、森尾、広瀬、フクロウがいる。
フクロウはテーブルの前にあるコート掛けに留まり、やはり夜行性だからなのか、うとうとと眠そうだ。
テーブルでは、森尾が真剣な面持ちで2枚のA4用紙に赤丸をつけ、点数を書き込んでいた。
その様子を、一人用のソファーに座って“白い変人”のクッキーを食べている由良と、そのソファーの後ろに立つ真剣な面持ちのレンが静かに見守る。
書き込みが終わった森尾は、赤ペンの蓋を閉め、A4用紙をレンと由良に見せながら言い放った。
「英語のテスト……レン、40点! 由良、98点!」
「ハァ―――!?」
A4用紙は高校問題(英語)のテスト用紙だった。
結果に納得がいかず、レンは自分のテスト用紙を引ったくり、点数を凝視する。
「ま、こんなモンだろ」
後ろからテスト用紙を受け取った由良は、自身の点数を見て納得したあと、テスト用紙を上へと放り、早々にシャボン玉で消し飛ばした。
レンは「まだ見比べてないのにっ」と散り散りになった由良のテスト用紙の切れ端をつかむが、もう読める状態ではない。
「一応、気の毒だと思って答えが間違ってないか、ちゃんと探したんだぞ。オレも由良の点数が意外すぎてびっくりした…」
森尾はそう言いながら右肩を回した。未だに信じられないといった表情を浮かべている。
「マジありえねえ…。予習・復習なしの一発勝負なのに…」
言い出しっぺはレンだった。
唯一赤点をとらなかったのが、国語と英語だったのだ。
頭脳なら由良に負けないと仕掛けたが、見事に返り討ちにされている。
悔しくて両手に力を込めてテスト用紙を破きそうになるが、ため息をついたあとにくしゃくしゃに丸めてデニムパンツのポケットに突っ込んだだけだ。
「少し前まで現役の高校生だっただろ…」
ついに森尾に呆れて言われてしまう。
「ううう」とレンは憎々しく由良を睨みつけるが、由良はまったく怯みもしない。
手を伸ばしてレンのポケットからテスト用紙をひったくり、もう一度広げて眺め、クッキーをバリバリと音を立てて食べながら余裕の顔で英語をペラペラと喋り出した。
「【まず、テメーは英語の文法理解できてねえし、なんだこれ、なんで“なに”を“why”と間違ってんだよ。今時ねーぞ、こんな間違い。助動詞とか完了形とかの意味とか使い方も全っ然わかってねーし…。赤点とったことなかったからって挑む教科を間違えてんだよ。もっと勉強してから出直してこい、バーカ】」
「誰がバカだ、あぁ!? テメー日本語で喋れ、日本人!! 言ってることわかんねーんだよ!!!」
逆切れのレンがつかみかかる前に森尾が羽交い締めで止める。
その際、森尾は「「バカ」はわかったんだな…」と呟いた。
先程から広瀬は部屋の窓にもたれたまま、その枠に入ろうとはしなかった。無表情のまま、眺めているだけだ。
レンのテスト用紙を折りたたんで「復習しとけ」とレンのポケットに戻した由良は、フクロウに視線をやり、目の前のローテーブルに片足をのせて尋ねる。
「……なあ、“アクロの心臓”ってのは、いったいいつ取りに行くんだ?」
「……勝又は、もう少し“仲間”を集めてからだと言っていた…」
フクロウが眠そうな声で答える。
由良は「まだ集めんの?」とクッキーを頬張りながら言った。
「しまいに、学校みたいになりそ」とレンは由良から右斜めにある別の2人掛けソファーに腰掛け、不安な色を浮かべる。座る前に、由良が食べ散らかした“白い変人”の空き箱をどけておいた。
「なぜ勝又さんは、“仲間”を集めたがるんだ?」
疑問を浮かべた森尾が尋ねると、フクロウは眠かった瞳をパッチリと開け、レン達を見据えて答える。
「……我々の他にも、“アクロの心臓”を探している者がいるとしたら?」
「「「!」」」
突如開示された、競争相手の存在。
レン、由良、森尾の表情がほぼ同時に、わずかな焦りを浮かべ、森尾は「なら、なおさら急がないと…」促した。
「現時点でその場所を知りえているのは我々だけだ。焦ることはない―――が…」
フクロウはクチバシで翼を掻きながら諭す。
「“アクロの心臓”は回収自体がとても困難だ。確実に手に入れるためにも、より個性的な能力者が必要なんだ。そういうわけで、近いうちにこの男が合流する」
そう言って翼から取り出した1枚の写真をテーブルに落とした。
(あの鳥…翼から…!?)
仰天するレンをよそに、身を乗り出して写真を拾った由良は、そこに写る人物に「うわ」と顔をしかめた。
写真には、汗をかいた肥満体で分厚いレンズのメガネをかけた男がポテチを片手に、真正面で写っていた。その背景には、部屋いっぱいに隙間がないほど美少女フィギュアとアニメビデオが並べられてある。
写真の男に清潔感は感じられず、顔も脂ぎっていて好感を持てるパーツが一切なかった。
「食欲が失せる……」
「?」
「レン、見てみ」
クッキーを食べる由良の手を止めるほどだ。
由良に手招きされたレンは、気になってソファーから立ち上がり、由良の横から写真を覗き込んだ。
「うわ」
途端に顔をしかめ、鳥肌を立たせた。
やはり、生理的に受け付けなかったのだ。
「いやぁ…これは…もう…、うん…。ある意味パーフェクトだな…。極めてる」
レンは写真から目を逸らし、気分を落ち着かせようとする。
「どうした…?」
写真を見ていない森尾は2人の様子を怪訝な目で見つめた。
「岡田剛(おかだ ごう)、28歳、能力(ちから)は“死神の約束”」
「“死神の約束”?」
由良は、説明を始めたフクロウに視線を戻す。
「そいつと交わした約束を破った者は、必ず死ぬらしい。死体には外傷もなく、心臓発作にしか見えないそうだ」
「この写真だけでも、十分逝けそうだけどな。ホイ、モリヲ」
茶化しながら、由良はそのままノールックで後ろにいた森尾に手渡した。
写真を視界に入れた瞬間に「うわ」と顔を青くする森尾に、「だろ?」とレンが横から同情する。
「で、今度はこいつと仲良くしろってか?」と由良はフクロウに確認をとった。
「そういうことだ」
「ははっ、ヤだよ、こんなデブと」
当然、というように答えるフクロウに対し、由良はテーブルに両足を投げ出して冗談を聞いたように笑った。
「そんなふうに笑わない方がいい」
「はっ?」
注意するフクロウに、由良は笑いを止める。
「彼は必要以上に外見を気にしているらしい。また、以前から中傷を受け、深く傷ついてもいるそうだ。そのせいで、自分の存在そのものに劣等感を抱いている。生き方の不器用な子だと勝又が言っていた」
それを聞きながら、写真を見終わった森尾は、窓にもたれている広瀬に手渡した。
フクロウが話すなか、広瀬は受け取った写真を静かに見つめる。由良達と違い、特にリアクションはない。
「おや、見た目と違って繊細なんだな」
由良が肘掛けに頬杖をつきながら、わざとらしく憐れむように言うと、
「由良、フォローになってない…」
元の位置に戻ってきた森尾が呆れてツッコんだ。
「劣等感……」
レンがぽつりと呟き、由良はため息をつきながら言った。
「そんなもん誰だってあるっつの。“自分だけが”って思い上がるのは、ただのガキだ。なぁ、ヒロセ」
広瀬に振ると、由良に顔を向けた広瀬は薄笑みを貼り付けて言い返す。
「劣等感なんて、ボクには無縁のものだよ、由良」
「………」
由良が広瀬を見据えていると、フクロウが思い出したように付け加えた。
「……そうそう、言い忘れた。彼の能力(ちから)には欠点があってな」
由良とレンは同時にフクロウに視線を移す。
「「欠点?」」
声が重なった。
「能力者には使えないらしい」
フクロウがそう言って、レンは「えぇ?」と落胆する。
「実戦向きじゃねえのか。他の“仲間”が襲いかかってきたら太刀打ちできるわけ……」
(なんで勝又さんはそんな奴まで……)
勝又の意図がつかめず、レンの中で疑問は浮かぶばかりだ。
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