短編:甘さは想いから
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「「で…、できた……」」
森尾は様子を見ているだけでもハラハラしていた様子だ。
2人同時に額の汗を手の甲で拭った。
タイミングを見計らい、由良が食堂へと入る。
「なにやってんだ?」
わざとらしく聞いてみる。
レンは由良の姿を発見した途端、パッと顔を輝かせてケーキを載せた皿を持ち、由良に向かって歩み寄った。
「ゆ、由良っ、さっき、失敗、これ、ケーキ、うまく、作った!」
(なぜに片言…)
森尾は心の中でツッコんだ。
「……………」
無言で自分とケーキを見つめる由良に、レンはさらに緊張が走る。
心配になってくると、由良がいきなりホールごとケーキにかぶりついた。
大胆な食いつきに、レンと森尾は目を丸くしている。
由良はハグハグとあっという間ににホール半分食べつくしてしまった。
口の周りはクリームだらけだ。
「美味ぇ…」
「!」
漏らしたその一言だけでレンの表情が緩んだ。
「また作ってくれよな」
そう言って無邪気な笑みを浮かべる由良に、レンは顔を紅潮させながら「気が向いたら」と返すのだった。
*****
それから数日が経過した。
今日もキッチンからは、焦げた匂いが漂い、騒がしい音が鳴り響いていた。
ついでにレンの鼻歌も聴こえる。
由良と森尾は先ほどから食堂に通じるドアの前に立ったままだ。
森尾は少し考えてからその場をあとにしようとしたが、由良の伸びた手ががしっと力強くその腕を捉える。
「レンの奴、すっかりハマっちまったじゃねーか。どうしてくれんだ」
「菓子作りなんて新しい趣味を持つのはいいことだと思う。こうやって努力も重ねているようだし」
唸る由良に、森尾はあっちの方向を向いたまま返した。
「その努力に巻き込まれて毎度ひっくり返ってたんじゃこっちの身が持たねえんだよ」
「そもそも「また作ってくれ」って言ったのは由良だろ」
「クソ…。「モリヲと一緒に」って付け足しときゃ良かった」
「今更そんな…。観念しろ。そもそもおまえがレンを挑発するから…」
「いいよなおまえは! 大体先に味見するのはオレだし」
「ウラヤマシイヨ」
「棒読みなんだよ!」
「それでも、なんだかんだ言っておまえも手を付けるだろ」
「見た目がヤバくても成功してることもあるんだよ。どんなミラクルだ」
そんなことを言っていると、突然向こう側からドアが開けられた。
炭だらけのレンと、その手に持っているのは真っ黒なカップケーキだ。
「ちょうどよかった。呼びに行こうと思ったんだ。見た目はアレだけどそんなに悪い味じゃないと思う。食べてみろよ」
レンの目がキラキラと輝いている。趣味に没頭した人間の表情は憎たらしいほど眩しい。
由良と森尾はお互い目を合わせ、今回は成功してますように、と祈りながらそのカップケーキに手を伸ばすのだった。
.END