短編:甘さは想いから
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早朝、全員が起きる前に、エプロン姿のレンがキッチンで料理を作ろうとしていた。
その瞳は真剣で、体中は殺気に似たオーラが纏っている。
(「作れるとは思ってねえ」だと、あのヤロウ。確かに作ったことないけど! 誰だってレシピ本見れば作れるもんだろうが!)
レンは卵を手に取り、菓子作りの説明本を見ながら料理に取り掛かった。
ボウルに卵を殻ごと入れて混ぜる。
ちなみに、本人はちゃんとしたものを作ろうとしているのである。
断じて毒を仕込んでやろうとしているわけではない。
(上等だ。あっと驚かせて腰抜かせてやるよ…!!)
「見てろよ、クッ○ーモンスター!」
手に取った塩と砂糖をボウルに入れ、泡だて器で混ぜる。明らかに目分量より多い。
「適量ってなんだ適当に書くんじゃねえ」と時折レシピ本にキレた。
キッチンがガチャガチャと騒がしい音を立てている。
先に森尾と由良が食堂へと入ってきた。
2人とも、食堂に漂う異臭に眉をひそめている。
「な、なんだ、この焦げ臭いにおいは……」
森尾が鼻を掌で覆う。
「んあ……?」
続いて、由良も匂いを嗅ぎ、さらに顔をしかめて手の甲で鼻を押さえた。
その場に立ち尽くしていると、皿に黒いものを盛り盛りに積んだレンがやってきた。
顔にはなぜか炭が付着している。
「よ、よう…」
レンは苦笑いを浮かべ、由良と森尾もつられて苦笑いを浮かべた。
「………なんだ、それ」
由良が黒いものに指をさす。
「ク、クッキー…」
((クッキー???))
由良と森尾は同時に首を傾げた。
由良はレンの真剣な瞳が自分に向けられていることに気付く。
「………オレが…食うのか?」
「いや、その…。たまたまレシピ本見て、たまたまクッキーがカンタンそうで…作りたくなって…。ええい、喰らえ!!」
言い訳がましいことに自分自身で腹を立て、由良にクッキーの載った皿を差し出した。
その顔は真っ赤である。
森尾はそれを見て、ピンときた。
(由良のために作ったのか。健気だな…)
レンを応援したくなり、由良を促した。
「由良、食べてやったらどうだ?」
「…………」
由良は恨めしそうに森尾の顔を一瞥し、黒いクッキーをじっと見つめた。
そして、そのなかの小さいクッキーを取り、口の中におそるおそる入れた。
意を決して噛み砕く。
濃縮された味が口の中に広がり、飲み込んだ。
「!!」
由良の顔がパッと驚いた表情に変わる。
「!」
レンの顔が期待でパッと輝いた。
バタ―――ンッ!!
「「由良―――!?」」
由良が引っ繰り返った。
レンと森尾が仰向けに倒れた由良に駆け寄る。
「~~~~っ!!」
由良は喉を両手で押さえ、悶絶している。ドラマで見た、毒を盛られた被害者みたいなリアクションだ。
「由良ー! 由良ー!」
レンが肩を揺すって呼びかけている間に、森尾は急いで水の入ったコップと胃薬を取ってきた。
それから由良は、自分の部屋で寝かされた。
「う~~~ん」
うなされ、なぜかビニール袋に入った水と氷を額に当てられている。
その部屋の向こうでは、森尾がレンのクッキーを試食していた。
由良の二の舞にならないよう、黒いクッキーの欠片を食べてみる。
「!!」
欠片を食べた森尾は急いでレンが用意していたコップに入った水を奪い取って飲み、数回咳き込んだ。
「そんなに…酷いのか…?」
「い、いや、そんなに…。……ごめん、かなり酷い」
ウソはためにならないと判断した森尾が白状する。
なぜレシピ本を使ったのにこうなってしまうのか不思議だった。
「はぁぁ…」とレンは深いため息をついて肩を落とし、寝込んでいる由良に目をやり、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「菓子作り自体、初めてだったからだなあ」
その場にしゃがみこみ、へこみ始めた。
森尾はそっとレンの肩に手を置いた。
「気に病むなよ…。失敗は成功のもとって言うし…」
励まされるレンは森尾の顔をじっと見つめたあと、立ち上がった。
「……森尾…、ケーキ、作れるか?」
真剣な顔を森尾に向けて尋ねる。
レンのその表情にぎょっとしたが、森尾は答えた。
「あ、ああ…。レシピ見ながらだったら…」
「……作り方、教えてくれ。あたし、あいつにちゃんとしたモン作ってやりたい…!」
簡単に諦めないレンは眩しい。
森尾はそんなレンに微笑んで言った。
「……わかった準備しようか」
その会話を、寝込んでいる由良は黙って聞いていた。
エプロンに着替えたレンと森尾はキッチンで材料を並べていた。
森尾は髪を後ろに束ね、レンは三角巾を頭に巻いていた。
「卵は優しく割り、殻が入らないように入れるんだ」
「わかった!」
レンは慎重に森尾の言うとおりに調理を始めた。
「砂糖と塩、見分けでわからないのなら一粒舐めてみるとわかる」
「じゃあ、こっちが砂糖」
傍から見れば、生徒と教師だ。
レンは砂糖を手に取り、ボウルの中へ入れて混ぜる。
たまに失敗も見当たる。
ホイップクリームを作っている最中のときだ。
レンの混ぜ方は力が入りすぎ、ボウルが引っ繰り返った。
作りかけのホイップクリームがレンと森尾にかかる。
「力みすぎ!」
「うわ、甘っ!」
うまく出来上がったスポンジケーキに、丁寧に完成したホイップクリームを塗っていく。
スポンジケーキの間にはレンのアイデアで溶かしたチョコレートとイチゴが挟んである。
扉の隙間から、由良は死にかけの目で観察していた。
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