短編:過去拍手文
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祭りの季節がやってきた。
夜、あたし達4人は浴衣に着替え、近所の出店へと向かった。
不本意だが、手持ちの浴衣がなかったため、華音から借りるはめになってしまったが。
「金魚すくいしよ~♪」
華音が森尾を引っ張って金魚すくいの店に行く。
すくっても、その金魚はちゃんと育てられるのだろうか。
「救われねえな…」
隣の由良がボソリとうまいこと言った。
森尾達が金魚すくいをしている間、あたしと由良はリンゴあめやわたあめを食べていた。
金魚を一匹ずつ手にして戻ってきた森尾達と再び合流したあと、射的屋の前で足をとめ、射的もした。
うまく当たらなくてチロルチョコしかもらえなかったが。
あとはダーツでウサギの人形を当てたり、くじ引きをして新しい目覚まし時計を当てたり、チョコバナナを買ったり、唐揚げを買ったり。
財布の中身を確認し、そろそろ所持金がなくなってきたな、と思ったとき、見たことない店を見つけた。
旗には“型抜き屋”と描かれている。
小中学生くらいの男の子達が画鋲を手に、低い机の上でちまちまとなにかやっていた。
持っている画鋲で、楯横数センチの小さくて四角くて薄いものに刺している。
いや、刺しては抜いてを繰り返していた。
後ろから覗き込むと、四角いものの真ん中には傘の絵があった。
他の子達のを見ていると、みんな別々の絵だ。
コマ、りんご、チューリップなど。
みんな、その輪郭に沿って画鋲を刺している。
「こうやって型を抜くんだ。綺麗に型を抜けたら賞金がもらえる。簡単なものでも300円だ。難易度が高いほど賞金もあがる」
後ろから森尾が説明していくれた。
「嬢ちゃんもやってみるかい?」
屋台のオヤジに声をかけられ、コマの絵が描いてある型と画鋲を手渡される。
茫然としていると、オヤジは苦笑した。
「お嬢ちゃんには初めてのようだから、難しそうか」
その言葉であたしの中に火がついた。
「綺麗に型抜けばいいんだろ?」
低い机の前に座り、手渡された画鋲で型を慎重に削っていく。
待ってるのが退屈なのか、由良達も参加した。
早くも華音が脱落。
「難しい~」
「できた!」
先に森尾が終わらせ、オヤジに手渡した。
オヤジは不敵な笑みを浮かべる。
「ダメだよ、兄ちゃん。ここ、ヒビ入ってる」
よく見ると、確かに細かいヒビが刻まれていた。
しかし、それは虫眼鏡をつかわないとわかりずらい。
プロだな、あのオヤジ。
店側としては、そうやすやすと賞金を渡したくないのだろう。
さらに集中力を高める。
「「できた」」
あたしと由良は同時に手渡した。
「すげー!」
「うまーい!」
出来上がったものを見た子供達も声を上げる。
オヤジは悔しそうな顔をした。
「か…、完璧だ…」
自分で言うのもなんだが、そういう細かい作業は割と器用な方だ。
由良には劣るが。
あたしと由良は笑みを浮かべて「いえーい」と手をパーンと打ち合う。
300円を手にしたあとは、挑戦心に負けていろんな型抜きにチャレンジした。
クリアするたびに、難易度を上げる。
ついに、1万円の型抜きまで到達した。
これができれば全クリだ。
1万円の型はだんごの絵だ。
簡単そうで実はこれが難しい。
クシの部分が細かくて、力の加減が難しい。
それに、だんごの部分は丸だから、四角になったり、ヒビが刻まれないようにしなければならない。
背後で森尾と華音が応援してくれている。
由良は隣で黙ったまま集中して型を抜いていた。
あたしも丁寧に削っていく。
しかし、
「あ!!」
あとはクシの部分を型抜きすれば完成だったのに、途中で折れてしまった。
「はい、残念」
オヤジは腹立たしいくらい嬉しそうだ。
「できた」
由良の出来は完璧だった。
手渡されたオヤジの表情が暗いが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「あ~、こりゃダメだ、兄ちゃん」
右手のひらを開き、由良が抜いた型を見せる。
「クシの先がないよ」
「ありゃ?」
由良が首を傾げた。
確かに、クシの先がない。
だが、そんなはずはない。
さっき見たときは完璧に型が抜かれていた。
オヤジを軽く睨みつけ、オヤジの握られた左コブシに視線を移す。
あたしは素早くオヤジの左手をつかみ、てのひらを開かせた。
「!!」
「オヤジ、ズルすんなよ…」
おそらく、由良から型を受け取ったあと、左親指でクシの先を砕き、持ちかえたのだろう。
あたし達が睨みつけると、オヤジは「冗談だよ」と力なく笑い、由良に1万円を手渡した。
*****
その帰り、由良は賞金でベビーカステラを買い、手づかみでモシャモシャと食べていた。
「ん」
由良に、手に持てるだけのベビーカステラを渡される。
「?」
「少しやる」
分けてくれるなんて珍しい。
さっきの礼、ということだろうか。
ひとつを口の中に放り込むと甘い味が口の中に広がり、祭りの匂いがした。
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