短編:過去拍手文
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昼下がりのリビングで、あたしと由良はお互いに向き合い、低いガラステーブルに置いたオセロでヒマを潰していた。
今のところ、白のあたしが勝っているのだが、いつ逆転されるかわからないことになっていた。
「早く置けよ」
「急かすな」
なるべく余裕なフリをしなければならない。
よく考えたあと、右端の上から2番目に白の石を置く。
すると、横から鼻をすする音が聞こえた。
あたしと由良は同時に振り向く。
「……すまない」
一人用のソファーの背もたれの上に留まっているフクロウがそう言った。
「どうした?」
「トリ公って鼻水あんのか」
あたしに続き、由良がからかうように言う。
「風邪か?」
あたし達の紅茶を運んできた森尾が尋ねた。
その後ろには、砂糖の入ったビンとスプーンを持った華音がついてきている。
フクロウは再び鼻をすすり、口を開いた。
「風邪かわからないが、ここ最近食欲がない」
森尾は「ああ」と言い、言葉を続ける。
「そういえば、ここ最近よく残してたな。てっきり、外でネズミでも食べてるのかと…」
さほど気にもされなかったため、具合が悪化したのだろう。
今にも背もたれの上から落ちそうだ。
「病院行けば?」
華音がナチュラルに言ってくれる。
「動物病院か…」
テーブルに紅茶を置いた森尾が難しい顔で呟いた。
それもそうだろう。
あたしは動物病院とやらに行ったことはないが、患者のほとんどイヌかネコだ。
フクロウなんて診察してくれるかどうか。
「おまえらに心配される覚えはない。私ひとりで行ける」
ひとりじゃなくて一羽だろが。
「まさかおまえ、病院行って「先生、具合が悪いんです」って言うのか? 檻に入れられて動物番組に出演させられるのがオチだっての」
自分がフクロウだってことを自覚してほしい。
「あ、勝った♪」
「は!?」
テーブル上のオセロを見ると、由良はいつの間にか端を全て黒に染めていた。
*****
さっそく森尾と由良とあたしの3人で車に乗ってフクロウを動物病院へと連れて行った。
そのまま連れて行くわけにはいかないので、ちゃんと鳥籠に入れて持っていく。
中に入ると、ロビーにはいろんな犬猫達が飼い主達と共に、呼ばれるのを待っていた。
当然と言えば当然なのだが、フクロウを動物病院に持ち込んだあたし達に、飼い主達が釘付けになる。
フクロウだけじゃなくて、後ろの2人の人間の方も目立つ存在だというのも含め。
「ここが動物病院か…」
「見事に犬チームとネコチームに分かれてるな♪」
後ろの2人も動物に例えると犬と猫にちゃんと分かれていると思う。
あたしは鳥籠を抱えたまま、ため息をついた。
「まだここから出れないのか。不愉快だ」
「バカ、喋んなっ」
突然口を開いたフクロウに焦り、反射的に鳥籠を上下に振る。
*****
運よく、鳥類も診察できる医者だそうだ。
中年のおっさんだが、優しい顔をしている。
診察室で鳥籠から出されたフクロウは、診察台で大人しく診察されていた。
聴診器を当てられても文句ひとつ言わない。
昼だから眠いっていうのもあるかもしれない。
「心配いりません、ただの風邪ですよ。あとで薬を渡します。それと、注射も…」
「フクロウの薬もあるのか…」
森尾が腕を組みながら感心した。
医者は注射器を取り出し、フクロウの体を優しく押さえ、注射器を打つ。
それでもフクロウが暴れることはなかった。
あたしと由良は目を合わせたあと、聞きたかったことを医者に尋ねる。
「オレ、前から気になってたことがあるんだけど…」
「あたしも…」
「「こいつって、オスなのか?」」
途端、フクロウは目を覚まし、全快で攻撃してきた。
*****
その夜、あたし達は再びオセロでヒマを潰していた。
顔面生傷だらけのままで。
森尾もその顔でムスッとしたまま、コーヒーを淹れている。
華音は2人用のソファーに寝転びながら、「華音行かなくてよかった」とあたし達の惨状を見て呟いた。
あたしは無言で白の石を左端の下から3番目に置いてひっくり返していく。
「あの短気ドリが…」
小言を言いながら由良は黒の石を一番下の右から5番目に置いてひっくり返した。
「おまえ達には世話になったな」
「!」
その時、声が聞こえた方に振り向くと、開け放たれた窓枠にフクロウが留まっていた。
「礼なんて珍しいじゃねえか」
由良はそう言いながら、盤を見ながらどこに置こうかと目を動かす。
あたしは、余計なことを考えられる前に、と決めていた場所に白の石を置いた。
「そこの箱を開けてみろ。礼の品が入ってある」
フクロウの視線を追うと、窓の下に、テレビ一台が入りそうな箱が置かれている。
「礼!?」
図々しくも、華音は箱に駆け寄り、あたし達より真っ先に箱の蓋を開けた。
「キャ―――!!」
「うわ!!?」
だが、箱を開けると、ネズミやモグラやコウモリが飛び出したのだ。
あたしは思わず立ち上がり、フクロウに怒鳴った。
「ただの嫌がらせだろ!!」
「おまえ達は知らないのか? びっくり箱というやつだ」
「子供が泣き出しそうなもん入れるな!!」
華音がすでに泣いている。
「お、勝った♪」
「はあ!?」
いつの間にか、オセロの盤上がまた真っ黒になっていた。
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