短編:過去拍手文
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ツーリング中に手塚家のトレーラーハウスの近くを通ったので、寄ってみることにした。
トレーラーハウスの前のテーブルに着きながら、伶・純・杏がなにやら話し合いをしている。
「よう」
気付いた伶がこちらに顔を向け、手を上げて声をかけてきた。
「なにしてんだ? 由紀恵さんは?」
「ママなら、買い物」
下の3人の子供達と一緒に行ったそうだ。
じゃあ、葵はトレーラーハウスの中か。
中に入ると、葵はソファーに座りながら難しい顔をしていた。
手にはメモ帳とボールペンが握られている。
「葵?」
葵ははっと顔を上げ、突然駆け寄って来た。
「ねえ、母の日に、自分のママになにあげた!?」
「へ?」
そこで今日が何日か思い出し、「ああ」と漏らす。
「今日は母の日か。……カーネーションだろ? 普通」
「それと一緒にあげるものがいいの!」
もしかして、伶達もそれについて話し合っていたのだろうか。
「誕生日じゃねえんだから…」とつっこみたいところだが、実はあたしも母の日に、母さんになにかしてあげたいと悩んだことがある。
最初はカーネーションだけ送ってたけど、次の年はそれだけじゃ納得いかなくて他にも別の花を付け加えたりしたし、年ごとにプレゼントが派手になっていったことがあった。
母さんが生きてたら、今頃、自分はどんなプレゼントを贈っていただろう。
母さんのことを思い出すと、母さんにシチューを作ってくれた時のことが脳裏をよぎった。
あれは、母さんの料理の中で一番おいしかった。
「……料理……とか?」
*****
さっそくキッチンで葵に作り方を教える。
本来なら、太輔を呼ぶところなのだが、今回だけはあたしの手で作ってみたい。
右手に包丁、左手にじゃがいもを持つ。
「これから調理を始めます」
「手術みたい」
その横で、同じくエプロン姿の葵がメモ帳とボールペンを手に、シチューの作り方をメモしようと準備した。
母さんや森尾の手順を思い出しながら(手順はほぼ似てたし)、野菜を切り(何回か指切った)、皮を剥き(剥きすぎてやり直し)、炒め(火傷した)、慎重に調理していく。
焦がすことなくできあがったシチュー。
見た目は普通のシチューだが、味は保証できない。
皿に入れ、さっそく葵と一緒に味見する。
先に葵が口にし、笑みを浮かべた。
「うん、おいしいっ」
ホッとして、あたしもスプーンで掬って食べる。
「……違うなぁ」
「え、おいしいよ!?」
「確かにおいしいけど…、母さんの味でも、森尾の味でもない…」
2人の味が再現できない。
「あれだけたくさん食べたのに…」
大事な味なのに。
「あれだけ傍で見てたのに…」
忘れちゃいけない味なのに。
「……でも、おいしいよ。あたしは好き。ママも、「おいしい」って言ってくれると思う。あたしのママだけじゃない…」
葵は明るい笑みを浮かべながら、シチューを食べてくれた。
母さんも、「おいしい」って言ってくれるだろうか。
葵の頭を撫で、笑みを浮かべる。
「それじゃ、次は葵ひとりで作ってみな」
「はーい♪」
葵は元気よく手を上げて返事をした。
「お、いい匂い」
「シチュー?」
開けっ放しの窓から漏れたシチューの匂いにつられ、伶達がトレーラーハウスに入って来た。
「由紀恵さんにあげるもの決まってなかったら、一緒に作れば?」
「「「…!」」」
3人は図星を突かれ、驚いた顔をする。
やっぱり、まだ決まってなかったようだ。
「伶兄は皮剥き、純兄はサラダ用の野菜切り、杏姉は皿出して」
包丁でシチュー用の野菜を切りながら葵が指示をだす。
包丁で切りながらよそ見をするのはよせ。
4人が作業するなか、そっとトレーラーハウスを抜け出し、バイクを走らせた。
途中で由紀恵さん達とすれ違ったが、声はかけなかった。
足止めしちゃいけないから。
途中の花屋で白いカーネーションを買って、母さんの墓に行こう。
去年の分も買って。
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