08:みんなが行くなら
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バルコニーの手すりに手をのせ、勝又が朝空を見上げる。
見上げた先には、1羽の大きな鳥が旋回して飛んでいた。
「そうか……宇都宮は死んだか…」
勝又とは警察学校時代の同期だ。
“幻覚”の能力者で、我が子達を今後の変革に巻き込まないようにと自身の手で死に導こうとしたが、道中で会った太輔達に阻止され、結果自らが死を選んだのだ。
勝又からは“仲間”への誘いを受けていたが、断っていた。
「愚かな奴だ…。“能力(ちから)”を手に入れると、自ずと先が見えてくる。野心に目覚める者もいれば、怖じ気づいて自分を見失う者もいる。そして奴は、死を選んだ……」
警察学校にいた頃を思い出す。
宇都宮がこっそりと持ってきたビールを2人で隠れて学校の敷地内で飲んだ時や、警察官の服を着て警察学校を卒業したときのことを。
勝又は「…ふん」と鼻で嘲笑う。
「所詮、その程度の器だったということか。使えない奴だ…」
「勝又さん」
そこへちょうどやってきた森尾に呼ばれ、勝又が振り返る。
眼帯をつけた森尾の後ろから、ついてきた由良と#レンがバルコニーに集まった。
少し遅れて広瀬もやってくる。
その場に集まった仲間達に、勝又は「やあ、みんなに朗報だよ」と口火を切った。
「やっとアレの正確な場所がわかったんだ。すぐに北海道へ向かう」
唐突な拠点の移動の発言に、困惑の表情を浮かべたレンは「北海道…」と呟き、勝又に尋ねる。
「また急な……。なんで北海道なんですか?」
「そこに“アクロの心臓”がある」
これもレンからすれば初耳だ。
屋敷に来てしばらく経つが、“アクロの心臓”という単語は今まで聞いたことがない。
勝又の返答に、レンだけではなく、その場にいたメンバーが首を傾げた。
勝又は続ける。
「我々を統べる…あの方の半身がそこにあるのだ」
そこで由良が「ほい」と手を挙げた。
「なあ、勝っつん、“あの方”とか“心臓”とか、全然話見えてこねえんだが、なんだそりゃ? それとモリヲ眼帯変だよネ?」
「「何ぃっ!?」」
作った本人のレンと、装着している森尾が由良を睨みつける。
勝又は付け加えた質問を無視し、最初の質問に答えようとした。
「ああ、それはね……」
「無駄だ、勝又」
突然、勝又の言葉を遮るように、その場にいるメンバー以外の声が聞こえた。
「こいつらに今話したところで、なにも理解できまい」
その声は空から聞こえ、レン達はほぼ同時に空を見上げると、1枚の黒い羽根が舞い落ちる。
「まったく…、あの方のおかげで我々は存在しうるというのに」
呆れ声の主―――フクロウがバルコニーの手すりに舞い降りた。
「無知の相手ほど、疲れるものはないな」
フクロウは見下すように言ったあと、カシカシと爪で自身の首を掻く。
レン、由良、森尾、広瀬が呆然とフクロウを見つめた。
フクロウに近付いた由良は、前屈みになってフクロウと目線を合わせ、ジロジロと見つめて指さす。
「よくできて……」
ゴス
機械仕掛けではない、とフクロウは否定するように、由良の額にクチバシを突き刺した。
「あ」とレンが口を開ける。
猛禽類のクチバシは鋭く、突かれた額から血を垂れ流しながら由良は静かに怒り、ポコポコとシャボン玉を浮かばせた。
「まあまあ、由良君」
勝又が宥めるが、由良の怒りは収まらない。
「なんだこの鳥は―――!?」
由良がフクロウにつかみかかる前に、レンと森尾が一緒になって取り押さえ、その間に勝又は答える。
「ああ、彼はねぇ…、あの方の意志を宿す者だ。あの方自ら造られた…、言わば“仲間”だ」
「いや、意味わかりませんよ」
由良を落ち着かせながらレンは現実味のない事態に困惑を隠せない。
由良も納得ができない様子だ。
「“仲間”!? 鳥(コレ)が!? “仲間”の反応も感じられねえのに?」
レンもおそるおそるフクロウに近付いて“仲間”反応があるか確かめるが、由良の言うとおり、何も感じなかった。喋らなければ普通の鳥なのだ。
由良は呆れるように付け加える。
「さては、勝っつんの目的って動物王国作りか! 目指せムツ○ローさんか!? マジかよー」
レンは流し目で、おどけて言ってるわけでもない由良を見て呆れていた。
フクロウもうんざりとした様子で溜め息をつく。
「勝又…、アイツも連れて行くのか?」
「もちろん」
フクロウはレン達と向かい合う。
「“心臓のカケラ”すら所有していないおまえらのような低レベルの者は、本来知る必要もないのだが、勝又の手前、特別に話してやろう」
「なんでこいつこんな上から目線なんだよ」
レンも苛立ち始めるが、“心臓のカケラ”というワードにまたしても首を傾げずにはいられない。
フクロウは淡々と話し始める。
「世界各地で“仲間”が集結しつつあるが、今回、その第一段階の地として選ばれたのが、北海道だ。地上で初の我々の地―――case1。探し求めた“アクロの心臓”がそこにあることが確実となったため、彼(か)の地が選ばれた。そこを我々の活動の拠点とし、変革を起こすのだ」
「変革」という聞き慣れない言葉にレンは思わずピクリと反応してしまった。
勝又は腕を組み、言葉を継ぐ。
「……そのためにも、キミらの力が必要なんだよ。……わかるね?」
「……変革……」
森尾がぽつりと言って続ける。
「オ…、オレも、その瞬間に立ち会いたい…。この目で見てみたい……!」
「オレも行くぜ~。ここんとこ、ヒマだったからな」
由良がポケットに突っ込みながら言う。
その隣で、レンは戸惑いの色を浮かべていた。
(……きな臭いのに、2人とも乗り気じゃねーか…。……それが終わったら…、あたし達、まだ一緒にいられるのか?)
「北条君は?」
勝又が尋ね、不意にレンの体がビクッと震えたが、勝又の目を見据え、躊躇いがちに答える。
「………み、みんなが行くなら……」
それしか答えがない。
勝又は広瀬に視線を移して同じ質問を投げかける。
「……広瀬君は?」
広瀬はすぐに答えた。
「そこに居場所があるのなら、彼女を連れてそこに行きます」
広瀬の瞳に迷いはなかった。
「……では、各々準備が済み次第、ここを発とう」
勝又のその言葉でその場は解散となった。
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