短編:過去拍手文
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あたしと奈美は喫茶店にいた。
奥の席で、あたしは奈美と向かい合いながら、奈美の相談を聞いている。
内容はたぶん、アレだろう。
「太輔のことか?」
「そう」
「ケンカしたのか?」
「違うんだ」
コーヒーを一口飲み、奈美の言葉を待つ。
それからコーヒーカップをソーサーに置いたと同時に、奈美は口を開いた。
「叶って、家の手伝いとかしてくれるのはいいんだけど…」
居候が手伝いをするのは当然の礼儀だ。
あたしも奈美のところに居候させてもらってるから手伝いはするが、太輔ほどテキパキとはいかない。
「不満でもあるのか? あいつ、料理うまいし、掃除任せたらピカピカじゃん」
「……やらなくていいこともまでやるから」
なにやら苦渋に満ちた顔だ。
「やらなくていいこと?」
「私の部屋に勝手に入って掃除したり、たたんだ着替えを入れようとタンスを開けたり、母さんに余計なこと話したり、学校まで迎えに来たり、夜鳴きしたり…」
太輔は悪気があってやってるわけではなさそうだ。
しかし、悪気がないっていうのは問題だな。
「怒ってばかりだから、叶はすっかり私に怯えてしまって…」
本気で悩んでいたのはたぶんそれだろう。
奈美もあたし同様、素直じゃないとみた。
けど、唯一の違いは相手だ。
太輔ってちょっと鈍感そうだから。
「褒めることも大事だな」
「褒める?」
「……………」
そういや、あたしも褒めたことあんまねーな。
あいつは天然も悪気も備わってたし…。
褒めればいいとは言ったものの、どう言えば効果的かがわからない。
考えながらコーヒーを飲みほしたあと、席を立った。
「ちょっと待っててくれ」
奈美を待たせ、喫茶店の右隣の本屋へと向かう。
*****
本屋でとある本を購入し、喫茶店に戻ってきて奈美に手渡す。
奈美は怪訝な顔で紙袋から取り出し、表紙に記載された文字を口に出して読んだ。
「“和犬のしつけ方”?」
「犬飼ってると思えばいいんだ。人間よりネコより扱いやすいし」
怒るかと思ったが、なにかを納得したのか、真剣な顔で表紙を眺めて頷いたあと、文句も言わずに鞄にしまった。
本気でやるつもりだ。
*****
“言うことをきいたら、「よくやった」と褒めましょう。ただし、あまり褒めすぎないように”
「よ…、よくやった…」
「???」
風呂場を掃除した太輔に近付き、奈美は太輔の頭を撫でながら本の通りに褒める。
太輔は奈美の突然の行為に動揺している様子だ。
“いけないことをしたら、「だめ」とちゃんと叱りましょう”
「叶―――!! ダメだあ゙あ゙ああ!!」
「キャ―――!!」
氷の爪を構えたまま太輔を追い回す奈美。
どうやら、たたんだ奈美の服をしまおうとしたとき、間違えて下着が入っている引出しを開けてしまい、運悪く奈美に目撃されたらしい。
それにしても、褒めた時と違い、叱る時は容赦なく全力で叱っている。
こんなバランスでいいのだろうか。
結果、いいわけがなかった。
翌日、喫茶店に呼び出されてしまった。
前よりかなり苦渋に満ちた顔をしている。
「すっかり怯えられてしまった」
あたしが席についたと同時に、両手で顔を覆った奈美が震える声で言った。
話によると、良いことをしている時でも、太輔はこちらをチラチラと窺いながら、これでいいのかとビクビクしていたそうだ。
褒めたせいなのか、叱ったせいなのか、太輔は妙なプレッシャーを感じるようになったのだとか。
あたししかできない仕事がまわってきた。
奈美をなだめることと、太輔にちゃんと説明して元に戻すことだ。
とりあえず、奈美に一言言っておくべきことがある。
「間違っても本物のペットは飼うな」
ノイローゼを起こしてしまう。
.