08:みんなが行くなら
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レンは昔の夢を見ていた。
夕方、買い物を終えた母と手を繋いで家路を辿る幼少期だ。
『おかーさん…、しんだらみんなどこにいくの?』
『んー? どうしてそんなこと聞くの?』
『今日ね、みんなで育ててた金魚がしんじゃって…』
『…そっか…。かわいそうに…』
『ねー、しんじゃった金魚はどこに行ったの?』
『天国よ…』
『てんごく?』
『うん。死んじゃったら、みんなが行くところ。みんなが幸せになれるところよ…』
『みんな?』
『みんな…というより、生きてる間に良いことした人が行くところね』
『わるいことしたひとは?』
『地獄…ってところかな。誰かを傷つけた悪い人が行く、怖ーいところなの。レンは、悪い人になっちゃだめよ』
『へー…じゃあ、×××さんはじごくに行っちゃうね!』
「!!」
早朝、レンははっと目を覚ました。
いつの間にか、自室のテーブルに伏して眠ってしまっていた。
先程見た昔の夢を思い出し、嫌な汗が浮かび、顔をしかめてため息をつく。
子ども故に無邪気に言ってしまったが、あの時の母の顔が思い出せなかった。
目を擦ったあと、私服に着替えるためにクローゼットから着替えを取り出し、寝間着代わりにしている薄手のシャツを脱いだ。汗で湿っている。
デニムパンツに穿き替え、ブラトップつきの黄色のタンクトップを手に取ろうとした時、
バンッ
由良と森尾が乱入してきた。
「由良! せめてノックしてから…」
「レン―――! 朝メシ食ったら、勝っつんがバルコニー集合って…」
由良と森尾の目にレンの全体が映り、石の如く硬直する。
レンは、ほとんど胸をさらけ出したまま同じく固まっている。タンクトップを取ろうと伸ばした腕がちょうど胸の大事な部分を隠していた。
「……ボーイッシュグラマー…」
由良が口にした瞬間、レンの顔が真っ赤になる。
右腕で胸を隠し、振り上げた左手に電流を集めた。
「出てけ―――ッッッ!!!」
バリバリバリバリバリ!!
そのあと、焦げた由良と森尾が部屋から叩き出された。
レンの部屋の前に転がされた由良と森尾は、口から煙を吐きながらぼそぼそと話す。
「あいつも着やせするタイプじゃねえか。詐欺はどっちだ…。あのサイズはCかDか…。もっかい見てこようかな」
「やめとけ、消し炭にされるぞ…。だからノックしようって…オレまで誤解されたじゃないか……」
由良は胡坐をかき、森尾は膝に顔をうずめた。
「人の部屋の前でブツブツ言ってんじゃねーよ、テメーら」
いつもの青のキャスケット帽を被り、デニムパンツと黄色のタンクトップの上に白シャツを着たレンが廊下に出る。
まだ恥ずかしさと怒りで顔が紅潮していた。
由良と森尾が同時に立ち上がるのを見て、レンは森尾の目の前に歩み寄る。
「そうだ、森尾、コレ……」
差し出したのは、左目用の黒い眼帯だ。
「……眼帯?」
眼帯を受け取った森尾は、レンに視線を戻す。
「へー、おまえが作ったのか!」
由良は感心する目で眼帯をじっと見た。
「ああ。いらない布見つけて繕ってみた。顔の火傷のサイズに合わせといたし、いちいち包帯巻かなくても済むだろ? あと、紐が千切れるかもしれないから、スペアも何枚か渡しとく」
森尾は眼帯を優しく握り、笑みを向ける。
「ありがとう、レン」
「い、いや、ほら……仲間じゃん……あたし達……。……つーか……友達? ―――なーんつって……」
レンから照れ臭い笑みがこぼれた。
すると、由良が意地悪そうな笑みを浮かべながらレンを指さす。
「レン…おまえ、前よりフツーに笑えるようになったな」
「え……」
レンは目を丸くした。
「最初、スッゲー無愛想だったじゃん」
「それは由良が悪い。あとさっきのすぐには許さねえから」
「えー」
「またケンカするなよ? 勝又さんが待ってる。由良、レン、行こう」
そう言って森尾が眼帯をつけながら先を歩き、由良に続いてレンもあとを追う。
「どう…?」
「おー。似合うじゃん、森尾」
「変」
「「!?」」
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