50:笑っててほしいんだ
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太輔は数時間前まで伶達と会っていたことを、ベンチに座る由良とレンに話した。
「よかった。みんな元気そうだな…」
「次はレンも来いよ。伶兄達もどうしてるのか気にしてたし…」
「ところでさっきから気になってたけど、その頬のアザどうした?」
「こ、これは…!」
由良に指摘された直後、自身の頬に手を添えて大袈裟に狼狽える太輔に、レンの洞察力が光る。
誰かに思い切り張り飛ばされたような痕だった。
「……太輔、奈美にも会った?」
「なぜそれを!?」
((あ―――…))
これはまた一波乱ありそうだと察するレンと由良。
レンは奈美とは連絡を取り合っているので、今度詳しく聞こうと思った。東京で仕事をするらしいから直接会うのもいい。
「メグミも油断しない方がいいかもな…」
「恵といえば、南さんとこで勤務してるとは知らなかった」
レンはそう言って、「初耳なんですけど」と責めるように由良を軽く睨み付け、肘で小突いた。
「ねちねちと責めんなよ。言うの忘れてただけだって。おまえ、取材で忙しいから」と由良。
「まったくもう…」とレン。
「フリーライターだっけ。その…、大変じゃないか?」と太輔。
太輔の視線は、レンの右手の義手に移る。
だがレンは大したことがないと言いたげに右手を軽く振った。
「大変じゃない仕事なんてねーよ。どっちかっていうと、楽しくはやれてる。バイク乗り回しながら色んなところに行けるのはいいよ。あと最近、片手打ちタイピングめっちゃ速くなった」
「っ……」
タタタターンパンパーン、と華麗なタイピングとドヤ顔のレン。由良は思い出すだけで噴き出しそうになったが顔を背けて堪えた。
「雨宮と小田はスゲーよ。世界を回ってんだし。…小田はピューリッツァー賞取ってたし…。雨宮からしたら美味しいとこ取られた気分だったろうな…」
現在は難民キャンプを取材していて、今日の新聞もコラムが記載されていた。
レンからもすすんで連絡を取り合っている。自分の書いた記事に関する意見も聞きたいからだ。
「レンもレンで、5年前のことが風化しないように頑張ってるじゃねーか」
「なかったことにしたくねーだけだよ。いっぱい死んだんだ。あの時のことを忘れたい人間も中にはいるだろうけど…。あたしの記事は、忘れたくない人が読んでくれたら、それでいい…。何十年経っても、あたしが死んだあとも、あの時のことを思い返しては、また別の誰かに伝えてほしい…」
永遠は無理かもしれない。それでも出来る限り、人の記憶から忘れられることがないように。
レンの強い想いが伝わったのか、太輔は「スゲーな…」と漏らす。
「……ところで、おまえは今…」
レンは職についているが、問題は相方の方だ。
きっちりとした仕事はしてなさそうなのは見てわかる。
「……まさか、レンばかり働かせてるわけじゃ…」
軽蔑も込めて怪訝な目を向けながら言うと、由良は「しつれーな」と手をひらひらとさせた。
「ヒモはとっくの昔に卒業してるって」
「タクミの奴、南さんのとこ中心で働かせてもらってるらしい。子ども達の面倒見たり、日本語が苦手なジャスパー(スタッフ)に教えたり…」
そう言うレンに、「病院で働く前は?」と聞いてみると、呆れたような顔になって答えた。
「なにがムカつくって、こいつあたしより要領いいクセに、短期のバイトとかやらせてみたけど、てんでダメで…」
ことごとくクビだそうだ。もともと普通に働くのは難しい人種なのだろう。
それなりの格好をさせてみても、面接の時点でアウトだったこともある。
「靴をずっと履いてもらうのも、かなり時間かかったんだからな…。たまにどこかに靴置き忘れるから探し回ったもんだ…」
思い出したレンはげんなりとした顔をした。
「子どもかよ」
それを聞いた太輔は苦笑いするしかない。
由良は他人事のように聞きながら、口に咥えた棒キャンディーをバリバリと噛んでいた。
「苦労してそうだな…」
「まあ…、こんな奴でも、愛してるから」
そう言って「食べすぎ」と注意しながら、イケメンな顔で由良のあごに付いたアメの破片を取ってあげるレン。
不意打ちでド甘い砂糖をぶっかけられた太輔は「ファ」と変な声が出た。
「太輔は料理人かぁ。…うん、似合う」
太輔の今の仕事を聞いていたレンは褒める。
太輔は少し恥ずかし気に「腕はまだまだだけど」と返した。
「髪もさっぱりしちまって」
「レンも少し髪切った?」
朗らかにそんな会話をしていると、
ゲシッ
「痛てっ!?」
太輔はいきなり、横から右のスネを蹴られてしまった。
「な…っ?」
見下ろすと、少し長めの茶髪の、4~5才くらいの小さな男の子が太輔を強く睨んでいた。親の仇を見るような目だ。
先程蹴ったのは間違いなくこの子どもだ。
「なにす…っ」
「かあさんをナンパするな!!」
叱ろうとすると子どもがとんでもないことを言い放った。
思考が一時的に停止する。
「健一郎、その人は友達」
「オレ以外の男はナンパするもんだと思ってねえか?」
そう笑いながら、由良は“健一郎”と呼んだ子どもを右腕で抱き上げて膝の上にのせた。
「ひゃはっ、ママおかえりー」
今度は、腰まで長い黒髪の、健一郎と同じ年くらいの女の子がレンに駆け寄った。
レンは抱き上げ、こちらも膝の上にのせて笑顔を向ける。
「ただいま、華音」
「え…と…、い…とこ…?」
子ども達を指さし、パニック寸前の頭で太輔はなんとか言葉を発した。
「聞いてなかったか? 娘です、あたし達の」
「息子です、オレ達の♪」
レンと由良は抱き上げた子ども達をまとめて抱きしめる。
不思議なことに、初対面だというのに、太輔にとっては初めて会った気がしなかった。
レンは改めて子どもを紹介をする。
「息子の健一郎と、娘の華音」
「双子なんだぜ。兄妹なのに似てねえだろ?♪」
「二卵性双生児だからな」
太輔はじっと健一郎を凝視した。
健一郎が「なんだ」と睨み返す顔つきは、どことなく森尾に似ているような気がする。
「……そのふたりって…」
太輔が尋ねようとしたが、レンは苦笑いを返すだけだ。
「ママ、どこ行ってたの?」
「北海道。ごめんな、5日も留守にして。あ、お土産は買ってある。希望通り、華音にはかわいい洋服、健一郎には飛行機の図鑑、タクミには北海道限定“白い○人”。南さんとこに預けてきたし、あとで渡すから」
3人の表情がぱっと輝いた。
よほど嬉しいのか、クルクルと小躍りしている。
(子どもが3人になった…)
レンは土産を気に入ってくれたことに満足し、それを眺めながら、太輔に声をかけた。
「太輔」
「!」
「あいつらはあたしとタクミの子どもだ。腹を痛めて産んでる…。どんな奇跡が起こってたとしても、それだけは間違いない…」
「……ああ」
それを聞いた太輔も、あの子ども達は何者なのかなんて、どうでもよくなってしまう。
どこにでもいる、仲良さげな家族だ。それでいいと思った。
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