50:笑っててほしいんだ
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伶達と解散したあとだった。
恵から渡された小さなメモを片手に、太輔は、とある町をウロウロとしていた。
「この先か…?」
時刻は夕方だ。
明日にすればよかっただろうかと思い悩む。
恵は地図を描いてくれたが、棒線がうねうねと紙の上を這いまわっているようで、はっきり言ってわかりづらい。
メモと睨めっこしながら公園の沿いの道を歩いていると、子ども達のはしゃぎ声が聞こえ、そちらに目を向けた。
「あ」
公園の出入り口を通過したところで一度立ち止まって、後ろ向きに数歩戻って中を窺う。
見覚えのある人物を見かけたからだ。
黒のツナギ、カラッポの左袖、あの顔。
最後に見た時から、その姿は変わっていない。
ピンクのボロボロのクロックスを履き、子どもじみたウサギのマスコットが付いたポンポンヘアゴムで髪を後ろに束ねている以外は。
1本の大きなイチョウの木の下にあるベンチに座り、スケッチブックに鉛筆を走らせている。
太輔はその人物の前まで近寄った。
なんて声をかけていいのか迷っていると、気配に気付いた相手がこちらに振り向く。
「!」
太輔を目にした人物―――由良は目を大きく見開いた。口に咥えた棒キャンディーを落としかける。
「タ、タイスケ…か?」
太輔は苦笑いで応えた。
あれから5年経過したが、未だに由良には複雑な思いを抱いたままだ。
微塵も気にしていない様子の由良は、ベンチに座ったまま気さくに声をかける。
「へぇ―――っ、久しぶりじゃねえか。大人になったなぁっ」
太輔をジロジロと上から下からと見たあと、「背ェ伸びたか?」と笑い、太輔の左腕を指さす。
「左腕(それ)、義手か?」
「あ、ああ」
見た目は普通の左腕に見えるものがあっさりと見抜かれ、意表を突かれた太輔は思わず右手で義手に触れた。
由良は「おまえも大変そうだな」と左腕を振ってプラプラと左袖を揺らす。
「おそろいだ」
「おまえは義手してないだろ」
「で、今日はどうした?」
「……メグの勤めてる病院の元・院長がレンの従姉妹だって聞いてさあ…。5年ぶりにレンに会いたくなって…」
「ミナミからメグミ、メグミからタイスケに、オレ達の住所がまわったか」
由良は「なるほど」と頷き、太輔の片手のメモを指さし、唐突な質問をぶつけた。
「おまえらって、今付き合ってんの?」
「いきなりだな!? それ聞くか!?」
顔を真っ赤にして思わず大声を出してしまった。
もともと、屋敷にいた頃から恵が太輔に好意を持っていることに気付いていた由良は、少しだけ気になっていたのだ。
太輔のリアクションを見て腹を抱える由良に対し、太輔は咳払いしたあと、話題を戻した。
「その…、レン…元気…? 今、家いる?」
由良の笑いがピタリと止まった。
「……あいつは…」
そう言いながら、空を見上げる。
切なげで遠い目だ。
「え……?」
太輔は不意に、胸がギュッとしめつけられた。
聞いてはいけないことを聞いた気がした、と思ったその時だった。
「タクミ―――!!」
通りのいい怒鳴り声が響き渡る。
はっと振り返ると、急いで走ってきた様子のレンが公園の出入口に立っていた。
ショートヘアの茶髪には、耳に横髪がかからないようにゴールドカラーのヘアピンで留められ、その恰好は、少し傷んだイエローカラーのライダースジャケット、デニムパンツ、黒のブーツのスタイルだ。右手には太輔と同じタイプの義手がつけられている。
太輔から見れば、懐かしい姿だった。
「へ!?」
太輔は頭が混乱しかける。
「あ、レン。おかえり―――」
由良は手を振って呑気に言った。
肩をいからせて近づいてきたレンは、由良の目の前にいた太輔を押しのけ、由良にがなる。
「ただいま―――。って、今日帰るって言っただろ! 鍵かけっぱじゃ家に入れねえよ! ふたりもいないし!」
「そういや、今日だったっけ?」
由良は「ははは、忘れてた―――」とお茶目に笑いながら後頭部を掻いた。
太輔は由良に顔を寄せ、レンを目を向けたまま耳元で囁く。
「生きてんですけど」
「勝手に殺してやるなよ。なんでそうなる?」
きょとんとする由良もヒソヒソと返した。
「だって、おまえ、切なそうに空見るから…」
「あいつ、北海道に行ってたんだよ、5日くらい。取材で」
「取材?」
「フリーライターだからな」
レンは「誰だ?」と怪訝そうな目で太輔をじっと見つめ、はっとする。
「おまえ、太輔か?」
「ひ…、久しぶり…、レン…。めちゃくちゃ元気そうでよかった…」
強烈な再会だった。
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