49:生きたい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
南とアンジェラに止められたが、腹部と背中の貫通した傷口を塞がれ、ジャスパーに切り裂かれた右脚を神経ごと繋げて元通りにしてもらったあと、由良はすぐにその足で学校へと走った。
まだ痛みは残っているが、それが治療中に伴った激痛の余韻なのか、完全に塞がってないのか。
とにかく、あんな荒療治は、絶命寸前以外は二度と御免だった。
何度も気絶しては無理にでも起こしてもらっていた。
学校へ向かう途中、点々と地面に落ちた義手の破片を見つけた。
この先にレンがいるのは間違いない。
「あのバカ、やられてねえだろーな?」
レンの死体は見当たらなかった。同じく、天草の死体もだ。
壮絶な戦闘の跡も見つけてしまった。
地面には焦げ跡、飛び散った血痕、勢いの付いた鉄球で粉砕されたような壁…。
どういう状況なのか読めないまま、学校も目前まで近づいた時だ。
「!!」
道すがら、レンと天草が倒れているのを見つけた。
レンは天草の下敷きになっている。
天草を抱き起こしている状態で意識を手放した様子に見えた。
「レン!」
「…!」
呼ばれたことで目を覚ましたレンは、のそりと起き上がり、ぐったりとした天草を地面に寝かせ、ゆっくりと立ち上がった。
その傍には勝又の死体が転がっている。
それを見下ろしながら由良はレンに声をかけた。
「この死体…、勝又か?」
「……………」
確認をしても、レンは答えない。どこか茫然している様子だ。
死体を観察する由良は、逃走する前の勝又の恰好とその他の特徴を捉え、確信する。
勝又の死因は、倒壊したコンクリートの下敷き。明らかに事故だ。レンの手で殺したようには見えなかった。
見たままの通りなら、あっけない死に様だった。
「レン、おまえ…、自分の手でジジイを殺したかっただろ…」
そう言いながら振り返った由良の瞳と、レンの瞳がぶつかる。
「……………」
由良はすぐに違和感に気付いた。
その瞳は、今のレンが持っているはずのないものだ。
懐かしかった。出会ったばかりの、レンの瞳だった。
だからこそ、狼狽えてしまう。
どうして、今、そんな目をしているのか。
戸惑う由良の様子に、レンは小首を傾げる。
「…?」
「おまえ…」
「……………」
「天草か?」
レンは一瞬驚いて目を見開き、口元を歪ませた。
ゴッ!
「ぐ!?」
一気に懐に飛び込まれ、由良は腹部に、硬化させた膝蹴りを食らわされた。
治りかけで、一番重傷だった、そこにだ。
ドッ!
「っ!!」
前のめりになった途端に、回し蹴りを右側頭部に食らった。
横に吹っ飛び、塀に体をぶつける。
「がは…っ」
腹を押さえていると、レンがこちらに近づいてきた。
「ああなんだ…、ジャスパーを殺したのか…。やはり、奴に貴様の相手は荷が重かったようだ…」
「テ…メェ…!」
冷たい瞳がこちらを見下ろした。
レンの口から飛び出した声は、天草だ。
「レンは…、どうした…!? つか…、どうやって…!?」
なぜ天草がレンの身体に“保管”されてしまったのか。
聞きたいことを察した天草は、ふっと鼻で笑って口を開く。
「どうやって…?“心臓の欠片”で、北条の本来の能力(ちから)の発動条件は把握していた…」
「なに…!?」
「私はただ、お願い、しただけだ」
『ああ、北条…、死にたくない…。助けてくれ』
懇願を聞いてしまったレンは、咄嗟に“保管”の能力を発動させ、死にかけの天草を自分の中に迎え入れてしまったのだ。
「残したい、助けたい、死なないでほしい…。強く願うことで、“保管”しようとするのだ…。まったく、呆れ果てるほどのお人好しだな、この女は……」
嘲笑い、指をパキパキと鳴らす。
「新しい体は、元のものより調子がいい…、だが…―――」
天草は自身の胸に手を置いた。
「器は限界を超えた。まもなく…、北条レンは消滅する」
「!!」
「ただで自害などしてやるものか…。貴様らも、道連れだ!!」
天草は身体を揺らしながら狂ったように笑う。
(レンが…、消える?)
頭に一撃食らったこともあり、由良は目眩を覚えた。
ゆっくりと呼吸を繰り返して混乱する頭を落ち着かせ、すっと息を吸って言葉を発する。
「レン!!」
名前を呼ぶが、天草はレンの顔で嘲笑しただけだった。
「くく…」
「その体から出てけ」と言っても、自分にとって都合の悪いことをする天草ではない。
しかし、指を咥えて眺めている余裕もなかった。
由良は天草を睨みつけたまま、自分の周りにシャボン玉を浮かばせる。
天草の笑みは消えない。確信を得ていたからだ。
「貴様に私は壊せない」
神社の社殿で由良のシャボン玉で囲まれた際、レンを人質にしたことで由良が鈍くなったことを覚えている。
由良がレンを傷つけるはずがない、と。
「とりあえず、黙れ」
由良自身も驚くほどの低い唸り声だ。
腹部の傷が痛む。同時に、熱くなった。
「アハハハッ!」
天草はレンの身体を使い、シャボン玉に怯むことなく由良に突っ込んでくる。
「クソがッ!」
由良は、レンの体に当たりそうになったシャボン玉を消した。
当てる気がないことは最初から知られている。
当たったとしても、レンの身体が傷つくことで悦ぶのは天草だ。
天草の左コブシが由良の顔面目掛けて迫り、由良は顔を横に傾けてかわした。
次に右脚が真っ直ぐ腹目掛けて突き出される。
由良はそれを右腕で腹を庇って受け、勢いを殺すために後ろに飛んだ。
そのあとも繰り出される攻撃を避けているうちに、不意に懐かしさを感じた。
屋敷にいた頃、初めてレンと戦った時だ。
殺す気でかかってこられたのを覚えている。
天草相手に思い出してる自分に呆れてしまう。
「!」
一瞬、気を抜いたせいで、カラッポの左袖をつかまれてしまった。
そのまま袖が千切られる勢いで引っ張られ、
ドッ!
「っぐ!?」
先程蹴られた腹をまた膝蹴りされた。
そのまま首をつかまれ、仰向けに押し倒される。
「がっ」
地面にぶつけたことで後頭部と背中に痛みを感じた。
蹴られた腹部にはじわじわと鈍痛が走る。
「ぐ…!」
さらには硬化した左手で首を絞められ、息をすることもままならない。
外そうと天草の手首をつかむが、片手だけではどうしようもなかった。
腹の上に馬乗りされているため、自力で起き上がるのも困難だ。
目の前の天草の顔は愉快に嗤っている。
「一番身近なものに、首を絞められる気分はどうだ?」
「…っ…」
さらに力が込められる。
「ああ、勝又様…。すぐに私も参ります…。あなたがいないと、生きていけません…。だって、私には…それしか……」
レンの口からはありえない言葉だ。
由良を殺したら、すぐに天草も死ぬ気だ。
必死に天草の手を外そうと力を込め、頭を振ろうとするが、どうしても抜け出せない。
気道を止められ、意識も朦朧としてきた。
ポタ…
由良の頬に、雫が落ちる。
「由……良………ッ」
視界には、笑みが消え、涙を流すレンの顔があった。
「…っ、レン…っ」
レンの存在は、すぐ消えるわけではない。
由良が中に招かれた時もそうだった。あの時はすぐに水樹に追い出されたからそれほど影響がなかったのだ。
レンはまだ、そこにいる。
「……………っ」
レンの口元が動いた。
しかし、喉が詰まったように言葉が出てこない。
必死に天草の支配から抗おうとしていた。
(なんだ? なんて言ってる?)
口元の動きを見て、何を言っているのか読み取ろうと試みる。
(「助けて」?「殺せ」?)
どちらでもない。
「…っ…、由良……」
微かに漏れるレンの言葉。
聞き取った由良は、目を大きく見開いた。
「ひだり…うで……、こわせ…」
もう一度、レンの口元が「壊せ…!」と絞り出される。
懇願するように。
由良は小さく、「ふざけんな」と唸った。
「それを…っ、 ―――それをオレにやらせるのかよ!?」
レンの涙は止まらない。
「やだ…、由良を…殺したくない…っ、腕全部失くしても…っ、一緒に…、由良と一緒に生きたい…っ!!」
「死にたくない」、「消えたくない」と駄々をこねる子どものように泣きじゃくった。
.