49:生きたい
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天草を倒した。
殺してないが、あの状態ではすぐに追いつかれる心配はない。
これで誰にも邪魔されない。誰にも止められない。
「げほっ…」
レンは先程から吐血を繰り返している。右袖からは、壊れた義手の破片がパラパラと零れ落ちた。
ふと空を見上げると、青空にオレンジ色が混ざり始めている。
時刻は夕方を迎えようとしていた。
一帯も滅茶苦茶で、テレビで見た戦場の風景を思い出す。
周囲に気を配った。真上から瓦礫が落下して当たれば笑い事ではない。
(勝又…。おまえもこの近くにいるんだろ…?)
傍観を決め込むのなら、巻き添えを食らう可能性がある学校に忍び込むことはあり得ない。
天草に見せられた、勝又の目的は人類の救済―――太輔(唯一の親友)を殺し、自我を失った広瀬が御霊を殺す様を見届けること。
近くの建物の窓から窺っていないか、学校から少し離れた道で堂々と窺っていないか、レンは辺りを見回し、学校に向かいながら勝又の姿を捜した。
「……?」
先程から、不気味なほど静かなことに気付く。
広瀬と太輔が戦っているはずだ。
あの凄まじい広瀬の能力に、この静寂は似合わない。
疑問ばかりが浮かんだ。
もう決着が着いたのだろうか。
どちらが勝ったのだろうか。
御霊は消滅したのだろうか。
「!」
少し先の電柱に、誰かが寄りかかっている。
「あ…!」
勝又だ。
背はこちらに向けられ、レンの存在に気付いていない。
学校の方を食い入るように見上げている。
レンは勝又の先を見た。
「!?」
瓦礫と化した学校の、崩れた屋上には、広瀬が頭を垂れて座り込んでいた。
レンは驚いて広瀬の出方を警戒したが、様子がおかしいことに気付く。
まったく動く気配がないのだ。何もする気がないような。
目の前の光景は、勝又にとってあってはならない誤算だった。
少し前まで、ようやく広瀬が本懐を遂げたところだったのだ。
広瀬が太輔を消滅させたことで、ついに念願の神殺しの器が完成したと思った。
しかし、ほくそ笑んでいた勝又から表情が消える。
広瀬は、その場に座り込み、茫然としたまま動かなくなってしまったからだ。
勝又の計画では、友を殺したことで純粋な破壊衝動を得た広瀬は、そのまま、“アクロの心臓”を求めて目の前に現れた御霊を破壊をするはずだった。
(なぜ、なにもしない!? “御霊”は目の前だ!! 今やらないと、“御霊”は全人類を精神体にしてしまう。人類が滅んでしまうんだぞ…!! そのために、私が、どれだけの、命を費やしたと思っている!!)
利用された挙句に死んだ能力者と、巻き込まれて死んだ人間の数々。
それらが一斉に勝又を冷めた目で睨み付けているようだった。
腹部の傷が痛む。
少し前に、ルドガーによって刺された傷だ。
人類を救うためだと訴えても、ルドガーに響いた様子はなかった。
『あなたは間違った』
脳裏に蘇るのは、冷たい否定の言葉。
『…なにが違うというのだ、ルドガー・ファンベルト』
『…答えはすぐにわかる』
『答えなど…、わかる頃には全て終わっている』
『そう…。わかってしまえば、終わりだ。…私は“生”を問うてきたが…、もし自分が、目的を果たせたなら、私は満足して、その旅を終えるだろう』
自らの目で見るといい、というように、ルドガーは勝又にトドメを刺すこともなくその場を立ち去った。
ルドガーの言葉の意味が、完全に無気力になった広瀬の前にして、勝又はようやく理解する。
そして、絶望した。
「……………あ」
その背後を狙い、レンはコブシを握りしめ、勢いよく飛んで躍りかかろうとした。
「勝又…!!」
その時、はっとする。
真上から影が迫ってきたのだ。
ドォン!!
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