48:空っぽの怪物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
満身創痍のレンと、全身硬化状態の天草がにらみ合う。
「今更、なにを抵抗する。貴様では私に傷ひとつ付けられない…。貴様とはレベルが違う…」
「そうだな…。べつにあたしは“心臓の欠片”なんて持ってないし…。だから…―――仲間に助けてもらうんだ」
「ははっ…。なんと情けない…。ひとりではなにもできないのか。無力め」
「ああ。仲間がいないと、おまえには勝てないと思ってる…」
「……………」
天草はレンの表情を窺う。
強がりで言っているわけではない。仲間に頼ることを恥ずかしいとは微塵も思っていなかった。
「いつまで…」と唸るような言葉が漏れる。
「いつまで仲間ごっこを続けるつもりだ…。それが重荷となって自分を弱くするのが、なぜわからない? いずれはその体も、弱みにつけこまれて中の者にいいように利用され…」
「人のこと覗き見してただけのくせに、わかったふうな口利くな。仲間ごっこ? 本気で言ってんのか? テメーは自分の仲間のことはなんとも思ってなかったのかよ…。勝又の連中と一緒にいたのに、仲間が死んで悲しくなかったのか? 仲間と一緒にいて、楽しくなかったのか?」
不意に、天草の胸に蘇ったのは、ジャスパー、ルドガー、ハン、ミケーレ、恵と共に過ごした日々だった。
死んだ仲間もいる。2度とあの日々は訪れない。
天草は思わず口を噤む。
本当に、壊してよかったのか。
そんな後悔を、心の水面に浮かべては無理やり沈めていた。
その様子を見たレンは、気付きはしても言いたくなかったことだが、ため息交じりに口にした。
「気に入らねえけど、あたしとおまえは、似てる」
「な…に…?」
天草の眉間にさらに深い皺が刻まれる。
レンは構わず淡々とした口調で言葉を継いだ。
「昔のあたしも、おんなじだった。友達も仲間も必要ない、そう思ってたんだ。でも…、違ったんだよ…。由良達と…色んな人達と出会ってからは…」
「……………」
「おまえがあたしのことキライな理由って、同族嫌悪みたいなもんだろが。あたしもおまえのことキライだし。……2年前、あたしのことずっと見張ってたんだろ? 羨ましかったんだろ? あたしが…、あたし達が…」
「……ふ…、ふざけたことを…」
事実、薄暗い木陰で身を隠しながらじっと見張っていた天草は、光の下にいるレン達が眩しく見えていた。
『どうして私は、あの中にいないのだろう…』
ダメだと命令されていたからだ。
父親のように、勝又から。
「天草…、おまえの近くにも、ちゃんとおまえのこと一番に考えてくれる…いい奴がいるじゃねえか…」
ジャスパーのことだった。
思わず顔を浮かべてしまった天草は怒鳴る。
「黙れ!!」
「なんでずっと、鍵もかかってない場所に閉じこもってるんだよ…」
レンはもう、押入れの中で縮こまるだけの幼い子どもではない。
自ら押入れを開け、外へと出ている。手を差し伸べて迎えてくれたのは、大切な仲間達だ。生き方も考え方もそれぞれ違い、時にはぶつかることもあったが、皆、手放しがたい存在だ。
天草はレンの背後に、これまで今に至るまで紡いできた道筋を見た。道中に出会った人間が確かにそこに在る。
由良、森尾、華音、室組、太輔、奈美、勇太、雨宮、小田、論、手塚家、稜、アンジェラ、南、柑二、アラン、バリー、水樹…。
天草自身は、前を歩く勝又の背中を恍惚気に見つめ続け、ふと、振り返り、自身が叩き壊してきた荒廃した道を見てしまう。当然、そんな崩れた道に誰もいるはずがない。
「黙れ―――!! 黙れぇ黙れ黙れぇえええ!!! ああああああっっ!!」
頭を抱えて壊れたように叫ぶ天草を前に、レンは冷静に周囲を観察し、活路を見出そうとする。
近くにある崩れたビル、それに目を留めた。
もとは2階建てなのだろうが、広瀬の攻撃が当たって崩れて瓦礫の山と化し、原型を留めていない。
鉄筋コンクリートの壁はバラバラだ。地面にはガラスや小さな瓦礫が散らばり、瓦礫の山にある壁の一部からは異形鉄筋が露出している残骸まである。
天草が発狂しかけているのを眺め、レンは左手の金属バットを握りしめながら、自身の中にいる森尾達に声をかけた。
「森尾、華音…、もう少し力貸して」
「いいけど、大丈夫なのか? 今のうちに逃げた方が…」
「レンちゃんフラフラじゃん」
「たぶん逃げても無駄だ。絶対死に物狂いで追いかけてくる…。これからやることに失敗しても、確実に死ぬだろうけどな…」
そう言いながらも口端を吊り上げるレン。邪悪な顔だ。
((あ、これ悪巧み思いついた時の顔))
森尾と華音は同時に察した。
「森尾、飛べる?」
「低空で地面を滑るくらいの能力(ちから)しか出せないぞ。使いすぎだ」
「上等。華音の方は? どれだけの火力残ってる?」
「華音は余裕~♪」
「オッケー。力技に使わせてもらうけどな…」
そこで横から声をかけられる。
「力むのはいいが、今の状態で全力は出せるのか?」
その声に、レンは目を伏せて小さく微笑んだ。
「……正直、左腕がうまく上がらない…。その部分だけ引き受けてくれるか? 兄貴」
「おう。任せろ」
レンの瞳が妖しく光り、能力を発動する。
風を身に纏い、わずかに身体を浮かせた。
「!! 逃がすか、北条!!」
殺気だった天草がレンの動きに気付き、躍りかかってくる。
同時にレンは地面を滑走した。
森尾に調整してもらい、目をつけた崩壊したビルの傍まで移動する。
「笑わせてくれる! 今の私相手に鬼ごっこのつもりか!?」
硬化したコブシを振り回す天草の動きを目で追いながらギリギリでかわし続けた。
激しい動きに左腕以外の身体が悲鳴を上げ、血を噴き出すが、止まっている暇はない。
「鬼は、あたしだ」
天草を定位置に誘い、頃合いを見て左腕を伸ばし、金属バットでその腹部を突いた。
「!?」
ドンッ!!
左手の人差し指を立てた瞬間、金属バットの先が爆発する。
「ぐ…!」
近くにいるレンも爆発の衝撃を受けた。それでも歯を食いしばって踏み留まる。森尾の風も背中を支えるように固定してくれた。
見ると、天草の硬い腹部にヒビが刻まれている。
「まだまだあああああ!!」
ドン! ドン! ドン!
叫びながら金属バットを爆破し続けた。先端から吹き飛んでいるため、削られてどんどん短くなっている。その分、レンが受ける爆風のダメージも増した。
左腕の痛みは、握りしめる力が緩まないように水樹が一手に引き受けてくれている。
金属バットの短さもついに手元だけ残った時、天草の腹部には連続の爆破を受けたことで出来た、大きな風穴が空いていた。穴から向こうの景色が見える。
普通の人間ならば絶望的な致命傷だ。
しかし、天草は「アハッ」と嗤う。
「満足か?」
ギュル、ボコボコ、と音を立て、穴の周囲から肉塊が盛り上がり、修復しようとする。
この時点で、天草はレンの絶望的な顔が見られると期待していた。
しかし、
「!!?」
レンの顔は、この時を待っていたとばかりに目を光らせ、ほくそ笑んでいる。
「ここ!!」
ドッ!
形を失った金属バットを自ら手放し、全体重をかけて真正面から天草の身体を蹴り抜いた。
踏み留まれず、瓦礫の壁に背中をぶつける天草。
やり返そうと前に乗り出すが、身体が引っかかったように動かない。
「!?」
腹部の自動修復は完了したが、脇腹部分の風穴を通り抜けた、天草の背後にあった鉄筋コンクリート用棒鋼(異形鉄筋)が修復部分に絡み付いていた。
「く!?」
まるで虫の標本だ。
天草はすぐに抜け出ようとしたが、その前にレンが手を伸ばし、異形鉄筋をつかんで強く握りしめた。
(由良のシャボン玉で破壊された時、こいつは血を流してた…。硬いコーティングがされてるのは、あくまで外側のみ。破壊された部分は、一度生身が再生してから、再びコーティングされてる…!)
驚異的な再生能力には順番があると踏んだレンは賭けに出る。
「北条…っ!」
「つかまえたぜ、天草」
バチィィッ!!
瞬間、周囲が眩く光った。
鉄製である異形鉄筋を通じて、天草の生身の体内に大量の電流が流される。
「きゃああああああああ!!」
天草は耐え切れず甲高い悲鳴を上げた。
内側から全身の筋肉や内臓が激しい痙攣を起こしたことで、バキ、ビキ、と亀裂音に伴い、天草のコーティングが弾けるように剥がれる。
生身の胸の中心部が露出したことで、その瞬間を狙っていたレンは、人差し指と中指を立てて左手を構えた。勝負は一瞬だ。
意を決して天草の胸の中心部に爪を立て、無理矢理その皮膚を突き破り、指を突っ込んだ。
ズッ…、と肉を割る生々しい感触にレンは嫌悪感が止まらない。歯を食いしばって耐えながら、さらに奥へと突き入れた。
“ここだ、悪党”
手招きするように呼ぶのは、かつての仇敵の声だ。
「かは…っ、ぃや…っ、やめ…!」
天草が抵抗する前に、レンは確かにそれをつかみ、一気に指を引き抜く。
その手には、“心臓の欠片”があった。
「あ…が…ッ」
欠片が引き抜かれたことにより、天草は急激に力を失い、全身のコーティングが細かい部分まで剥がれ落ちる。
前傾で倒れる拍子に、腹部から異形鉄筋が外れた。
シャツが破れて剥き出しの腹部の傷は、すぐには修復しない様子だ。
「か、返…っ、ゲホッ!」
取り出したところで、“心臓の欠片”の代償は大きい。その反動はすぐさま天草の身体を蝕んだ。
四つん這いの状態の天草の口から血が溢れ出し、地面に赤い水溜まりを作る。
「返し…、返じで…、それは…私の…っ。ガハッ、か、かづまだ…ざまに…、叱られ…」
血を吐き続けながらも涙を浮かべ、懇願した。
「返して」と手を伸ばされるが、レンは一歩引くだけだ。
今の天草の姿は、酷く幼く見え、かつての少女を思い起こす。
「……………」
レンは“心臓の欠片”をライダースジャケットのポケットに忍ばせ、天草に近付き、片膝をついた。
「ねえ、おねがい、返し…」
パンッ!
レンの傷だらけの左手が、天草の右頬を打つ。
「こんなもんで、命を削るな!!」
伝わっているのかいないのか、天草は茫然とした顔のまま動かなかった。
これ以上何をしてくるわけでもない。
後味は悪いが、決着はついた。
レンは天草に背を向け、その場をあとにする。
「ごほっ…。……ありがとう…、助かった」
血を吐いたあとに礼を言うと、中にいる森尾達が息をついて脱力したのを感じた。
左腕に痛覚が戻り、痛みのあまり顔を歪める。
爆風のダメージも大きい。
このまま力を抜いて倒れてしまったら、意識を簡単に手放してしまいそうだった。
(頼む、もってくれ…。もう少しなんだ。もう目の前なんだ…)
揺れる視界に耐え、住宅に挟まれた狭い道を、塀を伝いながら進んでいく。
目的の学校はもう目と鼻の先だ。
その学校の校舎も、もはや原形すら留めていなかった。
.To be continued