48:空っぽの怪物
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由良の腹部に骨の刃が突き刺さったまま、ジャスパーはその状態で腕を上げて由良の体を持ち上げ、顔を窺う。
「【死んだ?】」
重力に逆らえず、由良の腹部にさらに骨の刃がめり込む。
腹部の傷口から漏れる血がジャスパーの腕を伝い、地面に落ちた。
(痛てえ…。マジ…、目が霞んできやがった…)
「…っごほ…」
喉奥から血が込み上げ、由良は窒息する前に口から吐き出す。
「【しぶといな】」
「まだ…死ぬ気…ねえ…っからな…。へへ…」
笑える状況ではないが、つい悪い癖が出てしまう。
ジャスパーは無表情で尋ねる。
「【アンタでも長生きしたいって思うんだ?】」
その質問に由良は笑い交じりにゆっくりと答えた。
「そう…だな…。まだ…絵も描きたいし…、あと……恩返し…? ってやつ…」
「【恩返し?】」
「…オレが…生きてる…ことが…、あいつ…、レンの恩返しに…なるんだぜ…。あいつ…、オレに…スゲー惚れてるから…」
自分で言ってて噴き出してしまう。
「【この期に及んで、惚気?】」
そう言ったジャスパーの言い方には苛立ちが混ざっていた。
(そうだな…。あいつ…、オレが死んだら、泣くんだろうな…)
天草に右腕を傷つけられただけで、しゃくりあげて泣いていたのだ。
その時の泣き顔を思い出す。あまりいい気分ではない。
『あたし、由良が好き』
そこで由良は、「ああ、そうか」と気付く。
「……オレも…さ…」
(オレも…、あいつに……)
赤の他人に教えるには、小恥ずかしい本音だ。
もう「なんとなく」ではなくなっていた。
(死ねねえよなあ、まだ…)
「早く…下ろせよ…。―――殺すぞ」
「【……!!】」
黄色の瞳にギロリと睨まれ、首に大蛇が巻き付くような恐怖にジャスパーの顔が強張り、喉を鳴らす。
腕に絡みついた毒蛇を払うように腕を振るい、由良を車道に投げ出した。
「が…っ」
無理に引き抜かれたことと背中を打ちつけたことが重なり、傷口から血が噴き出した。
由良は右手で腹部の傷を押さえつけ、上半身を起こし、肩で息をする。
「【殺す…! 今、この場で…!】」
ジャスパーは骨の刃についた血を払い、由良に向かってきた。
由良の方は、立ち上がる力さえない。
目の前は霞み、視界は良好とは言い難かった。
「【脆いクセに、足掻くな!!】」
ジャスパーが突進し、骨の刃を横薙ぎにする。狙いは首だ。
同時に、由良はシャボン玉を浮かばせたが、よくても相討ちで終わるだけだろう。
(覚悟の差…)
反芻した瞬間、覚悟が決まる。
「脆いかどうか、確かめてみるか?」
口角を吊り上げ、勢いをつけて右脚を高く上げた。
「【!?】」
骨の刃が右脚に食い込む瞬間、軌道を変えて狙いから逸らさせる。
膝から下が跳んだと同時に、由良のシャボン玉は、ジャスパーの骨の刃を消し飛ばした。
「【!!】」
数秒の出来事だった。
素早く攻撃できるように、小さいシャボン玉をいくつも浮かべてジャスパーの両脚に当て、歯を食い込ませ千切るように次々と肉を抉る。腕と違い、大きく欠損させるほどではない。
「【うっ…、ぐうう!】」
ダメージは十分だ。ジャスパーは痛みで顔を歪め、バランスを崩して倒れた。
由良は右脚の痛みに叫びそうになるのを堪え、血液と唾液を飛ばしながら吐き捨てる。
「テメーもけっこう脆いなぁ!!」
「【う…っ】」
ジャスパーが殺意を込めて由良を睨みつけた。
「けど…」と由良は声を落とす。
「嫌いじゃねえ」
そして、ジャスパーを逃げ場なく囲うようにシャボン玉を浮かばせた。
囲まれたジャスパーは体を強張らせる。
由良は「動くな」と低い声で制した。
「どこを散らしてほしい? 耳か? 喉か? それとも、頭か?」
操作した1個のシャボン玉をジャスパーの頬の上で転がす。
「【あ…】」
絶体絶命の状況に追い詰められ、ジャスパーは微かに震える。打開策が全く思い浮かばなかった。
顔も恐怖の色に染まっている。
「カールの方が、まだ根性あったぜ…」
由良が最後の一手をかけようとした、その時、
「!!」
誰かが由良の背中に飛びつくようにしがみついた。
由良は咄嗟に天草と思って構えたが、由良にとって予想外の人物だ。
「はい、終わり! 由良君の勝ち!」
アンジェラだ。
「アンジェラ…」
「もう、許したって…。気付いとるんやろ? あのコは…、好きな子を守りたくて、引き返せへんかっただけや…」
慈悲を乞うアンジェラに対し、すっかり興ざめた由良はため息をつき、ジャスパーを囲んだシャボン玉をパパパッと全て消した。
「面倒見てたんなら、首輪くらい付けとけ。勝負も勝手に終わらせやがって…。こっちは右脚切り落とされたんだから、あれぐらいやらねえと…」
言いかけてジャスパーを見ると、すっかり戦意喪失している。
今にも泣き出しそうな子供のようだ。
アンジェラはジャスパーの怪我の具合を見て、「あーあ、腕が吹っ飛んどる…。手首は…そこやな。治るかな…」と呟きながらジャスパーの落ちた手首を拾い、由良に責める眼差しを向ける。
(それはちょっと反則じゃねえのか。オレが大人げねえみたいな)
「由良君!!」
後ろから聞き覚えのある声をかけられ、振り返った。
近くに停めた車から降りて駆けつけてきたのは南だ。その後ろには柑二もいる。
「あの人に送ってもらった」とアンジェラが指をさし、ここに来た経緯を説明した。
「おまえら、避難したんじゃ…」
「心配で戻ってきたに決まってるでしょ! それより由良君、脚が…。傷も酷い…」
南と柑二は由良に駆け寄って両肩を支え、傷口の具合を窺う。
腹部と背中の裂傷、切り落とされた右脚。普通なら今すぐ救急搬送が必要なほどの深手だ。
この状態で気絶もしていないことに驚かされる。
「……アンジェラ、オレの右脚、くっつけられるか?」
アンジェラは立ち上がり、由良の右脚を拾った。
「切り口がキレイやから…、いけると思う」
「ついでに、ヒドい部分も治してくんねえ? 死にそうなんだけど…」
血がドクドクと脈打ちながら流れ続けている。修復には時間がかかりそうだ。
振り返ったアンジェラの真剣な瞳と、今にも気絶しそうな由良の瞳がぶつかる。
アンジェラは低い声で脅すように言った。
「注文の多いやっちゃなー。べつにええけど…、ショック死しても知らんで?」
(……それほど激痛ってことか)
嫌な警告を聞いてしまい、由良はぐるんと視線を上げ、息を大きく吸って吐いてから答える。
「…早くしてくれ」
アンジェラの右手は腹部の傷口に、左手は由良の切り取られた脚にかざされる。
南と柑二は、由良の右脚の接合部分がずれないようにしっかりと支えた。
由良の口に南のハンカチが噛まされる。痛みの衝撃で舌を噛まないようにするためだ。
両手にゴールドリングが出現したことで、アンジェラの能力が発動する。
優しい光が傷口を包んでいくが、問題はそこからだ。
「…っ!」
途端に、チクリと痛みが走ったかと思うと、ナイフでそのままめった刺しにされるような痛みに襲われた。
「――――――――!!!」
由良は、右脚を飛ばされても出なかった、声にならない悲鳴を上げた。
「ぎゃああ」なのか、「わああ」なのか、「だああ」なのか。
遠目で眺めるジャスパーが恐怖で震えるほどだ。一度痛みを経験しているだけに、自分の弾け飛んだ腕も治してもらおうか悩んでしまう。
由良が暴れようとするので、南と柑二に押さえつけられる。
傷が塞がっていくのはわかるが、理不尽な激痛は辛すぎた。
出来るだけ痛みを誤魔化すように何か考えようとすると、帰ったら絶対描きまくってやるとレンの顔を脳裏に浮かべたが、走馬灯のようで縁起でもなかった。
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