48:空っぽの怪物
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神社で起きた天草との壮絶な戦闘後、由良は一度スケッチブックに天草を描いた。
そして、ふと思ったことがある。
(こいつの目……)
重ねたのは、出会ったばかりの頃のレンの瞳だった。
ずっと、何かに囚われ続けている瞳だ。
『初めて会った時のレン(あいつ)みたいだな…』
「チッ…」
背後からの骨の刃によって由良は右二の腕が切りつけられ、傷口から血が滴り落ちる。
もし、反応が遅れていたら、容赦なく右腕が切り飛ばされていただろう。
瓦礫からジャスパーが出てきた。
両腕で身を守ったため、両腕にはガラスの破片がいくつも突き刺さり、血塗れの状態だ。
「【あったまきた…。ラクに殺してやるものか…】」
わかりやすいほど殺気立っている。
「寝てればいいもんを…」
「【そういうわけにはいかねえんだよ!】」
ジャスパーは声を上げ、骨の刃を構えた。
「…天草のためか?」
「【ああ、そうだ。オレは教えられたんだ。勝又のおっさんの真の目的のも、アキのことも…】」
奥歯を噛みしめる姿を、由良は静かに見据え、ジャスパーの瞳を覗く。
(……天草と同じだ。こいつ、勝又(ジジイ)に操られてるわけじゃねえ…)
天草に何を吹き込まれたのか。
天草の目も、勝又に操作されているわけでもなく、しっかりと己を持ってる。
(ジジイにとって都合の良い執着を、天草とジャスパーは持ってるみたいだな…)
「【あの“力”を使わせたくなかったから、オレも参戦したのに…】」
由良は、やっぱりな、と思った。
自分を殺そうとした人間だとしても、天草はジャスパーにとってかけがえのない存在だ。ただゆっくりと死に向かっていくとわかっている天草を、放っておくことなどできなかったのだろう。
だから、天草が執着しているレンを真っ先に殺すことで、早々に決着を着けたかったのだ。
傍から見ても滑稽に映るほど、ずっと焦っている様子だった。
たとえ、天草に見向きもされないとわかっていても。
「【あの勝負は、どちらかが死ぬまで止まらない。あんたも彼女のことが大切なら、ここに来るべきじゃなかったんだ…。本気になったアキは止まらねえ…。死んだぞ、あの女】」
「おいおい、大切…なんて大袈裟な言葉使ってくれるなよ。利害が一致してるから、オレはあいつと仲良くここまで来たんだ。天草の対決のことだってレンが望んだことだ。身内をそいつに殺されかけたことも根に持ってるからな。…テメーも人のこと言える立場かよ」
最後の一言にジャスパーの片眉がピクリと動いた。
責めるつもりはないが、由良は構わず言葉を重ねる。
「大切って言葉使うなら…、テメーは天草を止めるべきじゃなかったのか?」
命を削る、というのなら、戦わせるより止める方が先だ。
ジャスパーにはそれが出来なかった。力づくでも止めるべきだったのに。
残酷な選択をしてしまったことは、ジャスパー自身も理解していた。
「【……レンが死ねば、アキは“心臓の欠片”の力を解放しなくて済んだんだ…。無駄に命を垂れ流さなくてよかったんだ…。それなのに…!】」
骨の刃の刃先をこちらに向ける。
「人のせいかよ」と眉根を寄せる由良は吐き捨てた。
「臆病モンが…」
「【ハハハ…、臆病モンか…。アンタも大概、人のこと言えねえよな…。レンセンパイのことより、自分の身体が大事だもんな…】」
ジャスパーが指すのは、由良の右腕だ。
(やっぱり、右腕狙ったのはわざとかこいつ)
嫌な性格だな、と由良は額に青筋を浮かべた。
「【…オレとセンパイの違いを教えてやるよ】」
ジャスパーはコブシを握りしめ、足下にぶつけた。
何か仕掛けてくると察した由良は反射的に後ろに飛び退く。
同時に、地中で屈折した数本の骨の刃が地面から剣山のように飛び出した。
「っく…!」
一番細い骨の刃が伸びてきて、由良の瞼を掠める。
ブシュッ、と傷口から噴き出した血が目に入ったことで思わずつぶってしまい、着地と同時に片膝をついた。
袖で傷口を拭った時には、ジャスパーが目の前まで迫っていた。
右手首から飛び出した骨の刃を振り上げる。
由良は大きなシャボン玉を浮かばせ、
バシュ!
肘から先を消し飛ばした。余った手首が宙を掻く。
次の瞬間には、断末魔を上げるだろう、と思ったが、違った。
ジャスパーは顔に汗を滲ませながらも、笑っている。
由良は目を見張った。
(こいつ…)
ジャスパーの腕は振り上げられたままだ。
(止まらねえ…!)
肘の切断口から、剣のような骨の刃が伸び生える。
「【テメーとの違いは、覚悟の差だよ!!】」
ドス!
「!!」
由良は、腹から背中にかけて骨の刃に貫かれた。
腹を食い千切られたような痛みに声も出ない。
目に映る、傷口と口から飛び出す血の一滴一滴が、スローモーションのように見えた。
(覚悟の差…。はっ、カッコつけんじゃねえよ…。……右腕吹っ飛ばされてもいい覚悟なんて、オレにあるわけないだろ…。この腕は、オレだけのものじゃ…ねえ………)
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