48:空っぽの怪物
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レンは、アスファルトに空けられた穴につまずかないように気をつけながら、“アクロの心臓”の気配を辿って走る。
「待て!」
辿り着かせてたまるかと妨害してくる、全身真っ黒に染まった天草。
レンと違って、息ひとつ切らしていない。
(あまり戦いを長引かせると、完全にこちらが不利になる…。最悪、攻撃さえさせてもらえないかもしれない)
「行かせるものか!」
天草が踏み込む前に左腕を振り、カマイタチを飛ばした。
「!」
天草に向けて三日月形の刃が水平に飛んできたそれに、天草は右腕でそれを払った。
パンッ、と焼石が弾けるような音が響き渡る。
天草の腕にヒビが入るが、すぐに修復された。
驚異の再生力だ。捨て身は覚悟の上なのだろう。
今度はレンの懐まで飛び込んだ。
だが、その前に、レンは天草の動きに合わせるように一歩下がり、常軌を逸した動きを目で追い、応戦する。
当たればただでは済まされないだろう、天草の一撃一撃を見極めてかわし続けた。
前、横、後ろから攻撃されてもだ。
天草の体や足の向き、踏み込む瞬間、風を切る音…。
能力者であり、かつ集中力を限界まで研ぎ澄ませなければ出来ない芸当だ。
レンの顔つきは落ち着いている。
冷静に、天草の動きを読んだ。
素早さでは天草より劣っていても、その動きを先読みしていればギリギリでかわせる。傷も、浅い掠り傷で済んでいた。
その経験で身に付いたものが、相手より劣ってる部分をカバーしていた。
そして何より大きいのは、自身の中にいる存在だ。ほんのわずかに身を委ねるだけでも力になる。
“心臓の欠片”の力を解放しているせいでもあり、天草も、まさかの事態に冷静さを失っていた。
攻撃が一度止まり、距離を置いて走りながら、レンと天草は睨み合い続ける。
交差点を右に曲がると、先に小さな堤防が見えた。
堤防沿いを走ろうとしたとき、再び天草が突っ込んできた。
右コブシで殴りかかってくる。
レンも左コブシを振るい、天草のコブシとぶつかる瞬間、森尾の能力を借りて風圧を浴びせた。
ドオン!!
力がぶつかり合ったものの、勢いが強すぎて吹き飛ばされ、天草は近くのブロック塀に背中をぶつけ、レンは堤防を越えて川に落ちてしまった。
ドボンッ、と大きな水飛沫が上がり、冷たい水が全身を包む。
「ぷはっ」
川の水の冷たさに驚き、急いで上半身を起こしてから立ち上がった。
水の深さは膝まである。
濁っていて、綺麗とは言い難い水だ。傷口にバイ菌が入ってしまわないか心配になる。
「汚ねえとこに落としてくれたもんだな…」
ブーツに水が入り込み、気持ち悪い。
「お似合いではないか」
嘲笑を浮かべて、堤防から天草が飛び降りてきた。
目の前に着地したことで水しぶきが上がり、近くにいたレンはそれを被ってしまう。
「腹立たしい目をしている…。私の攻撃を防いだからと言って、いい気になっているのか?」
レンは左手で服の裾をつかみ、強くねじって水を絞りながら言った。
「どういう視力してたら、そう見えるんだよ? 明らかに余裕ねえだろ」
風が吹き、寒さで体が震えるのを堪える。
「そうだな。疲れている様子だ」
ふっと笑った天草は言葉を続けた。
「こちらも時間が惜しい。さっさと始末させてもらおう…。勝又様のために」
「そんな状態になっても、やっぱり勝又の忠犬だな」
レンは嘲笑を向ける。
だが、天草はいきっぱりと言い切った。
「勝又様がいなければ、私の存在はなかった」
思わずレンの顔から笑みが消える。
天草は思い出しながら恍惚気に言葉を重ねた。
「あの方が私に手を差し伸べてくださったのだ。必要だと言ってくださった…。あの方のためなら、この命を利用されることも厭わない」
レンからすれば、聞いてるだけで、はらわたが煮えくり返そうな理由だ。
利用されても平気、というのは間違いなく本気だろう。
(一番腹立つのは、あたしと天草は…―――)
その先を思う前に、天草は挑発的な言葉を投げてきた。
「2年前、勝又様の命により、貴様のことをずっと見張っていた。勝又様のことをなにも知らず、仲間ごっこをしていた貴様らは、怒りを通り越して滑稽だったぞ…」
聞き捨てならないレンはピクリと反応する。
保っていた冷静にヒビが刻まれたのを感じた。
レンの冷静さを欠こうとしていることは、頭の中では理解してるつもりだ。
天草の挑発は続く。
「今度は“心臓”を壊すつもりか? そんな無謀なこと、出来るはずもない…。“心臓”を前にした貴様にはわかっているはずだ。あんなに愛おしいものを前にした能力者達は無力だ。見惚れて動けはしない。空っぽの怪物でもない限り…壊せるわけがない…」
ほくそ笑み、見透かした目でレンの目を見つめていた。
(空っぽの怪物…)
レンは含みのある言い方が引っかかった。
“レン、避けろ!!”
森尾の声が頭を叩き、はっとして反射的に右に飛ぶ。
ゴッ!!
一気に突っ込んできた天草の振るわれたコブシが、レンの背後にある堤防に当たった。
コンクリートで造られたそれは、当てられたコブシを中心に大きなヒビを刻み、粉々に砕ける。
今のを無防備で受けていたら、体をバラバラにされていた。
「……精神体となってもジャマをするのか、森尾健一郎。貴様も、いつまでもそこに閉じ込められ続けるのは、苦痛ではないのか。その気になれば北条の命を破壊し、身体を奪ってしまえばいいものを…」
「ほっといてくれ。居心地はいいんだ」
レンの口元を借りて森尾は答える。
「理解に苦しむ…。貴様らもまた、くだらない仲間ごっこを続けているのか。死してもなお、哀れな成れの果てだ」
「え―――、このブス、超~~~ウザいんですけど―――。勝手に華音達のこと、わかった気になんなっつーの。キモッ」
中指を立てて言い放った華音の言葉に、天草の目元がピク…と痙攣した。
レンは「行儀が悪くてな」と咳払いする。
「まとめて死ね」
「嫌に決まってんだろ」
バチッ!
試しに電流を流してみる。川の水を通して感電してくれないかと期待した。
しかし、青白く光ったものの、天草に感電した様子はなかった。
全身をコーティングしている黒曜石みたいな皮膚が感電を妨げているのだ。
「やっぱり効かないか」
露骨に殺気を放つ天草が身構えたことで、レンは川で見つけた、足下に隠していた物を足の甲で拾い、天草に向けて蹴り上げる。
川の水が入ったままのスチール缶だ。
水面に落ちる前に人差し指を向け、音波を飛ばす。
ドォンッ!
「!」
大きな水飛沫が上がり、目の前に一瞬の水の壁が作られた。
お互いの姿が視界から消える。
「川のゴミは感心しねえが、助けられた」
その隙に、レンはすぐに大きくジャンプし、堤防の上に飛んで先を走った。
「逃がすか!」
天草が追いかけてくる。
背後を気にしながら、レンは華音に声をかけた。
「華音、やっぱり「ブス」は言いすぎだと思うわけ」
「ふ―――んだ」
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