47:ふたりだけじゃない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
天草以外、その場にいる能力者は背筋が凍りつき、冷や汗が頬を伝った。
息は苦しく、胃が痛い。喉元にずっと刃先を突きつけられている感覚だ。
レンと由良、天草の味方であるはずのジャスパーまで硬直している。
両目と口以外、全身が真っ黒に染まる天草の身体。
肩を激しく揺らしながら不気味に笑い続ける天草は、はっ、と何かに気付き、苦し気に頭を振った。
ギョロッとした狂気を纏った目がレンを捉える。しかし、その瞳の奥には、必死に正気を手放すまいとする光が見えた。
「ありがたく思え…、北条…。命懸けで、貴様を、殺してやる…!!」
「逃げろ!」
由良はレンに向かって声を張り上げるが、レンは動かない。怯んでいるわけではなかった。
ただじっと真っすぐに天草を見据えている。
「やっぱりそうくるよな…。命懸けとは光栄だ」
口角を上げ、レンは手招きした。
「遊ぼうぜ、天草」
誰かに言ってほしかった言葉に、天草は口端を歪める。
瞬きをした途端、天草は一瞬でレンの背後に回り込んでいた。
神社で戦った時と同じだ。一瞬で回り込まれてしまう。
レンが振り返る前に、天草はレンの右肩をつかんだ。
「つっ!?」
レンが痛みで片目をギュっとつぶった。
いきなり力を込められたからだ。
ガシャアン!
「レン!!」
レンは横に吹っ飛ばされて車道を越え、向かい側の喫茶店の大きな窓に突っ込んだ。
派手にガラスが割れ、外と内の床に破片が落ちる。
由良の立ち位置からでは、割れた窓ガラスの先の薄暗い店内がわからない。
目の端に白い影が映り、反射的に横に避けた。
骨の刃が由良の顔のすぐ横を通過する。
ジャスパーが憎々しげにこちらを睨みつけていた。
「【テメーらのせいで…!】」
出来ることなら、天草に“力”を使わせたくなかった。
通常の状態で始末をつけたかったが、こうなってはジャスパーは居ても立っても居られない。
「【あの女を早く殺さないと…、殺さないと…、アキが…!!】」
落ち着きを失っているのは一目瞭然だ。情けないくらい焦るジャスパーの姿に由良は舌打ちを漏らす。
「メンドクセー奴だな!」
シャボン玉を浮かばせ、先にジャスパーから片付けようとしたが、背後に気配を感じ、不覚にも動きを止めてしまった。
「アハハハ!」
振り返った瞬間、真っ黒な手のひらが由良の喉元に向かってくる。
「!?」
避けるために足を動かそうとしたが、右足の甲に痛みを感じた。
ジャスパーの人差し指の骨の槍が由良の足の甲に突き刺さったからだ。
不意にバランスを崩してしまう。
天草の指先が由良の左目を貫こうと迫ってきた。
由良はすぐに足下からシャボン玉を浮かばせたが、間に合わない。
ボンッ!
瞬間、天草の左肩が爆発した。
「!?」
由良、天草、ジャスパーの視線がそちらに向けられる。
喫茶店の割れた窓枠に足をかけ、レンが身を乗り出していた。
「そいつを殺したいなら、あたしを殺(や)ってからにしやがれ!」
レンの手には、喫茶店にあったフォークが握りしめられている。
レンと目を合わせた瞬間、察した由良は、シャボン玉で足の甲に突き刺さった骨を消し飛ばし、飛び退いて天草から離れる。
同時に、レンはフォークをダーツのように天草に投げつけた。
天草は笑みを浮かべながら片手でそれを右手で掴み止める。
「子ども騙しな…」
言いかけ、こちらに人差し指を向けるレンにはっとした。
レンの傍に、レンの腕に絡みつく華音の姿を見る。こちらを見据えながらレンと同じポーズをとっていた。
ドンッ!
フォークが爆発する。
「く…ッ」
右手の指が吹っ飛んで流血した。しかし、“心臓の欠片”の力ですぐに再生する。
傷口から肉塊がうねうねと蠢き、爪先まで復活した生身の右手は、再び硬化の黒コーティングで覆われた。
「貴様!!」
怒りでカッなった天草は思い切り踏み込み、レンの懐に潜り込む。
レンは天草が攻撃を仕掛ける前に、身を屈め、左の手のひらを天草の腹部に軽く当てた。
天草の目に、レンの肩に手を添える森尾の姿が映る。
ゴウッ!
「う…ぐぅっ!?」
腹部に風の塊を食らった天草は、後ろに吹き飛んだ。
「【ぐ!?】」
車道を越える前に、飛び出したジャスパーは天草を受け止めた。
しかし、勢いに耐えきれず、後ろに倒れてしまう。
レンの周囲に風が懐くように取り巻く。その傍に由良が近付いた。
「……意識はレンのままだよな?」
「ああ」
そよ風を纏いながら、レンは自身の声で答える。
「長時間は使い続けられないんだ。ふたりが疲れるからな」
まるで指揮者みたいだ。
何かをつかむような動きでコブシを握りしめると同時に、風が止む。
レンは由良の隣に並んだ。
ガラスで体中傷だらけだ。頭から血を滴らせ、目に入らないように、瞼の上まで流れてきた血を拭う。
レンは右肩に痛みを覚えた。とてつもない力でつかまれたため、骨は砕かれていないが内出血している。
その状態でも、レンの真剣な目は天草を捉えていた。
由良が声をかけようとしたとき、口を開く。
「長引きそうだ」
天草達が立ち上がった。
レンはそれを睨みながら言葉を重ねる。
「由良、戦いながら移動しよう。“心臓”のもとへ」
「…一緒に?」
尋ねた由良に、薄笑みを浮かべて答える。
「引き剥がした方が、由良も戦りやすいだろ?」
1対1に引きずり込む気だ。
天草とジャスパーが鋭い目つきをこちらに向け、様子を窺っている。
「…大丈夫…」
レンは呟くように言った。
「―――あたし達は、ふたりだけじゃない」
「……そうだな」
由良にも見えている。
自分達の傍には、森尾と華音、そして水樹が立っていた。
「北条レン!!」
天草が叫んだと同時に、レンと由良は互いに逆の方向に飛び、距離を置いた。
天草の狙いはレンだ。
ふっと天草の姿が消える前に、レンはすでに動いていた。
勢いをつけ、背後に振り返る。
それと同時に、レンの背後に天草が現れた。
左手を伸ばし、軽い力で天草の腕を受け流すように弾く。
「!?」
天草が一番驚いていた。
目を見開き、レンの顔を凝視する。
「なぜ…!?」
今までのレンとは違った返しだった。突然の、型を持ったレンの動きに驚く天草に、レンは不敵な笑みを浮かべて手のひらを突き出す。
「いい師匠がいるからな」
レンの頭に過ぎったのは、奈美との鍛錬だ。
ゴウッ!
「ぐ!!」
再び天草に風の塊を当て、後方へと吹っ飛ばす。
先程より威力は落ちていた。連続で使うのはやはり抑えた方がいいと判断する。
「レン!」
「ああ。 あとでな!」
距離を空けたタイミングで、由良とレンは同時に走り出した。
背後にいる天草とジャスパーが動き出す前に、Y字路で二手に分かれる。
由良は右の道、レンは左の道。
「ジャスパー! 私は北条レンを追う…! そちらは任せる」
「【アキ!!】」
天草がジャスパーに声をかけ、予想通り、レンのあとを追った。
ジャスパーは分かれ道で迷った挙句、後ろ髪を引かれる思いで任された道を選ぶ。
これで天草とレンの状況がわからなくなった。
走りながら由良は肩越しに振り返る。
すぐにジャスパーが追いついてきた。
ジャスパーは距離を置いて由良の横を走り、手首から飛び出した骨の刃を構える。
「いいのかよ、こっちに来て。彼女がいなくて寂しくねーの?」
「【テメェ…!】」
挑発に乗ったジャスパーは、骨の刃を伸ばしてきた。
由良もすぐにシャボン玉を浮かばせて飛ばす。
“アクロの心臓”を目指し、追いかけっこが始まった。
.To be continued