47:ふたりだけじゃない
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柑二が運転する車の後部座席に座るアンジェラは、膝に猫2匹をのせながら、携帯電話から現在の東京を見る。
能力者の存在を知る、レインのサイトからだ。
サイトの管理人であるレイン、もとい雨宮が東京に潜伏し、情報をこちらに送っている。
「酷い状況ね、東京は…」
アンジェラと同じく、自分の携帯電話を手にサイトから状況を確認する南が呟いた。
柑二も気になるが、運転中に携帯電話を触ることができない。
投稿される写真と映像の内容を見て、アンジェラは思わず「うわ…」と言葉を漏らした。
黒煙が上がる空、崩れた建物、兵士達の死体、穴だらけのアスファルト…。
アンジェラの中に、暴走する広瀬と破壊されていくプラットホームが過ぎった。
(【これが“アクロの心臓”の圧倒的な力…。この戦争に…勝てるの?】)
「レンちゃん…、由良君…」
映像を見つめていた南の手が震えている。
レンと由良は今まさにこの渦中にいるのだ。
アンジェラはジャスパーのことも気がかりだった。置いてけぼりにされ、ただただ悔しい思いに打ちひしがれる。
(【私にできることは、なにもないの…?】)
何かあるはず、と思っても、具体的なことが思い浮かばない。
アンジェラの能力は“療治”。
到底、戦いには向いていない。戦いを止めることなんてできるのだろうか。
画面の左上に何かがピカッと光った。
“アクロの心臓”が派手に暴れているのがわかる。
またひとつ、大きな穴が増えた。
「いったい、東京で、あのコらはどんな戦いをしとんや…」
不甲斐ない自分自身に腹が立って、コブシをぎゅっと握りしめる。
それは、南も同じだった。運転席の柑二に声をかける。
「……柑二」
「え?」
*****
レンは天草が振るう小太刀を、後ろに飛び退いたり、上半身を反らしながらかわしていく。
由良は大丈夫だろうか、と気になって意識をそっちに移す。
由良は、ジャスパーの骨の刃を上半身を反らしながら、ひょいひょいと身軽にかわし続けていた。
あれにはレンも幾度も翻弄されて腹が立ったものだ。
なかなかヒットしない攻撃にジャスパーが少しムキになっていた。
「【ちょこまかと動きやがって!】」
「テメーこそ…」
由良はシャボン玉を浮かばせ、ジャスパーに向けて飛ばす。
「さっさとキレーに散っとけ!」
「【お断りだ!】」
ジャスパーは足下のアスファルトの破片を拾い上げ、シャボン玉に投げ飛ばして破壊した。
レンは「ん?」と怪訝な顔をする。
(あれ? 由良の奴、ちょっとイラ立ってる?)
おそらく2人の精神年齢は同レベル。
由良はシャボン玉を飛ばし、ジャスパーは骨の刃を伸ばした。
骨の刃は由良の左脇を切りつけ、ジャスパーは間近に迫ったシャボン玉を左手の骨の刃で破壊したはいいものの、余波を顔面に受けてしまう。
「【しぶっといな、さすがセンパイ。そうこなくっちゃ、逆に失望するとこだったよ】」
「いちいちエラそうだな、テメーは。図に乗りすぎ」
「【どっちが。もう素直に殺されときなよ。この間、アキにボッコボコにやられたクセに。ダッサ】」
「ダサ…」
額に青筋を浮かべる由良が小さく反芻した。
「そのアキセンパァ~イとやらに、あっさりとフラれたのは誰だっけ? 女のケツ追っかけてるストーカーヤロウ。そんなにセンパイのヒップラインは魅力的かよ?」
「【ストーカー…】」
ジャスパーも同じくピクピクと青筋を浮かべる。
聞いてたら、レンの方がハラハラしてきた。
天草も「ヒップライン…」と下品な言葉に引っかかっている。
「【不潔、変人、ガサツ女好き―――!!】」
(ガサツってあたしのことか!!?)
流れ弾を受けるレン。
「クソガキ、粘着質、高慢ちき―――!!」
「【高慢ちきはどっちだ―――!!】」
熾烈な戦いになってきた。
「ガキ共が…」
レンは呆れ返ってしまう。
天草もどうしようもないと言いたげなため息をついた。
「お互い、大人げない相方を持つと苦労するな」
「まったくだ」
不本意だが、天草と意見が一致する。
「【あんだけアキに痛い目に遭わされて負けたクセに、わざわざ殺されに来るなんてバカな奴らだよ、アンタら…! 勝てるわけねーだろ!“心臓”を相手にするようなもんだぞ!】」
ジャスパーの骨の刃を避けながら、由良は「フフン」と鼻を鳴らした。何もわかっちゃいない、と言いたげだ。
「レンだって、天草に勝ってるとこはあるぜ」
「【あ?】」
訝し気な顔をするジャスパーに、由良は自身の胸を軽く叩いて言い切った。
「胸のデカさ・形ならピカイチだ!」
その場の空気がフリーズする。
「包容力た―――っぷりのダブルマシュマロに挟まれたことあんのかテメエ!?」
「【マ、マシュマロ…】」
「あとおまえガサツっつったけど、あいつ、夜はけっこういじらしいんだぜ。以前は暗いところキライだったくせに、「恥ずかしいから電気消して」とか…」
目に余る惚気話が始まりそうになり、ついに耐え切れなくなったレンは、天草に向かって「タイム」と左腕と義手でバツ印を作り、一度その場を離れてつかつかと由良の背後に歩み寄る。
ゴン!!
それから、その頭をコブシで殴りつけたのだった。
((【包容力とは?】))
天草とジャスパーは同時に疑問を浮かべた。
「バカやってないで黙って戦えよ!!」
真っ赤な顔で怒鳴るレン。殴りつけたコブシからは煙が出ている。
由良の頭頂部には大きなコブが生えた。由良はその場にしゃがんで「うおぉ、伏兵…」と唸りながらコブを擦る。
「ったく、珍しく苦戦してんじゃねーか」
「おいおいいつもの調子はどうした」と挑発的に笑うレンに、由良は「仕方ねーだろ」と眉を顰めた。
「エラそうに言うなら、テメーもさっさと終わらせろよ」
「そうしてえんだけど、あの刀が厄介なんだよ。知ってんだろ」
肩を竦めてレンはため息をつく。
由良は肩越しに天草の小太刀を見た。
「オレもさっさと終わらせてえけど、あのガキ、足速くって」
そう言って、「ははっ」と困ったように笑う。
「ハグはされるなよ。全身の骨砕かれるからな」
「イヤな死に方だなー。どうせハグで死ぬならマシュマロバストで窒息死の方がいい~」
「まだ言うか! ビリビリさせるぞ!」
漏電して脅すレンに、由良は「おっと」と一歩離れた。
レンと由良は互いに背中合わせになり、一瞬、肩越しに目を合わせる。
当然、この状況でも警戒は怠らなかった。
天草とジャスパーが動くと同時に、レンと由良も動く。
レンは天草の後ろに回り込んだ。
天草は動きに合わせ、こちらに振り返る。
レンは天草越しの由良とジャスパーに視線を送った。
由良もレンと同じく、ジャスパーの後ろに回り込んだ。
レンはニヤリと笑みを浮かべ、左手にバレーボールサイズのプラズマを出現させる。
「馬鹿のひとつ覚えだな。結局貴様は前となにも変わらない」
挑発をしても、レンの表情は落ち着いている。
違和感を感じた天草はレンの動きを観察した。
レンは大きく振りかぶり、天草にプラズマを投げつける。
変化球もなく、一直線に飛んできたため、少し横に跳んだだけで避けられた。
天草は「ハッ」と嘲笑し、両手で小太刀を握りしめて振り上げる。
「どこを狙っている!?」
今なら、一気に詰め寄り、真正面から深手を負わせることができる位置にレンは立っていた。
「「そこだよ」」
瞬間、レンと由良の声が重なる。
「「【え?】」」
ちょうど、天草の背後で戦っていたジャスパーも、飛ばされたシャボン玉を避けたタイミングだった。
ジャスパーから外れたシャボン玉は、天草の背後に迫った。
反対に、レンが投げて天草に避けられたプラズマが、ジャスパーの背中に直撃する。
ビシャァッ!
「【ぐああ!!?】」
バシュッ!
「な!?」
天草は鼻先まで迫るシャボン玉に気付き、咄嗟に小太刀で防ごうとした。
シャボン玉が当たり、刀身と柄がほぼ消し飛ぶ。
両手に余波を受け、痛みを覚えた。
「く…っ」
天草は片膝をついたジャスパーと背中合わせになる。
(奴らめ…、そうきたか…!)
天草とジャスパーが避けるのをそれぞれ見越し、避けた先に現れる新たな的に攻撃が当たるようにタイミングを合わせて仕掛けたのだ。
狙いは、相方と対する相手。
(言葉もかけあわずに…。見事な連携だ)
レンと由良が背中合わせになったとき、互いに目を合わせた場面を思い出した。
あの時に…、と舌打ちをする。
「ミスった。体には当たらなかったな」
由良は苦笑しながら、自分の後頭部を掻いた。
「刀消し飛ばしてくれたのは助かる」
レンは笑みを浮かべて返事を返す。
「貴様ら…」
天草は憎々しげに目の前のレンを睨みつけた。
背後のジャスパーは、呻きながら立ち上がろうと身体を起こす。わずかに痙攣している。
「【ク…ッソが…! シビれたぜ、今のは…!】」
レンは「げ」と表情を歪めた。
「おいおい、立てるのかよ…」
「ん?」
このまま戦闘が再開されると思ったところで、由良がレンに言った。
「…レン、ヒロセの奴、どっか行っちまったぜ?」
広瀬がこの場にいないことに気付いた様子のだ。
「“アクロの心臓”の反応でわかるだろ。それに…、広瀬はたぶん…」
広瀬が向かった先を、なんとなくわかっているような口ぶりだ。
「時間がねえ。一度離れるか…」
由良のその呟きに、はっとした天草はレンを睨みながら声を上げる。
「行かせるものか…! “アクロの心臓”のところにも、ましてや、勝又様のところになど…!」
一目見るなり、レンは勝又を殺しにかかるはずだ。
“ははは…”
胸の内から、銀夜の笑い声が響く。必死な天草を嘲笑うように。
天草は胸に手を当て、ざわつく心を懸命に抑えようとした。
(黙れ…)
「【アキ!?】」
胸に手を当てた天草の姿を見たジャスパーが異変に気付く。
「【よせ】」と手を伸ばして止めようとしたが、間に合わなかった。
『もう…、おまえの好きにしていい…』
おまえのことなど、どうでもいい。
父親の投げやりな言葉が、無慈悲に、そう聞こえたのだ。
ズクリ、と身を掻き出される痛みが走る。
「黙れェェェエェl!!」
壊れた叫び声と共に、天草は再び“心臓の欠片”の力を発動させた。
気分が高まり、感情がどす黒く染まっていく感覚が堪らなかった。
我慢などしなくていい、と許される気がする。解放感と愛おしさが止まらない。
涙も溢れてくる。
同時に、底が割れた砂時計のように、命が削られていく感覚だけは確かに自分の中にあった。
(勝又様の意志と自分の使命だけは、なにがあっても…忘れ……なにが…ナニ…………)
「アハハハッハハハッハハ!!」
(愉しい。愉しい。愉しい。ねえ、遊ぼうよ…)
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