47:ふたりだけじゃない
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4人の能力者は同時に踏み込み、己の能力をぶつけ合った。
レンは広い大通りに飛び出し、身構える。
天草は小太刀を構え、切りかかってきた。レンの顔目掛け、小太刀を振り下ろす。
レンは身を反らして避け、小太刀の刃先が地面を穿つ。天草の身体は小太刀を支えにすかさず宙で半回転した。足先がレンの額を掠る。
レンは怯まず踏み出し、電流を纏ったコブシを突き出した。指先が天草の右肩を掠め、触れたシャツの部分が焦げた。
天草は涼しい顔でそれを払い、レンは飛び退いて一度距離を取る。
「毎回思ってたけどその刀、何本持ってんだよ?」
叩き折ったかと思えば、次会った時には新しい物を携えているのだ。
レンはいい機会だと思って質問を投げた。意外にも天草は答える。
「家には余るほどある」
「…まあ、日本なのに銃を持ち歩いてた奴らよりはいいか。…いや、いいことないよな、この銃刀法違反め」
不意に室銀夜やその仲間のことを思い出して懐かしくなった。
何度も銃弾を受けたレンとしては、もう拳銃を相手に戦いたくはない経験がある。
「銃か…。あんな…子どもでも引き金を引けば簡単に撃てるような野蛮な産物、私の流派は絶対に使わない。今の時代に合わせる気もない…。……だから、捨てられたんだ」
天草は最後に自嘲を含めて呟き、刀身から目を逸らした。胸に思い起こすのは、主人に全てを否定され、頭を垂れる父親の情けない姿だ。
レンが隙を見て動き出そうとした時、不意に、天草が弾かれるように踏み込んで距離を縮めてきた。
刀を振り上げているため、切りかかってくるかと思って左手で義手をつかんで防御しようとしたが、
ドカ!
「う!」
硬化させた右足の蹴りが突き出され、レンは義手で庇う。
だが、勢いに負けてそのまま後ろに吹っ飛んだ。
その際、天草の「ほら、なにも変わらない」と言いたげな嘲笑の笑みを見た。
レンは空中で体勢を変え、後ろに迫るビルの壁に手足をつく。
「!」
天草が驚いた顔をした瞬間、レンは壁を踏み切り、バネのようにそのまま天草に捨て身で迫った。
それから、空中で身を捩り、
ゴッ!
「!!」
両足で天草の頭部を蹴りつける。
「くっ…!」
よろめく天草は、刀を支えに体勢を保とうとする。
咄嗟に頭部を硬化したが、衝撃まではガードできなかった。
それをレンは見逃さない。
すぐに天草の懐に入り込み、左足を天草の腹に打ち込んだ。
「ぐ…!」
「…っ!」
足に鈍い痛みが走る。
寸前で部分硬化されたようだ。
(どんな反射神経してんだよ…!)
内心で舌打ちをすると、「ふふ…」と前から笑い声がかけられた。
天草が不敵な笑みを浮かべ、レンの突き出された状態の左足首を片手でつかむ。
「!」
そのまま小太刀が下から振り上げられた。
「チッ」
レンは体中から電気を放電させて片足をつかまれたまま身を捻る。その拍子に天草の手から左足が外れるが、完全に回避することはできずにアゴから左頬にかけて切り上げられ、縦一線の浅い傷ができた。
空いた右足で天草の胸の中心を蹴りつけ、地面に倒れる前に左手をついて受け身をとり、体勢を戻す。
それから天草と距離を置き、アゴの血を手の甲で拭った。
天草は忌々し気に胸を擦り、レンの鼻先に小太刀の刃を向ける。
「貴様の全て、今日こそ奪い取ってやる…!」
天草の視線が、戦闘中の由良を一瞥した。
レンを始末したあと、続けて由良も殺す気だ。できればレンを一度動けなくして目の前で殺害したいと思っている。
レンは甘く見られてることに、怒りを通り越して口角を吊り上げた。
「テメーにやるもんなんざ、ひとっつもねえよ!」
バチバチと身体から電流が迸る。
天草が動くと同時に、レンも走り出した。
天草の振るう刀身を見切り、電流を纏ったコブシを刀身の側面に打ち込んで跳ね返す。
両者、歯を食いしばり、攻撃を休めなかった。
一方、由良はチラリとレンと天草の戦いを見る。
戦況はほとんど互角だ。
レンが押してるかと思えば、形勢を逆転されるの繰り返し。
「やってるなー」
レンは義手でうまく防御したり、吹っ飛ばされても上手く反撃したり、天草の動きを目で追いながら仕掛けたりしている。
「【よそ見禁物!】」
ゆっくり観戦したいところだが、ジャスパーがそうはさせなかった。
背後に回り込まれ、両手の手首から突き出た骨の刃を伸ばされる。
バババババッ
由良は振り返ることなくシャボン玉を浮かばせ、それを破壊した。
「【!】」
「2度と背後はとらせねえ」
ベッと舌を出して振り返り、シャボン玉を浮かばせてジャスパーに飛ばした。
ジャスパーはその場に片膝と手をつく。
その格好は、クラウチングスタートに似てるが、獲物を狙う肉食獣にも似ている。
「!」
(なんだあの脚)
筋肉が軋む音が聞こえたかと思えば、ジャスパーの脚の筋肉があり得ないほど隆起した。
「【真正面から貫かれてほしいんだ?】」
顔を上げたジャスパーは不気味な笑みを浮かべる。
飛ばしたシャボン玉がジャスパーの頭に直撃する寸前、ジャスパーはそれをかわし、とんでもない速さで突っ込んできた。
「!?」
飛んでくるシャボン玉を擦れ擦れでかわし、右手首の横から骨の鎌が飛び出し、由良の首目掛けて横に振るう。
「っ!」
由良は飛び退いたと同時に、首に痛みを感じた。
頸動脈をやられたかと焦って首に触れたが傷は浅い。
距離を置こうとしたが、ジャスパーはしつこかった。
イノシシの如くこちらに突進してくるジャスパーに対し、由良は自分の目の前にシャボン玉をいくつも浮かばせる。
さすがにこれだけ詰めて浮かべれば止まると思ったが、とんだ曲者だった。
ジャスパーは立ち止まり、右手と左手をかざし、指から10本の細い骨を飛び出させる。
ビュ!
「つっ…!」
3本ほどシャボン玉の隙間を通り抜け、内の2本が由良の右頬と左のこめかみを削った。
「由良!!」
横薙ぎの小太刀を身を屈めて回避するレンが、視界の端に映った由良の様子に気付いて声を上げる。
「心配すんな、テメーはそっちに集中しろ!」
由良はジャスパーを睨みながらレンに返し、こめかみの傷から流れ出る血を手の甲で拭った。
(骨と筋肉を自在に操るのか。しかもこいつ…、随分と戦い慣れしてやがる…。どんな修羅場をくぐってきたんだか…)
海外でレンと再会した時に見た、レンの傷を思い出す。
ジャスパーと戦っていたことは聞いていた。
レンもジャスパー相手に苦戦していたことがわかる。しかもレンさえ逃げるだけで精一杯だったとか。
首の傷を人差し指でなぞる。
頸動脈は切れてないようだ。
「【切れ味抜群だろ、オレ様の骨は】」
前を見ると、ジャスパーは骨の刃を指先でなぞっていた。
ムッと調子づかれていることに苛立つ由良。
自分の人差し指を見ると、首の血が付着していた。
それを舌先で舐めると、鉄の味が口の中に広がり、甘いもので口直ししたくなる。
「【センパイ】」
ジャスパーは、早くかかってこいよと言わんばかりに、挑発的に由良に骨の刃を向けて手招きした。
由良は、プッと唾液を地面に吐くと同時に、シャボン玉を浮かばせる。
顔からは表情が消えていた。黄色の瞳がジャスパーを捉える。
(【……そろそろ本気出してくるかな…】)
由良を纏う空気が変わり、ジャスパーの背筋が粟立った。
天草とレンの戦いを流し目で見たが、どちらが有利かなんてわからない戦いだ。
功防はほぼ互角。どちらも余裕がある様子だ。
天草はまだ“力”を解放してない。レンからはこちらを気にする余裕が窺えた。
由良の状況を気にするレンは、プラットホーム潜入前にジャスパーと一戦交えたことはあるものの、当時の戦闘で見せなかったジャスパーの引き出しの多さに内心穏やかではない。
(【ユラを殺したあと、絶望したレンを、アキと一緒に殺す。そうすれば…】)
ジャスパーは真剣な表情でレンの相手をしている天草を見つめる。
レンに対する殺意がこちらにも伝わってきた。
自身のプライドと、勝又のためだけに動いているのだ。
よそ見をした途端、シャボン玉が近付いてくる。
ジャスパーの骨は、無限に伸ばせるわけではない。なるべく失わないように気を付ける。
筋肉を隆起させた脚を使い、シャボン玉を避けて由良に突進して骨の刃を横に振るった。
由良はそれをジャンプして避ける。
「っとと…」
器用に車道の信号機の上にのって、ジャスパーを見下ろした。
ジャスパーは、ニィッと由良の口元が歪んだのを見てはっとし、地面がボコボコと音を立てたと同時に、そこから大きく飛び退く。
「【く!】」
しかし、先を読まれ、背中に回り込んだシャボン玉が直撃しかけた。
バシュッ
背中からトサカのように背骨を飛び出させ、それを破壊する。
だが、背中の皮膚に余波を受けてしまい、痛みが走った。
「へぇ、全身武器だな」
ジャスパーの神経を逆撫でするには充分な、挑発的な笑みだ。
「【上等だ、センパイ】」
(【アキから聞いた通り、あいつの能力(ちから)には“範囲”がある。発動されれば、そのしゃぼん玉を割るか離れるかで回避できる…】)
判断力と瞬発力には自信があった。追う側・逃げる側でも、脚の筋肉を限界まで発達させたジャスパーの方が速い。世界の陸上選手が泣き出すほどだろう。
一気に詰めれば、自分が巻き添えを食らってしまうため、由良も無闇にシャボン玉を浮かばせてはこないだろうと考える。
ふと天草の言葉を思い出した。
『由良匠を殺したいのなら、致命傷を与えるか、右腕を切り落とすかだ。厄介な能力(ちから)を持ち、身体能力も悪くはないが、弱点がわかれば案外脆いものだな』
ジャスパーの狙いは後者だ。
心臓と違って的にしやすい。腕どころか手首を切り落としてもいいのだ。
右と左手首の横から、骨の鎌を飛び出させる。
狙いは、もちろん、右腕。
思い切り踏み込んでジャンプし、由良に向かって接近する。
肩越しを見ると、シャボン玉が背後から迫った。
ジャスパーは前を向いたまま左手を後ろにやり、指先から細い骨を伸ばして振り上げ、迫るシャボン玉を破壊する。
「!」
目を見開いて驚く由良。
ジャスパーが骨の鎌を振るう。
由良は飛び退き、それを避けた。
宙に飛び出したのをいいことに、ジャスパーはそれを追いかけて骨の鎌を振り下ろす。このまま顔面を狙えそうだ。
しかし、
「【!?】」
由良は空中で、限界まで腰を後ろに曲げた。
柔軟な体だ。無様にも空振りしてしまう。
「【ハア!?】」
(【そんな避け方ありかよ!?】)
逆切れしかける。
「へっへ―――♪」
見事な宙返りとともにアスファルトに着地する由良。
ジャスパーは一度距離を置いた。
由良の様子を観察するが、何をするのか読めない。
由良の周囲にシャボン玉が浮かび上がった。
「調子に乗る後輩は、この大先輩が指導してやる」
「【調子に乗ってんのは、誰だよ】」
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