47:ふたりだけじゃない
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グシャッ、と人間の頭蓋がスイカのように粉砕される。
天草は、兵士の背後に忍び寄り、硬化したその腕で頭部をヘルメットごと破壊し、絶命させた。
黒曜石のような両腕は血塗れだ。腕を振るい、付着した血を地面に落とした。
淡々と、“アクロの心臓”の能力の巻き添えを食らいつつ生き残った者も含め、ここら一帯の兵士達を殺し続ける。
「人間如きが、無駄な足掻きをするからこういう目に遭う…」
倒れた死体を見下ろし、嘲笑った。
近くにいる勝又は、動けそうな兵士を見つけては洗脳し、殺し合いをさせる。
太輔と相対する広瀬の邪魔をさせないためだ。あの2人が再会して戦わせることこそ、勝又にとっては意味がある。
そんな光景を眺める天草としては、自分にも“洗脳”の能力さえあれば、といつも思う。
かつて由紀恵が、プラットホームへ連れて行かれた葵を助けるためにそうしたように、洗脳の能力があれば、自分だけの兵隊が作れることが可能だ。
出来ることなら、あまり勝又の手を煩わせたくないことが本音である。
「広瀬君を追いかけるよ」
「はい」
(勝又様が、広瀬(アレ)を人間扱いするのは、まだ自我が残っているからなのだろう…。“心臓の欠片”が共鳴することで、教えてくれる。広瀬雄一の感情が伝わってくる…。―――これは、虚しさ…)
辺りに転がる死体の数々。穴だらけの瓦礫と化した建物。
これが広瀬の望んだ世界だ。
完成するためには、もう一息。
『友を殺せば、破壊衝動以外、なにも残らない』
自身の胸に手を当てながら、天草は勝又の言葉を思い出した。
黒煙の臭いが酷く、思わず眉をひそめる。
しかし、目の前を歩く勝又の背中を見つめるだけで、自然と笑みがこぼれた。
あと少しで終わるというのが、口惜しい。
この方の望みが叶えば、自分自身の役目は終わってしまうのだろうか。
「!!」
その不安が油断のもとになってしまった。
横の黒煙から飛び出した人影に、反応が遅れてしまう。
殺意を剥きだしにしていたというのに。
「貴様…!?」
飛び出してきたのは、レンだ。
勝又に向かってコブシを振り下ろした。
勝又は驚きのあまり、動きを止めている。
ガッ!
間一髪、天草は割って入るようにレンの前に飛び出し、その腹を蹴って引き離した。
レンは咄嗟に義手を差し込んで腹への直撃を回避し、転ばないように地面を滑る。
獲物を狙う鋭い眼差しは勝又に向けられたままだ。
「勝又さ…」
「っ…」
「!?」
天草は振り返り、勝又の右頬の深い傷を凝視した。
一体いつ攻撃が当たったのか。
勝又の頬には、刃物で切られたような赤い一線があった。
(傷を…!)
あってはならない失態だった。
「北条君…」
「勝又様、お下がりください!」
どっと沸き出しそうになる感情を抑え、天草は勝又を背に庇うように立つ。
レンから目が離せなかった。堪えようのない殺意がひしひしと伝わってくる。
「やっと…、やっと見つけたぜ…、勝又ぁ…!!」
まるで天草の姿が目に入ってないようだ。
顔は怒りで真っ赤に染まり、荒い息を吐いている。正気とは思えなかった。
「来るとは思っていたが…」
予想より早い。
ドッ!
すぐに距離を詰めた天草は、レンの右肩を思い切り蹴って吹っ飛ばした。
レンは、崩れたビルの壁に背中を打ちつける。
「勝又様、先に向かってください!」
「…ここは任せていいかい?」
「はい。2度と追ってこられないよう、あの女を殺します…!」
勝又は頬の傷口を手の甲で拭ったあと、広瀬を追いかけた。
その背中は黒煙ですぐに見えなくなる。
「いつもいつも…ジャマしやがって…」
唸るように言いながら、レンがゆらりと起き上がった。
額から流れ出てた血が頬を伝い、アスファルトの上に落ちる。
目の色から窺えるのは、復讐のことだけ。
天草は、腰の小太刀に手を掛けて身を屈め、構える。
ある程度距離を詰めた時、居合でその喉元を切り裂こうと狙いを定めた。
緊迫した空気に包まれ、レンが地面を蹴った瞬間だ。
「!?」
ドシャアッ
横から足を引っかけられ、レンがうつ伏せに転んだ。
「~~~~っ!」
左手で、地面に打ち付けてしまった額を押さえながら呻く。
現れたのは、由良だった。
「冷めたか、頭。ったく、急に走り出したかと思いきや…」
「~~~っ。…ああ…、悪い…。勝又見つけたら…、血ィのぼった…」
レンは顔を上げ、額を擦りながら立ち上がる。
レンと由良は、広瀬を追っている途中で、互いに殺し合いをしている兵士達を見つけた。
すぐに勝又の能力だと気付いたレンは兵士達の同士討ちに巻き込まれないように必死に辺りを探し回り、広瀬の元へと足を向ける勝又の姿を発見したのだ。
そこから先は目の前が真っ赤になり、気付けば走り出していた。背中の由良の声は聞こえなかった。
危うく、怒りに任せて暴走するところだった。
「貴様も来たのか…」
天草は、「はぁ」と呆れ交じりのため息をつき、引き抜いた小太刀の刃を由良に向ける。
「北条の“死”のために、貴様から死ぬか?」
「やなこった」
由良はベッと舌を出し、周りにシャボン玉を浮かばせた。
その時、背後の黒煙から白い刃が飛び出す。
「!?」
反射的に由良は避けようと身体を傾けたが、伸びた刃先は由良の左肩を掠めた。
「由良!」
(この刃は…!)
レンは見覚えがあった。
「【背後ガラ空き】」
「おまえ…!」
声の主がこちらにやってくる。
天草はたしなめるように言った。
「無理に私に付き合わなくてよかったんだぞ、ジャスパー」
「【冷たいこと言うなよ、アキセンパイ。それに、警告に従わなかったユラセンパイが悪い】」
黒煙の中から現れたジャスパーは、不気味な笑みを浮かべる。
レンは由良を支え、由良は左肩の傷を押さえながら、肩越しにジャスパーを睨みつけた。
「……なんだ…、イカれてんのはテメーの方じゃねえか、ジャスパー。殺されかけたくせに、そいつに付いたって報われねえのはわかってんだろ。散々利用されて終わりなんだよ!」
「【……………】」
軽蔑の眼差しに、ジャスパーの瞳がわずかに揺らぐ。
しかしすぐに「ハッ…」と嘲笑交じりの視線を返し、「一丁前に説教かよ…」と骨の刃に付着した由良の血を舐めた。
ジャスパーはレン達をすり抜け、知ったことかというように、天草の隣に並んだ。
レンは由良とジャスパーを交互に見たあと、由良に声をかける。
「由良、大丈夫か?」
「油断すんな。いつ、あの“力”使われるかわかんねえんだ」
「わかってる…」
天草の“心臓の欠片”の力のことだ。
「【なんだあの右手…。生えた?】」
「義手だろうな」
レンの右手を指さして驚いた口調で言うジャスパーに、天草は平然と答える。
レンはしばし天草と睨み合った。
「リベンジだ。相手になってやるぜ、天草」
「それは楽しみだ」
天草は冷笑を浮かべる。
「【邪魔するなら、ズタズタにするぜ? セーンパイ♪】」
「そんなに躾けてほしいか、コーハイ君?」
互いの相手は決まった。
由良はジャスパーを睨みながら、レンに声をかける。
「調子は?」
「絶好調」
「なら、ハデにやろうぜ」
レン、由良、天草、ジャスパーの瞳が妖しい光を纏った。
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