47:ふたりだけじゃない
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遠くから轟音が聞こえる。
そちらに向かうため、バイクを運転するレンは、後ろに由良を乗せて再び高速道路を走っていた。
あちこちでは黒煙が上がり、戦車から放たれる大砲やミサイルの爆発音が聞こえ、頭上を戦闘機が通過していく。
レン達が向かっている方向にミサイルを発射したのが見えた。
撃たれ続けるのは砲弾の雨。
しかし、人類の全力の反撃をもってしても、広瀬には無意味なのだろう。
「人間のくせに、頑張って足掻いてるじゃねーか」
由良は滑空する戦闘機を目で追いながら感心するように呟く。
レンはただ黙って前を向いて走っていた。その表情は緊張で強張っている。
覚えのある感覚だ。“アクロの心臓”の気配で肌がひりついた。
「「!」」
ほぼ同時に、レンと由良の背筋が凍りつく。
嫌な汗が頬を伝った。
視界に映った空に、見覚えのある大きなボロ布を見つける。
広瀬だ。
広瀬に向かって、戦闘機はミサイルを、遠くの戦車が大砲を放った。
ドン!!
「く…っ!」
こちらまで届くほどの、熱を持った激しい爆風が舞い上がる。レンは吹き飛ばされないようにバイクを安定させた。
攻撃を受けた広瀬は無傷だ。
布の隙間から、懐かしい顔が覗く。
(ヒロセ…)
由良がそう思ったとき、広瀬が纏う布の隙間から閃光がいくつか飛び出した。
反射的に目の前のレンの背中を叩く。
「くるぞ!!」
「!!」
レンはハンドルを強く握りしめ、広瀬の攻撃に備えた。
ゴゴゴゴゴ!!!
広瀬の周囲の建物、車道、歩道に大きな穴が空けられた。
攻撃は直接当たらなかったものの、レンが走る高速道路の車道や透明な遮音壁のところどころに円形の穴が空く。
レンは車道の小さな穴を器用に避けながら進んだ。
バランスを失ったビルが後ろ向きに倒れたのが、遮音壁越しにレンと由良の目の端に映った。
広瀬はこちらに気付かず、攻撃を放った戦闘機を追いかける。
「広瀬ェ―――!!」
レンは叫び、スピードを上げて広瀬を追った。
由良は振り落とされないようにレンの右肩をつかむ。
幸い、広瀬は見失っていない。そもそも“アクロの心臓”の気配が現在地を教えてくれる。
辺りを乱雑に消し飛ばしながら宙を飛ぶ広瀬は、誘われていると知ってか知らずか、戦闘機を追いかけてビルに向かっている。
遠くの戦闘機がビルを曲がり、それを追いかけてビルの後ろへと曲がった瞬間、
ドオン!!
その機を待った、戦車の大砲による集中砲撃が浴びせられた。
耳をつんざく爆音が響き渡る。
他の建ち並んだビルも次々と黒煙とともに砲撃に巻き込まれた。
細かいガラスの破片が遮音壁を割り、レンがいる車道まで飛んでくる。
「リンチだな…」
そう呟いたのは由良だ。
黒煙が上がる破壊されたビルの中、広瀬はいた。
当然のように無傷だ。レンの方から、今度ははっきりとその顔が見える。
煩わしそうな顔だ。
レンは、あれからどうやって“アクロの心臓”を奪うか、必死に考えた。軽率に動けば、消滅されてしまう。
運転しながらそんなことを考えていると、広瀬はふわふわと風に流されるようにビルから離れて空中に出た。
レンはゴーグル越しに目を細めて観察する。
(動きが鈍い…。砲撃が効いてる? そんなことがありえるのか?)
雲のように空中を漂い、ゆっくりと形状を変えようとしていた。
その奇妙な動きには見覚えがあった。プラットホームの嫌な思い出が蘇る。
全身が警告を発し、アクセルを全開にする。
「由良、つかまれ!!」
「おっ!?」
前輪が少し持ちあがり、後ろの由良は驚いて反射的に右腕をレンの腰にまわしてしがみついた。
車道の真ん中をレン達を乗せたバイクが疾走する。
前方に、待機中の数人の兵士達と2台の戦車を見つけた。
「【! そこ! なにやってる!】」
「【危ないぞ!!】」
レンはスピードを緩めず、声を張り上げる。
「【そっちが危ないっての! 今すぐ逃げろ!!】」
「どうすんだ?」
「突っ切る!!」
ブレーキをかける選択肢はない。
止まらないバイクに兵士達が銃を向けた。
ババババ!
「【な!?】」
だが、引き金が引かれる前に、由良がシャボン玉で銃口を粉砕する。
レンのバイクは、戦車の間を突っ切ることに成功する。
よし、と思った途端だ。頭上がカッと光った。
ドウッ!!!
広瀬から放たれた閃光が辺り一帯に無茶苦茶に降り注いだ。
その空間ごとくりぬいたように、背後の兵士達が戦車ごと一人残らず消滅した。
「チッ!」
レンはすぐ目の前の光景に舌打ちする。
数メートル先にある車道が、大きく消し飛ばされていた。とても走行できる状態ではない。
ブレーキをかけようとしても間に合う距離ではなかった。穴の長さは10メートル以上もある。周囲に踏み台になるものもなく、勢いをつけて飛んだとしても届くはずがない。
「おい、まさか、このまま飛ぶなんて言わないよな!?」
さすがに由良は危機感を覚えた。
多少の高さなら能力者ならば無傷で着地はできるだろう。その際、空中でバイクを捨てることになるが。
何も答えず、ニィ、と笑うレン。
サイドミラーでそれを見た由良は「マジかよ」とレンにしがみつく腕に力を込めた。
勢いよくバイクが宙へと飛ぶ。
向こうの道へ届く距離ではなく、当然、放物線を描くように重力に従って落下した。
スローモーションのように感じるが、このまま落下すれば呆気なく地面に叩きつけられるだろう。
「森尾、あとは任せた!」
そこで突然、レンが声を上げ、由良が「え?」と口にした直後だった。
「任せたじゃあるか!!」
森尾の声で焦ったつっこみが入る。
「モリヲ!?」
「オレでもバイクごと飛んだことなんてないのに…!!」
レンと入れ替わった森尾は能力を発動した。
バイクとレンの身体全体に風が纏わりつく。
「ぐ…! うううっ!」
森尾は苦し気な声を出しながら風を操作した。調整が難しい。自分より重い物まで扱わなければならないのだ。
ゴウッ!
地面がすぐそこまで迫ったところで、一気に下へ向けて風を放出した。
すると、一瞬だが、200キロのバイクが浮き、地に着いた車輪が軽くバウンドする。
一度バイクを停め、緊張を解いたレンは呼吸を整えた。
由良はそんなレンを凝視しながら声をかける。
「レン、おまえ…」
明らかに森尾と意思疎通が出来ている様子だ。
今までは、危機に反した時に森尾達の方から一方的に入れ替わっていたため、初めてのケースだった。
「うん…。わかってる…」
驚く由良に対し、意識を戻したレンは振り返り、微笑みを浮かべて答える。
その落ち着いた表情に、由良はそれ以上は何も聞かない。
「……! 由良…」
「!」
由良は、何かに気付いたレンが向けた視線の先を追いかけた。
広瀬の攻撃が当たった道路は穴だらけで、体をバラバラにされた血塗れの兵士達の死体がそこら中に転がっている。
周囲一帯、障害物が多すぎる。バイクでの移動は困難だろう。
「ここから先は、走って追いかけるしかない…」
判断したレンは仕方なくバイクから降りる。由良もそれに続いた。
ヘルメットを脱ぎ、「絶対、あとで迎えに来るから」と車体を撫でて近くの安全な場所へと移動させる。
すぐ近くで、轟音と共にビルが倒れる音が聞こえた。
広瀬はさらにまたどこかへと移動しようとしている。
何かを探しているかのように。
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