46:あの時、出会ってなかったら…
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広瀬と核使用を襲れて出来るだけ都内から離れることに躍起になっている人の群れに逆らうように、天草は逆方向へと進んだ。
久しぶりに勝又と会える喜びに、身体が微かに身震いする。
指定された待ち合わせ場所は、今は無人となった、都内のとあるオフィスビルの1階だ。
「……う…っ」
不意に、胸の辺りがざわつく。
“イラ立つ…、ああ…、イラ立つだ…”
嘲笑交じりの男の声が、胸の中央から脳へと響いた。
天草は「またか…」と胸に手を当て、煩わしそうに宙を睨んで舌を打つ。
害はない、たまに聞こえる幻聴だ、と自身を納得させようとしたが、人が気を良くしているのにタイミングが最悪だった。声の通り、苛立ちばかりが募る。
(亡霊にもなれなかった出来損ないのくせに、黙ってろ、室銀夜)
相手はくつくつと笑っている気がした。
“心臓の欠片”にこびりついた残留思念だというのに。
目的地に到着すると、すぐに勝又と再会することができた。
薄暗いロビーにある柱に背をもたせかけ、天草に気付いて笑みを向ける。
「ああ…」と感極まる天草は、勝又の前に片膝をついて頭を垂れた。
「勝又様、御無事で…」
「キミも、元気そうでなによりだ。御霊に“欠片”も取られていないようだね…」
勝又が天草の奥を見据え、“心臓の欠片”の有無を確認する。
御霊はその気になれば、躊躇の欠片もなく傍にいる天草の“心臓の欠片”をいつでも奪えるのだ。
「……北条君は、来ると思うかい?」
レンと何があったのかは、勝又が来日する前に電話で報告していた。
顔を上げる天草はきっぱりと言い放つ。
「はい。懲りずに来るでしょう…、身の程知らずですから…」
できることなら、妨害を目論む前に始末しておきたかった。しかし、レンの家にしばらく張り込んでいたものの、帰ってくることはなかったのだ。
内心、天草にとっては却って好都合だった。
“心臓の欠片”を発動させたことで受けたダメージも重く、天草自身は万全ではなかった。
「北条どころか、邪魔者はすべて始末します」
「頼もしいね…。そろそろ、終わらせようか」
「それがあなたのお望みならば…」
(私はあなたのために、この命を捧げましょう)
もう一度頭を下げる天草。その口元は狂喜で歪んでいた。
「【アキ、おっさん…】」
無人の建物に、その声は反響する。
顔を上げた天草は振り返り、勝又もそちらに目を向けた。
相手は少し蹴飛ばし気味に歩いている。その足音には聴き覚えがあった。
「【見つけた】」
廊下の暗がりから、ゆっくりとした足取りで入った来たのは、ジャスパーだ。
「ジャスパー!?」
天草は声を上げて立ち上がる。
腹を貫かれ、崖から落ちたというのに、そんな出来事がなかったというような様子だ。
ジャスパーは苦笑しながら、天草が貫いた腹の辺りを擦る。
「【随分と深く刺してくれたよな】」
「…仕留めきれなくてすまなかったな…。それで、私を殺しに来たのか?」
低い声で唸るように言いながら、天草は両腕を硬化させた。
ジャスパーは両手を低く上げて敵意がないことを示す。
「【そうだな…。勝又のおっさんから離れてくれるなら、考える】」
「どこまでも愚か者だな。私が頷くはずがないというのが、わからないのか」
「【だよな―――】」
見通していた答えなのだろう、凍てついた眼差しと共に投げられた冷たい言葉に対し、ジャスパーはいたずらっぽく笑った。
天草は危うく、ジャスパーの呑気な雰囲気に流されて警戒を緩めそうになる。
「【―――なあ、おっさん、教えてくれよ】」
まさか自分に振られるとは思わなかったのだろう、文字通り手をこまねいて傍観していた勝又はわずかに驚きつつ、「……なにかな?」と返した。
勝又の反応を見て、ジャスパーは質問を投げかける。
それを聞いた天草ははっと目を見開き、その質問の意味をうまく呑み込めず、ジャスパーの顔を疑い交じりに凝視した。
勝又は簡潔に答えつつ、ジャスパーの本心を覗き、それから、洗脳の必要はないと判断する。
返された勝又の言葉に、ジャスパーは満足そうに「【そうか】」と頷いた。
その胸の内をよぎったのは、アンジェラの顔だ。
ホテルのベッドで眠るアンジェラに向け、最後に告げた自身の言葉が蘇る。
『【この先のオレのことは、見ないでほしい…。みっともなくて…、カッコ悪いから……】』
(【散々世話になったし、心配してくれてたのに…、悪いな、アンジェラ。オレはバカなんだ。軽蔑してくれていい…。―――おまえだけでも、逃げてくれ…】)
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