44:いつだって
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院長室をあとにした由良は、一度レンの様子を見に行こうと3階へ上がり、病室に顔を出した。
しかし、ベッドにレンの姿はない。
ベッドの台には昼食のトレーが置かれたままだ。
そういえばそんな時間か、と部屋の時計に目をやり、器に視線を落とすと、おかずやごはんが申し訳程度に残されていた。明らかに食欲が落ちている。
病室を出た由良は左右の廊下を見回し、気配を追いかけてレンの姿を探す。
「!」
ちょうど、少し離れた先にあるトイレからレンがフラフラと出てきた。
患者として入院しているため患者服を着ている。顔の左半分と両手脚には包帯が巻かれていた。火傷も薄くなり、徐々に治りつつある。
能力者の回復力に柑二が仰天しないように、南にはできるだけ能力者について説明しておくように頼んでおいた。
レンの顔は蒼白で、トイレで用を足した、というより胃の中の物を吐き出してきたといった様子だ。
「……おい、モリヲ」
「!?」
横から声をかけられたレンは、驚いて由良に振り向いた。
「な、なんでわかった…?」
レンの身体を借りた森尾が別の意味で真っ青になる。
大体は声で見分けられているものだと思っていた。
「顔つき」
「コワ…」
元々観察力の高い由良だ。レンが声を出さなくても顔や雰囲気で中身が分かる。
「また吐いてたのか?」
「ああ…。レン自身もできるだけ食事を摂るように心がけてるみたいだが…、ストレスのせいかな…?」
「あんだけボロ負けしたらそうなるか…。カノンとミズキはなにしてる?」
「華音は天草との戦闘のあと、機嫌がマックスに悪いままだ…」
『ムカつくあのブス―――ッ!!』
「ちょっと今手が付けられない…。暴れすぎてレンの身体に影響がないか心配になる…」
左手で顔を覆う森尾に、由良は苦笑した。
「相変わらずのヒスっぷり…。一回死んでも人間変わらねえよな…」
「水樹の方も、暴走したことで落ち込んでる様子だ…。少し、殻に籠ってる」
「ミナミが殺されかけたことと、間接的にレンに無理をさせたのが相当応えてんだろうな…。痛覚を引き受ける代わりにレンを存分に戦わせる…。見損なったわけじゃねえが、意外な発想だったぜ」
「オレと華音と違って、水樹は普通の人間だからな。能力(ちから)が使えない分、なにかしたいって気持ちは伝わったよ…。それでも華音は今でも容赦なく責めてるけど」
『そもそもお兄さんが最初に出しゃばりすぎたからレンちゃんが余計にケガしちゃったんでしょ!』
『反省してます……』
責める華音に何も言い返せず、正座した状態でうつむく水樹。
「シンプルに八つ当たりじゃねーか」
「自己チュー代表がなに言ってんだ」と追加で口にする由良に対し、「おまえも、じゅーぶん自己中だけどな」としっかりつっこんでおく森尾。
「……今回の一件でゾッとしたのが、レンと水樹の怒りが爆発して共鳴したことによって、個々に分けられていたはずの人格が混ざりかけたことだ。今だって、レンの心が憔悴してることで、この通り…オレの気が少し向くだけで簡単に表に出ることができてる…。……最近になって思うんだ…。オレ達はこのまま、レンの中に居続けていいのかって…。いつか…オレ達の命が…レンの人格を蝕むんじゃないかって……」
「……………」
「勘の鋭いレンのことだから、オレ達のことも気付いてる…。おまえのシャボン玉を爆発させる時…、確かにオレに語りかけたんだ」
森尾…頼む…、と。
レンが丸焼けにならなかったのは、爆発する瞬間、森尾の意識が入れ替わって風の能力を使い、襲い来る爆風を相殺したからだ。そのまま外へと脱出もできた。
「今だって、とても不安定な状態なんだ。もしもの時はおまえがレンを…」
「勝手言うなよ」
由良は突き放すようにそう言って、森尾の脇をすり抜けようとした。
「由良…!」
逃がすまいと右腕をつかまれて一度足を止め、「慣れねえことさせるなよ」と苛立った口調で森尾を睨む。
「……………オレが、「元気だせ」、「大丈夫だ」ってウソでも優しい言葉をかけて慰めたら、レンは簡単に立ち直るのか?」
「それは……」
確かにそれは少し違う気がする、と森尾は言い淀んだ。
呆れる由良は肩を竦ませ、視線を天井に上げて思案する。
「……………」
(慰め……)
ふと、脳裏によぎるものがあった。
「……ミズキ…呼んでくれるか?」
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