43:どちらだ?
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由良の右腕が傷つけられたあの時、レンの中で絶望的なイメージが沸き上がった。
右腕を再び失う由良。
もう2度と絵が描けないことに生きる希望を失い、レンが叫んで止めようとしても、レンの方を見ることもなく、「さよなら」も言うこともなく、自らの能力で自身の身体を、存在を、命を、跡形もなく消し去ってしまうだろう。
レンは思い知らされる。
自身の存在が、由良の美学を越えるわけがない。
ずっと前から…、由良を好きになった時から、わかっていることだった。
「レン…」
その声に、ゆっくりと、涙を浮かべた目を開ける。
「由、ゲホゲホッ」
声を発そうとして痛みを伴って詰まった。
噎せたことで、喉がまだ回復していないことを思い出す。
体中が火傷で痛む。今はあまり鏡を見たくない。
寝かされたのは、病院の待合室にあるような、背もたれのある薄緑色のロビーチェアだ。3人は並んで座れるくらいの長さだ。寝心地は少し硬かった。他のロビーチェアは、もう長いこと使用されていないのか、白いカバーシーツがかけられていた。
微かな消毒液の香りもする。
ここは…、と目だけぐるぐると動かし、場所を把握しようとした。薄暗く、由良以外の人の気配を感じない。
神社から離脱して、それほど時間は経過していなかった。移動中に少し意識が飛んだらしい。
「南野病院の隣にある、廃院だ。おまえも知ってるだろ」
「! っ…」
驚いたあと、険しい顔で首を横に振るレンに、由良は「言いてえことはわかってるっつの」と手で制する。
「天草が来るかもしれねえのは心配だが、オレ達は気配がわかるからいつでも逃げられる…」
「~っ」
「またミナミが襲われたらどうすんだって? そう言うんだったら、尚更近くにいた方がいいんじゃねーの? いざとなったら避難させられるわけだし。今回、人質じゃなくて見せしめだったからタチ悪かったよなー」
「……………」
「確かに、って顔だな。ははっ」
「……?」
心配そうに小首を傾げるレンに、由良は膝蹴りされた腹部を擦りながら答える。
「オレ? そりゃけっこうダメージでけーよ。ちょっと休憩したら、ミナミ弟に相談してみる。どっちにしても普通の病院には駆け込めねえからな。救急箱くらいはくれるだろ。レンも火傷酷いんだからこのまま安静してろって。モリヲの時と違って、普通の?火傷なんだから皮膚も元通りに治るだろうし…」
「……………」
「そこまでグロテスクな火傷じゃねーから心配すんなって。髪は思ったより焦げてなくてよかったな」
「……………」
「透明人間が襲ってくる映画? へえ、終盤にそんなシーンあるのか。丸焼けって…」
「!?」
内容知らないくせになぜそこまで言いたいことがわかった、と驚くレン。
その顔に由良はケタケタと笑う。そのあと腹部が痛くて腹を抱えて呻いた。
あたふたとするレンに、由良は「腹が文字通り捩れかけた」と笑いながら冗談を言ってみせる。
ひらひらとさせる右腕の傷が、レンの目に留まった。
半身を起こし、火傷を負った痛む左腕を伸ばしてその右手に触れる。
「……右腕の傷もすぐに塞がるって。…そんな、この世の終わりみたいな顔するんじゃねえよ」
それでもレンは力強く握りしめた。
またあのイメージが浮かぶ。いつか本当に訪れる未来ではないかと思うほど鮮明な光景に、胸を抉られる思いだ。
「……っ、ひっ、く…」
「おお……?」
急にしゃくりあげるレンに、由良は戸惑った。
「っ。ひっ…、けほっ、けほ」
ただでさえ呼吸がしづらそうなのに、泣くことによって咳き込んだ。
呼吸を整えようとしたが、感情の波が暴れるせいでうまくいかない。
由良は「ゆっくり息しろ」と声をかける。
とめどなく流れる涙が火傷した肌に沁みた。きっと酷い顔をしているのだろうとレンは恥ずかしくなってうつむく。
「レン」
由良の声が近すぎる。え、と顔を上げると至近距離に由良の顔があった。
あっという間に唇を塞がれ、その熱に、口端の火傷が沁みる。
「っ……」
ゆっくりと、ふぅ、と体内に息を送り込まれ、唇を離された。
ふぅ、とレンが息を吐き出すと、また唇が塞がれる。
由良が空気を送り込み、レンが自力でゆっくりと吐き出す行為を繰り返した。
呼吸の仕方を思い出させるように。
数分後、ようやく呼吸が落ち着いてきた。
「落ち着いたみたいだな。喉も徐々に治ってきたか?」
「~~~~っ」
もう、泣くどころではなくなったレン。別の意味で乱されそうになる。
「待ってろ、そろそろ病院の方に行ってみる。ミナミの様子も気になるだろ?」
「ゅあ…」
「ちゃんと戻ってくるから」
レンの頭を撫でる由良は、レンから離れ、廃院の出入口ではなく奥にある廊下の先へ行く。入る時も同じ場所から入ってきたのだろう。
(待って…。もっと…一緒に……)
廊下の先は灯りはなく、奥は何も見えない。レンの視界から由良の姿が、ゆっくりと闇の中へと消えた。
もう一度名前を呼ぼうとした時、レンが寝かされているロビーチェアの下から、「ニャー」と黒猫が鳴く。それから、ここにいるよ、というように、ひょこりと出てきた。
.To be continued