42:幸せ者だな
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夕方、南野病院から家に帰る途中、レンと由良はたまたま通りかかった、小さなアクセサリーショップを訪れていた。路面店で、ドアもなく気軽に足を踏み入れることができる。
下校途中に立ち寄ったのだろう、店内にいた中高生の女子達もひとつひとつ手にとっては、実際に髪につけたり合わせてみたり意見を言い合ったりと自分に合う物を探している。
「最近のアクセって安いんだな。これとか、こんなにキラキラ付けてんのに300円」
ストーンを連ねた小さめのヘアクリップを見せる由良。
「本物の宝石使ってるわけじゃないからな。由良、こっち向いて」
絵を描く時に髪を束ねる物を探しに来たのだ。片手でヘアゴムは扱いづらい。
レンは由良をこちらに振り向かせ、モコモコのヘアバンドを由良に付け、前髪を上げてみる。
「……………」
フリーズするレンに「黙ってないでコメントしろよ」と困惑する由良。
(似合う…)
内心で呟くレン。似合わなければ笑ってやるつもりだった。
試しにリボンの付いたヘアバンドを付けてみるが、こちらも驚くほど似合う。
他のヘアアクセサリーも手に取って由良に付けた。
バレッタ、ヘアピン、ヘアクリップ、カチューシャ、かんざし…。
髪が長い分、アレンジもできる。
先程まで自分たちのことできゃっきゃしていた中高生達も、いつの間にかこちらを凝視し、「えー。超かわいい~」「あのお兄さん似合う~」「ああいうゆるキャラいそー」とはしゃいでいた。
(あたしの好きな奴が、かわいい!!)
「レン、それどういう表情?」
今まで見たことがない表情をしたレンにビクッとする由良。
レンは構わず、「次は…」と他のアクセサリーを試そうと手を伸ばした。
適当につかんだそれに目を留めたレンに衝撃が走る。
黒い猫耳がついたカチューシャだった。
(これはヤバい…!!)
不意にレンは、猫耳を装着した由良を想像してしまう。
全然アリだが、邪念を払うように首を横に振った。さすがに踏み留まるが、せっかく見つけた猫耳カチューシャが手放しづらい。
(これがいわゆる、おまえが言ってた“萌え”ってやつなのか、岡田!!)
「ネコミミは正義だよ☆」といい笑顔でグッジョブする、天使の輪を頭上に浮かばせた岡田の幻覚が見えた。
そこで「レン、レン」と後ろから声をかけられ、振り返ると由良がすぐ傍に近付いてきた。
手に取った猫耳カチューシャを、咄嗟に背中に隠すレン。
「な、なななに?」
由良の伸びた手がレンの左の横髪に近付き、手に持っていたヘアピンで留める。
すぐ近くにあった鏡を見ると、左の横髪が耳にかけられらるように留められた、パールの付いたゴールドカラーのヘアピンが映った。
「やっぱりその髪色だと、シルバーよりゴールドの方が似合うな」
へら、と笑い、レンの毛先に触れる由良。
「キレーな形の耳してんだから出しとけ」
「……………」
レンはときめくあまり、ぎゅうと締め付けられる胸の感覚に、「ん゛…」と変な声が漏れそうになった。
(守りたい、この笑顔…! )
他の女に見せてたまるか、とひとり占めしたくなる。
素直にそうは言えないので、できるだけ由良の顔を周囲の客から隠すように移動した。
漏れ出るレンの独占欲と2人を包む甘い雰囲気に、周囲の客と店員はそわそわと居ても立っても居られない。
「このヘアバンド、他人とは思えねえ…」
由良が手にしたのは、とぼけた2つの目玉とチョコクッキーの飾りがついた青のヘアバンドだった。
レンは「それクッキ〇モンスターじゃん」と笑う。
ここ最近は、もったいないくらい楽しい時間ばかりだ。
“アクロの心臓”を追っているのを忘れるくらいに。
変化を待ち侘びているはずなのに、このまま何事も起こらなければいいのに、とレンはつい望んでしまう。
ヘアアクセサリーをいくつか購入したレンと由良は店を出る。
空を見上げると、いつの間にか灰色の雲が広がり、鮮やかだったはずのオレンジ色の空を呑んでいた。
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