42:幸せ者だな
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから数日、レンと由良は“心臓”の動きがわかるまで、レンの家を拠点に動いていた。
動くといっても、ほとんど地道だ。
家にあるノートパソコンを使い、嫌々ながら雨宮のサイトに通って情報を調べたり、雨宮本人と電話で連絡を取り合ったり、近場の図書館に出向いて一日の記事に全て目を通したり、少しは稼がねばと南の仕事を手伝うこともあった。
実際、自分達がやれることといったらそれくらいだ。
それ以外はほとんど、屋敷の頃の生活と変わりはない。
由良は自由だ。好きなだけ絵を描いたり、いらない粗大ゴミを持ち運んできたり、菓子類を勝手に食べあさったり。
この世界のどこかで広瀬がいるのは間違いない。いつ現れるかわからないのに、呑気なものだとレンも感心してしまう。
つられて一緒に安らいでしまう始末だ。
現在、南が家に訪れ、レンのリビングにある食卓で2人で向き合いながら、南が持参したルイボスティーを飲んでいた。
「同棲生活エンジョイしてるわね」
南がニヤニヤとしながら言う。
「同棲…」と呟くレンの赤い顔はまんざらでもない。
「せっかく女らしくいい身体に成長したんだから、ワンピースやスカートくらい着なさいよ」
「それはちょっと…」
いつものボーイッシュスタイルに戻ったレンに、南は「もったいない」と不満げだ。
「そうそう、色々調べものしてるみたいだから、余り物のファイルとかホッチキスとか持ってきたから使ってね」
テーブルの端に置いた紙袋を指さす南に、レンは「助かる」と礼を言った。
「そういえば彼は?」
「さあ? 朝にふらっとどこかに行った」
平然と言うレンを前に、南は「え」と目を丸くした。
「珍しくねえよ。夜に家を出て朝方に帰ってくることもあるし…」
「浮気とか心配じゃないの?」
「ははっ。浮気って…。別にそんな……」
(そもそも、あたしと由良って付き合ってんの?)
はた、と気付いて自問する。
男女の付き合いというのも今までなかったため、感覚がわからない。
世の中には身体だけの関係の男女だって存在する。本人達もあえて「付き合っている」とは口にしない。
確かに由良と他の女が一緒にいるのは腹が立つことではあるが、しかしそれを「浮気」と糾弾するのは些か自分勝手ではないか、レンは「う―――ん?」と頭を捻った。
「まあ…、でも…、最後にあたしのとこに帰って来るなら…」
それでいいんだよ…、と穏やかな顔で納得しようとしたレンだったが、くわっと険しい表情に豹変した南はテーブルをバンッと叩く。
「アウトォ!!」
「は!?」
「そうやって「私が一番愛されてるし」って虚しい優越感が旦那を付け上がらせるのよ!」
「な…っ。まずあたし達、結婚してないし! あ、あああ愛されてるかどうかも……っ、その…っ」
「ちょっと由良君探してくるわ。説教よ」
額に青筋浮かべながら席を立った南に、レンは「ちょっと待って―――」と腰にしがみつき、玄関へ向かうのを阻止する。廊下でもみくちゃになる2人。
「向こうが自分のこと好きかどうかもわかってないのにキズモノにされてるわけでしょ!? ちゃんと責任を取らせないさい!」
「き、嫌われてはないとは思ってる! キズモノって…」
「ずっと黙ってたけど言わせてもらうわ。パチカス、アル中、DV男よりはマシかもしれないけど、やっぱりヒモはダメよ!!」←禁句。
「ぐ…っ!! そっちは水樹(ショタ)と付き合ってたクセに!! しかも「困った時はあたしがいるからね、医者の財力を活かして楽させてあげるからね」って兄貴をヒモ予備軍にしようとしてたクセにィ―――!!」←禁句。
「うぐぅ!! なぜそれを…」
どっちもどっちである。好きな男に甘い。そして水樹にも流れ弾だ。
不毛なので一度落ち着こうとするレンと南。
前屈みになって息を整える南は、何かを引きずったような、廊下の汚れに気付いた。目で辿ると、水樹の部屋に続いている。
「なにこの汚れ…」
「昨日由良が持って帰ってきた粗大ゴミかな」
「粗大ゴミ!?」
「前に他の場所で一緒に暮らしてた時もたまにあったよ。どこで拾って来るんだろうな…。ある程度溜めてから自分で壊したりしてるし…」
言いかけている途中で南はレンを置いて水樹の部屋のドアノブに手をかけた。
「大変、臭いが移っちゃうじゃないの!」
「あ! 急に開けたら…」
レンは止めようとしたが、時すでに遅し。
由良が詰めに詰め込んだ大量の粗大ゴミが雪崩の如く崩れてきた。
「キャ―――!!」
レンはすぐに横に飛んで避けたが、南が生き埋めになってしまう。
「南さ―――ん!」
そこで玄関のドアが開き、由良が帰ってきた。
「ただいま―――」
どこで拾ってきたのか、右手には壊れたラジカセが握られてある。
「あ、勝手に開けたな」
レンは勢いよく振り返って由良にがなった。
「おまえも早くどかすの手伝え! 南さんが生き埋めに…! つーか、勝手に兄貴の部屋に集積所作ってんじゃねーよ!」
「早く助けてぇ…」
散らかった粗大ゴミの下から南の声が聞こえ、他の粗大ゴミをどかしながら捜索を急いだ。
片付けのことをあとあと考えるとかなり面倒だった。
.