41:好きなのか?
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昼過ぎ、レンと由良は住宅街に挟まれた歩道を歩いていた。
不安に包まれた表情のレンは、緊張で黙ったままだ。
住宅街を抜け、見覚えのある通りに入った。
レンの実家へと続く通り道だ。
由良も記憶の片隅にあった。
曲がり角を曲がったところでレンは足を止めて顔を上げる。
自分のマンションが見えたからだ。
6階建ての分譲マンション。レンが住んでいたのは3階の302号室。
懐かしさが込み上げ、同時に足取りが重くなる。
駐車場から自分の部屋のベランダの窓を見上げた。
誰か住んでいるのか、それともあの時のままなのか、レースカーテンが見える。
マンションの玄関前で立ち止まった。
しばらく茫然とマンションを見上げていると、由良に背中をポンと叩かれ、はっとして中に入る。
折り返し階段を上がり、片廊下を渡り、目的の部屋の前に到着する。
表札に“北条”と掛けられたままだ。
レンは目を丸くし、ドアを凝視する。
「……あのままだ…」
「じゃあ入れるんじゃねーか? 鍵がねえなら開けてやろうか?」
シャボン玉を、ぽこん、とひとつ浮かばせる由良に、「壊そうとするな」と叱咤した。
家を出る前に、鍵をドアポストの中に入れたのを思い出す。
手を入れて届かないだろうか、と考えた。
その時、カタ…、とドアの向こうから小さな音が聞こえる。
「「!」」
(誰かいる…)
一気に緊張感に包まれた。
レンは目付きを鋭くし、ドアの向こうを睨む。
「……………」
そこで後ろから由良に肩を軽く叩かれた。
「“仲間”じゃなさそうだぜ。反応がねえだろ?」
「……ああ」
“アクロの心臓”から離れたおかげで、仲間同士の波長はお互いに察知することはできる。
気配はあるが、向こうからは何も反応は感じない。
おそらくただの人間だろう。
「ドロボウだったら、どうしてやろうか…」
しばらく空けていたとはいえ、他人が土足で入り込むなど言語道断だ。
バキバキとコブシを鳴らすレンに、「落ち着けって」と由良は声をかける。
レンは意を決し、ゆっくりとドアノブに手を伸ばし、試しに回してみた。
「! 開いてる…」
ドアに鍵はかかっていなかった。
由良と顔を見合わせ、作戦を考える。
「あたしが先に中に入るから、由良はここで待ってて」
「え―――。オレ待機?」
肩を落とす由良に、「相手がここから逃げるかもしれねえだろ」と理由をつける。
「あ。相手が出てきても殺すなよ。しゃぼん玉使ったら、盗まれた物ごと破壊しかねないから」
「取り押さえるのは苦手なんだよ…」
文句を言う由良に構わず、レンは「行ってくる」と言って静かにドアを開け、懐かしの我が家に足を踏み入れた。
懐かしい匂いがする。
ゆっくりと中に入り、玄関で靴を脱いだ。
そこで気付く。白いスニーカーが揃えて置かれていたからだ。
(……泥棒がわざわざ靴揃えるか…?)
怪訝に思いながら先へ進む。
廊下を渡り、部屋のひとつひとつを確認しようとした。
リビングはあの時のままかと思ったが、心なしか綺麗に片付けられている気がした。
小棚の上にある、家族の写真が入れられた写真立てを見つめる。
2年前、ここを出て行くとき、「行ってきます」と言ったのを思い出した。
不意に違和感を覚える。
(キレイすぎる…。家の住人がいない2年の間に、ほこりが積もっていてもおかしくないのに……)
じわりと額に汗が浮かぶ。嫌な予感がしたのだ。
「…………まさか……」
帰って来なければよかったかもしれない、と急ぎ足で玄関に向かおうとした。
(玄関にあった靴…、よく思い出してみたら、女もののスニーカーだ…! まずい…、由良を連れてすぐにここを…!)
ガチャ、と水樹の部屋のドアが開く。
「う…!!」
玄関まで目前だったというのに、鉢合わせになった。
ただの人間ならば容赦なく叩き伏せていたかもしれないが、それ以上に質の悪い人間と遭遇してしまう。
「どこの泥棒が入ってきたかと思えば…。おかえり、家出娘」
たじろぐレンの顔が一気に真っ青になった。喉から「ヒッ」とらしくない声が漏れてしまう。
すん、と相手は鼻を鳴らした。
白衣のポケットからハンカチを取り出し、自身の鼻に押し当てる。
「……におうわね…」
「み…、南さ……」
喉を鳴らした瞬間、あっという間に距離を詰められてしまった。
「―――――ッッ!!」
レンは声にならない悲鳴を上げる。
その頃、由良は身を屈め、ドアに耳をくっつけて中の音を聞き取ろうとしていた。
(気のせいか、悲鳴みたいなのが聞こえた気が…)
バンッ!
「ぶ!!」
飛び出すような勢いでドアを開けられたせいで、由良はドアに吹っ飛ばされる。
尻餅をつき、顔を右手で覆って「おおぉ…」と痛みに呻いた。
ドアからは、中にいた侵入者と、その肩に担がれたレンが現れる。
「は!?」
指の隙間からそれを見た由良は、状況が把握できなかった。
侵入者は明らかに人間だ。その人間に、能力者であるレンが軽々と肩に担がれ、しかも恐怖で顔を引きつらせていた。
「レン!?」
侵入者はこちらを振り返ることなく、急いで階段を目指す。
顔は見えなかったが、相手は明らかに女性だ。
ポニーテールにされた、ウェーブのかかったダークレッドカラーの長い髪が揺れる。
白衣が翻り、スカートをはいているのか、白衣の下からはスラリと伸びた白肌の生脚が見えた。さらにその下は、不釣り合いな、白いスニーカーをはいている。
「由良! あたしは大丈夫だから、おまえは来んな! 家で大人しく待ってろ―――!」
レンの焦る声がどんどん遠くなる。
「絶対来るな―――!」
必死に叫ぶレンは、やがてマンション付近に停車していたタクシーの中に放り込まれ、侵入者と共に行ってしまった。
鼻血を袖で拭きながら立ち上がった由良は、それを片廊下から見下ろす。
「来るなって…」
ただ事ではない。
由良も、「来るな」と言われて「待て」が出来るほど行儀は良くなかった。
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