40:帰ってみる
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数日後、レン達に問題が発生した。
問題と言っても、急に広瀬がやってきたわけでも、由良と仲違いしたわけでも、事故に遭ったわけでもない。
目が覚めると、レンの首に痛みが走った。
身体を動かすと、肩、腰、膝の関節が悲鳴を上げる。
今のレンの体勢は、母親の腹にいる胎児のような格好をしていた。
体は痛いが、眠気の方がまだ残っている。朝を迎えるまで、何度か目が覚めてしまったせいだ。
もう少し眠りたい。
「レン、朝だぜー」
真上から由良の声が聞こえ、無視しようとしたが、パカッと蓋が開けられて外の光を浴びせられる。
「う゛~~~~~」
地を這うような唸り声を出すが、由良はまったく気にしない。
「そんなに寝心地良かったかよ?」
「最悪以外のなにものでもない…。すりこぎにすり潰される夢見た…」
ダンボールの中から起き上がったレンは眠い目を擦り、傍らの由良を睨んだ。
体を軽く捻るだけでバキバキと骨が鳴る。
「ほら朝メシ」
渡されたのはパンの耳だ。
由良はもう一袋に入ってあるパンの耳を食べている。
「………はぁ…」
昨夜、たまたま見つけた公園で、レンはダンボールの中で眠り、由良はその真上の木の枝の上で休んでいた。
根無し草になった理由は、帰国して数日、所持金がついに底を尽きたからだ。
レンはブランコに座りながら、朝食のパンの耳を食べる。
「もうちょっと大きめのダンボールに入ればよかったな」と呟きながら左肩に付いた痣を気にした。
慣れているのか、由良は「この感覚、久しぶりだな~」と懐かしげに言いながら、レンの横のブランコに座って軽く漕いでいる。
「こんな機会がなかったら、パンの耳だけ売ってるパン屋もあるなんて知らなかっただろうな……。…この生活から脱却しねえと、“心臓”見つける前に飢え死ぬ…」
足下にハトが集まってきた。ポ、ポ、ポ、と鳴きながら図々しくも零したパンくずを食べている。
レンの目はすでに虚ろだ。頭の上に肥えたハトが乗って「デデポォ」と鳴いても気付いてない様子である。
横目でそれを見た由良は、これはかなりキてるかも…、と少し心配になった。
「最近までけっこう金持ってたもんな…。今までどうやって稼いでたんだ? …まさか……」
由良は勘ぐろうとするが、頭にハトをのせたままレンは「おっと」と鋭く手で制する。
「いかがわしい仕事はしてねえからな」
「それはわかってるっつの。オレが手ェ出すまで生娘だった女がなに言ってんだ」
「キムスメ言うな!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るレンに、頭の上のハトが「ポ!?」と驚いて羽ばたいた。しかし離れる様子はない。
「そりゃもちろん、バイトとかー」
飲食店やカフェ、ガソリンスタンドのバイトに勤しんでいた頃を思い出した。
「でもそれだとまだまだ足りねえだろ?」
「ああ。だから、通ってたジムでやってた裏ファイトとかで稼いだり…」
「……裏ファイト?」
「簡単に言うと、金賭けた腕自慢大会みたいな…」
『5万? ケチケチすんなよ。あたしは15いくけど? え? まさか、チャンピオンが女のあたしに勝てる自信がない? へぇ―――?』
「煽りに煽って賭ける金額吊り上げて何度もボッコボコにしたら、出禁食らった。あたしが強すぎたばっかりに…」
もう少し八百長を加えるなど器用に出来れば良かった、と後悔する。負けず嫌いが仇となってしまった。
「……………」
とりあえず話を最後まで黙って聞こうとする由良。
「あとはカツアゲのカツアゲかな…」
コンビニの前にたむろする迷惑な不良の集団。目星のコンビニ客や通行人に目を付けては路地やコンビニの裏手に連れて行き、金銭をせびっていた。
レンは集団の前にあえて姿を見せ、あちらから声をかけてくるのを待ってから、無言で中指を立てる。
当然相手は激高し、「こっちこいや姉ちゃん」「金と貞操置いてけ」とコンビニの裏手にレンを連れて行き、呆気なく数秒で返り討ちに遭って金銭を自ら差し出すことになるのだった。
話し終えたレンの表情は「ドヤァ」としていた。頭の上のハトも「ポヤァ」と同じ顔をしている。
「いいことしてる風に言ってるけどな、じゅうぶん、いかがわしいからな?」
やっとつっこめた由良。
どこがだよ、と頬を膨らますレン。
「そういやおまえ、家あるじゃねえか」
ふと、由良はレンが家持ちだということを思い出した。
由良と一緒に勝又のアジトへ行く前に立ち寄ったことがある。
4人暮らせるほど広い、マンションの一室だ。
「……………」
「……レン?」
うつむくレンの表情を覗き込む。
「あれから2年も帰ってないんだ…。さすがになにも残ってねえよ…。もうとっくに誰か住んでるかもしれねえし…」
失言だったかな、と思ってしまうほど、レンの表情は寂しげだ。
もし、湖の戦いもなく北海道から東京の家に戻っていたら、まだ希望はあったかもしれない。みんなで暮らす、という約束もしていたため、様子を見に行くのも辛かったのだろう。
「他に行けるとこもないなら、一度寄ってみてもいいんじゃねーの?」
「行けるところって……」
ひとつ心当たりがあるような顔だった。気になった由良は「他にあんの?」って尋ねる。
「いや………」
少し考え込んだあと、レンはわずかに身を乗り出し、由良の目をしっかりと見て質問した。
「由良…、年上って好き?」
「は?」
藪から棒だった。
レンにふざけている様子はない。至って真面目な質問なのだろう。
一瞬きょとんとしていた由良は自身の顎を擦り、「んー…」と考えてから答えを選ぶ。
「……モデルによる?」
「チッ」
(露骨な舌打ち!)
あまりよくない答えだったのか、目に見えて表情が不機嫌になるレン。
頭の上のハトも蔑んだ目をしている気がする。
レンは「仕方ねえか」と諦めるように呟いたあと、ブランコから立ち上がり、「行こう」と言って歩き出した。
「由良の言う通り、一度家に帰ってみる。家がなくなってたら、また考える」
最後のパンの耳を口に突っ込んで咀嚼しながら由良もブランコから立ち上がり、「待てよ。なんだったんだ、さっきの質問」とレンの背中を早足で追いかける。
レンと由良が公園から出る前に、レンの頭の上にいたハトは別れの挨拶をするように「ポッポー」と小さく鳴き、飛び去った。
.To be continued