06:知ろうともしなかったんだ
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食後、由良と森尾はリビングでのんびりと過ごしていた。
由良はソファーで寝転がり、森尾はその向かいの一人用のソファーで読書しているが、先程から、ドスン、バタンという騒がしい音が2階から響き渡っている。
「あいつら、うるせーな…。仲良しにもほどがあんだろ…」
騒音のせいで眠れやしない、と由良が眉間に皺を寄せた。
「そう言う由良とレンは仲悪いのか?」
森尾は本から顔を上げて由良に尋ねる。
(仲が良かったこと……)
由良はレンと出会った日から現在のことを思い出してみるが、脳裏に浮かぶのはしかめっ面ばかりだ。
「……よく怒られる」
「悪いんだな…」
仕方ないといった様子で由良は起き上がって胡坐をかいて座り、テーブルの上に置いてある食べかけの缶クッキーを開け、手づかみで中のクッキーを食べ始める。
「向こうが勝手に怒ってんだよ」
どうでもいいことでも、レンは反抗的に由良に怒鳴っていた。目の敵にされているようだ。
「……ったく、色気はねぇわ。すぐ怒るわ、殴ろうとしてくるわ、もうちっと女らしくできねえのかって話だ。寝顔はそれなりに可愛げあったのに……」
「……寝顔?」
森尾は誤解する。
察した由良は面白いので誤解を解く気はなく、黙ってクッキーを悪い笑みを浮かべた口に咥えた。
そこで、「ん?」と視線を上げる。
(そういや、2階が静かになったな)
そう思ったとき、リビングのドアが元気よく開いた。
「見て見て~! 華音の傑作~!♪」
先に華音が入ってきた。
ギャンギャンと叫ぶなにかを強引に引っ張っている。
相手はリビングに足を踏み入れてなるものかと踏ん張っている様子だ。
「やめろー!! 放せー!! こんな姿見せられっかー!! 入ってたまるかー!! 放せ華の……放せって言ってんだろがこのアマァ―――!!」
声からしてレンだとわかる。
「往生際悪いよ、レンちゃん!」
華音は力いっぱいレンの腕を引っ張り、レンはうまく踏み止まれずにリビングに入ってきた。
「やめ…っ!」
「「……………」」
その姿を視界に入れた由良と森尾は唖然とした。由良の口に咥えられたクッキーがボロリと落ちる。
レンが赤と黒のチェックスカートを穿いて、メイクを施されていた。
当の本人はスカートの裾の丈が気になって両手で引っ張っている。後ろから華音が「伸びるからやめてー」とレンの手を外そうとしていた。
(おいおい、別人じゃねーか…。別にすっぴんでもよかったけど、これは……)
印象がだいぶ変わり、由良はすぐには感想が出てこなかった。
そこにあるはずのない紙と鉛筆を手探りで探してしまう。
「ナチュラルメイクにしてみた~♪」
華音がVサインを向ける。
「ううぅ…。こいつが……ムリヤリ……」
華音の後ろに隠れながら、レンが唸りながらごにょごにょと言っている。
「キレーじゃん」
少し溜めてから出した由良の感想に、「うわ、直球」と森尾が驚いた。
対するレンの顔は、火を噴いたように一気に真っ赤になった。
いつものように「うるせえ」と怒号が返ってくると思い、予想外の反応に由良はわずかに驚くが、視線を下に移してあえて言葉を継いだ。
「特に脚が♪」
カーンッ!!
直後、由良の顔面に痛みが走った。遅れて後頭部にも。
まずレンが足下に落ちていた缶クッキーの蓋を神速で投げつけ、由良の顔面に直撃し、そのままソファーごと後ろに倒れたからだ。
始終を見ていた華音と森尾は目を丸くして棒立ちだ。華音は思わず森尾の後ろに隠れている。
「由良なんかもう知らねえよ!! ばーかばーか!!」
半泣きで吐き捨てたあと、ドタドタドタと騒がしい足音を立てながらレンは2階の自身の部屋に戻った。
「レンちゃーん!」
華音は追いかけるが、しばらくは口を利いてもらえないだろう。
「………由良、今のはおまえが悪いぞ」
森尾が呆れて由良に声をかけた。
由良は倒れたまま、「………褒めたのに」と呟く。
ぶつけられた部分は赤く腫れていた。
その頃、レンは、
(もう2度とスカートははかねえ…)
スカートを脱いでベッドで力なく横たわっていた。
部屋のドアは外側で何度もノックされる。
「レンちゃーん、華音のスカート返して~。写真撮らせて~」
(メイク、水で落ちるかな…)
華音の声を無視してレンは両手で顔を覆った。
『キレーだな』
たった一言なのに、手と顔の間で熱がこもる。
「ば―――か」
.To be continued