39:これから
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朝を過ぎた頃、目を覚ましたレンは重そうに半身を起こし、伸びをして「ふわぁ…」と欠伸を漏らし、かけた覚えのないタオルケットが肩までかけらていたことに気付く。
夢を見ることもなく、すっかり熟睡していた。
寝ぼけ眼を擦りながら、部屋の中に由良の姿を探そうとしたが、見つからない。
小さなテーブルには山積みの菓子類、濃い青色のカーペットには菓子くずやクッキー缶が散らばり、近くにはスケッチブックと鉛筆が置かれていた。
開け放たれた窓から入り込む風が、カーペットと同じ色のカーテンを揺らす。
驚きはしなかった。
プラットホームへ行く前と同じ朝を迎えただけだ。
好きにすればいい、と遠回しに言って仕向けたのは自分自身なのだ。レンはわずかに何度も頷きながら言い聞かせる。
ベッドから半身を起こしたまま動かず、レンの視線は窓の方へ留まったままだ。
視界が少し滲む。あくび涙だと思いたい。
ふ…、と自嘲の笑みが漏れた。
(こんなもんだ…。ああいう自由なところも好きになったわけだし…。この世界のどこかで生きてくれてるだけでも……)
『いいわよ。恋。相手がどんな人間でも、なんでも許せる気持ちになれちゃうし』
ふと、いつか言われた、水樹の恋人の言葉を思い出し、額に左手を当てて頭を垂れる。
(いいもんかよ…。こっちは振り回されっぱなしだっつーの…。―――それでも…、あいつと出会わない方がよかったなんて思ったこと…ないんだよな……)
引きずっていても仕方がない、と気持ちを無理やり切り替え、予定以上に長居したホテルのチェックアウトの準備をするためにベッドから出ようとした時だ。
身体に纏う気怠さとは別に、自身の脚の重みに気付いた。
タオルケットで覆われた脚が、こんもりと膨らんでいる。自身の脚の長さと膨らみが合わない。
おそるおそる捲ってみると、由良がうつぶせの状態で顔を横に向けたまま、レンの太ももを枕代わりにして眠っていた。
(いる…!!)
静かに、雷に打たれたかのような衝撃を受けるレン。なぜこんなとこに、と我が目を疑う。
由良は、太もものひんやり具合が気持ち良さげだ。
レンとしては、一生誰かに膝を貸さないと思っていたが、あっという間に覆されてしまった。
眠る前に、由良は水樹達に話していた。
『もし…、レンと一緒にいることで、オレもレンみたいに…なにかを残したいって気持ちを見出すことができるなら……』
確証があるわけではない。水樹達は反対も賛成もしなかった。決めるのは由良だ。
『……もっとシンプルな理由があったな…。とにかく、描きたいものがいっぱいあるんだ…。レンのことも…。―――今はそれだけでいいだろ?』
「……ふふっ」
レンは起こさないように我慢していたが、寝顔をじっと眺めている内にくつくつと笑いが込み上げ、「バカ面…」と小さく呟いて由良の頬を軽くつつく。
由良の半開きの口から「んぐ…」と漏れるが起きる気配はなかった。
先程まで鉛のように重かった胸の内が、羽根のように軽くなっていた。
一喜一憂している己を自覚し、レンは呆れてしまう。
(もういいや、一生振り回してくれ)
由良のパスポートは、忘れないように、レンのカバンの上に置かれていた。
視界の端にそれを見たレンの瞳から、安堵の涙が零れる。
溢れ出る衝動のままに抱きしめたかった。
でも、今は、この無防備な寝顔をいつまでも眺めていたい。
呼吸、鼓動、体温が肌を伝ってそこに生きていることを実感させてくれた。
『あなたも、好きな相手が出来たらわかるはず…。全部から守りたくなる存在は、自分自身を強くするから…』
その言葉がレンの脳裏に蘇る。
(絶対に守るから…、一緒にいてほしい……)
そっと、鉛筆で汚れた右手に、自身の左手を重ねて強く願い、誓った。
もう2度と、誰にも壊させない。
.To be continued in the final chapter