39:これから
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チョコドーナツを頬張る由良と、レンの体を借りてイチゴドーナツを頬張る水樹。
改めてレンの能力のことを聞き、由良はアゴに手を添えて考える仕草をした。
「“保管”…」
「死ぬ…って思った瞬間、火花の音が聞こえたんだ。それで、気付いたらレンの中で目が覚めた」
当時のことを思い出しながら説明する水樹に、「華音も」、「オレも」と華音と森尾も共通の出来事を主張する。
「花火みたいな音はオレも聞いてる…。オレの場合は体がまだ死んでなかったから、人工呼吸の時に戻されたってことでいいのか?」
「そうだろうな。水樹が強制的に戻したタイミングもちょうど良かったのかもしれない」
森尾の推測を聞いて、その時のことを思い出した由良は「そういえばよくも沈めてくれたな」と水樹を睨むが、水樹も睨み返して「だからそれで助かったんだろ! 感謝しろ」と恩着せがましく言った。
「レンちゃんが無意識に、華音達に死んでほしくないって強く望んだから、華音達がこうして助けられたわけでしょー?」と華音。
「なにも、死んでほしくないって気持ちだけじゃないだろ。かなり追い詰められた状態で発動してる気がする…」と森尾。
「ああ…。正気を失うくらいブチ切れた時も、相手の命を吸収しようとしたことだってあった」とジャスパーと戦った時のことを口にする水樹。
「使い方によっちゃ、けっこうヤバそうな能力(ちから)だよな…」
もしかしたら、体は生きているのにそのままレンの中に取り込まれたままだったかもしれない、と今更ながら寒気を覚える由良。
「電気を通じて…ってのは未だに謎だけどな」
天井に視線を上げて考える仕草をする水樹に、由良は「ああ、それなら…」と考えを口にした。
「生体電気ってやつじゃねーか?」
「なんだそれ?」
理解できない水樹に、由良は右手の指を動かしながら説明する。
「人間ってもともと電気が流れてるからな。電気信号で指先を動かしたり、痛覚を感じたり、記憶したり、感情が動いたり…。なくてはならないものだ。心電図や脳波もそれで診てるし、人間の必要なデータなんだよ…」
話の途中で「こいつ、オレより頭良い?」と不安げに声を潜めて森尾に尋ねる水樹。森尾は複雑な顔で黙るだけだ。
「―――なんてややこしいこと、今頃ぐーすか寝てるレン(バカ)は考えてないと思うがな。オレだってそんなこといちいち考えながら能力(ちから)使ってねーし」
なんとなしにシャボン玉をぷかぷかと浮かばせる由良。
「おい! かわいい妹をバカっつったか!? なんだったんだよさっきのくだり!」
「それっぽく言っただけで実際のところは確証はねえけど、要は…、パソコンが完全に切れる前に、大事な“データ”を急いでUSBのように自分の中に移したみたいなもんだろ…」
急に身近な例えが出てきたことで、水樹は項垂れた。
右腕で頭を掻こうとしたが失っていることに途中で気付き、左手にかえて掻く。
「……そっちの方がわかりやすいし、しっくりくる…。ほんと…USBな…」
「?」
皮肉そうに笑う水樹に、由良は片眉を上げた。
「由良、何事も有限があるように、レンにも、“保管”できる命にも限界がある」
「!」
森尾の言葉で、由良は、定員オーバーだ、と言った水樹を思い出す。
「…もしかして、もう容量がいっぱいってことか? 限度を超えるとどうなる?」
「本当におまえは理解が早くて助かる…」と水樹。
「レンちゃんの人格が…粉々に壊れちゃうかも、だって…」と華音。
「おまえが“こっち”に来た時、周りの景色が崩れ始めただろ? オレ達の命に、レン自身の人格が押し潰されそうになったからだ」と森尾。
「……………」
周囲の建物が壊れ始めた光景が、由良の脳裏を過ぎった。
あれは、レンの人格の崩壊を意味していたのだ。
「……生きてる人間や、死体におまえらを入れて空き容量を増やすとかは?」
提案してみたが、すぐに首を横に振って却下された。
「死んだ体に入れるなら、とっくに自分の体を取り戻してる…」
「生きてる体もリスクが高い。人格がミックスされそうで恐ろしい…」
水樹に続き、森尾も顔を青くさせて言う。
「……ああ…、いちごミルクにバナナミルク混ぜるもんか。いちごかバナナかわかんなくなるもんな!」
納得する由良だったが、森尾は「その通りだけど、他のたとえはなかったのか」とつっこんだ。
「ひゃはっ。由良の抜け殻だったら出来たかもね―――。華音は絶対ヤだけど」
「怖っ!」
自分の体を「ひゃっはー」と華音に乗っ取られたことを想像した由良はゾッとした。
「発想がえぐい…」と水樹と森尾もドン引きだ。
「そういうことだから、おまえはなるべく死にかけるな。オレ達のこともレンには内緒だ」と人差し指を自身の口元に当てる水樹。
「正直、少し勘付かれてるんじゃないかとは思ってる…」と渋い顔をする森尾。
「ねー。レンちゃんが起きてる状態で能力(ちから)使っちゃったもんねぇー?」と悪びれる様子のない華音。
「それであいつ、至るところに指さしまくってたわけか」
ホテルに戻って来てから、時折、レンがホテルのテレビやドアノブに向かって指を向けていたことを由良は思い出す。
「あいつ、カノンのマネして「どーん」とか言ってたぞ」
「知ってるーっ。レンちゃん恥ずかしそうにしててカノン笑っちゃったー!」
思い出して笑いだす由良と華音。
「おまえら…」と呆れる森尾。
「本人が聞いてなくて本当に良かった…。あとキミら仲良いネ」と安堵する水樹。
「そんで、おまえらの希望は、本来の“保管”の能力(ちから)を本人に知られたくない…と」
気を取り直して本題に戻った。
水樹は「その通り」と頷く。
「おまえらのこと知ったら喜ぶと思うけどな。結果的はどうあれ、助けてるわけだし…」
「それで妹がめでたしめでたしで納得するわけねえだろ。本来の能力(ちから)を使われたらオレ達じゃブレーキがかけられないし、そして“心臓”に対して、これ以上希望を抱かせたくない」
「……おまえらを生き返らせるってアレか。あいつの目的…“壊す”になっちまったけどな」
「知ってる。大体の事情はレンを通して把握してるからな」
そう答える水樹に、はて、と由良は疑問がひとつ浮かんだ。
「…………なあ、もしかしてオレとレンの“ぷらいべーと中”も…」
あらやだおまえらデバガメ?と少し恥ずかしそうに口元を押さえる。
「うわ、サイッテ―――」と華音。
「さすがに、見聞きしないように空気読んで奥に引っ込んでるに決まってるだろ!」と森尾。
「やっぱりこいつぶん殴っていいか!?」と水樹。
ひとりの体から発せられる3人分のお叱りに対し、自身の右耳に指を突っ込む由良。
(だから、ホテル着いてから“あのあと”までのレン、めっちゃ描きやすかったわけだ…)
空気を読んでずっと奥に引っ込んでいたなら、誰かの人格が顔を出すこともなかったのだろう。
水樹は咳払いした。
「おまえは“心臓”を手に入れたいが、あいつは壊したい…。……本音を言うと、もう“心臓”には一生関わってほしくないとさえ思ってるんだ。能力(ちから)だって2度と使ってほしくない…。夢で何度か話はしたが、こいつは聞き入れようとしない」
「頑固だからな。…オレが言ったところで聞かねえよ。ひとりでも“心臓”を追うにしたって、壊すことはできねえだろけどな。あいつ、そもそも、“壊す”のを恐れてる…」
『ヤだよ! せっかく描いたのに!』
似顔絵を見られるのを恥ずかしがったくせに、残そうとしたのだ。
由良には理解できない気持ちだ。羨ましいくらいに。
「……オレが持ってないものだ…」
そっぽを向く由良に、「そんなことない」と言ったのは、華音だった。
「ねえ由良、レンちゃんは由良を助けるために、大切だった缶バッジを自分で壊したんだよ?」
「!」
海の中の出来事はレンから詳しく聞いてなかった。
華音はレンの代わりに見たことをそのまま伝える。
由良を助ける代わりに、ずっと肌身離さず持っていた缶バッジを犠牲にしたことを。唯一、実の父親との思い出だった物だ。
「―――流れで仕方なくかもしれないけど、由良のおかげで、レンちゃんは“大事な物を自分で壊す”ことができたの」
「……………」
由良は無意識に自身の右腕に目をやった。不意に、去り際のアンジェラの言葉を思い出す。
『レンちゃんはたぶん恩着せがましいことは言わんと思う。「もうバイクが運転できない」言うてたけど、右腕のことも気にしてへん。死ぬほど痛かったくせに、本人は、由良君が生き残る上に自分も死なへんかったらそれでええと思てる…。……そこから先はどうしたいか、本人に聞き』
次に声をかけたのは森尾だ。
「壊す決断は、相当苦しかったと思う…。それでもあいつは、欠如しているはずの部分をおまえから見出したんだよ。……由良、この2年、レンはずっとおまえを…!」
「モリヲ」
不意に名を呼ばれ、熱を込めそうになった森尾は遮られた。
由良の視線がいつの間にか3人に戻っている。その口元には小さく苦笑を浮かべていた。「わかってる」と。
少し間を置いて、水樹が口を開く。
「……決めるのはおまえだ。中途半端な優しさで妹と一緒にいてもらっても迷惑だからな。妹を守ってくれって言ってるわけじゃない…。ただ……」
「プッ。由良が優しさなんて持ち合わせてるわけないじゃーん」
「ありえな―――い」とクスクスと笑う華音に、由良は「おまえな…」と顔を引きつらせた。
「……オレは残すことに興味がない…。オレ自身のこともな。“心臓”を手にしたら、欠けた部分が埋められて、残してもいい作品(もの)が描けると思ってる…。―――でも、もし……」
(もし―――)
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