38:勝手に
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「わは―――っ! スゴ―――イ!!」
ミケーレ達が泊まっているホテルの一室のベランダから風景を眺めた恵が嬉しそうに声を上げた。
ベランダからは、ホテルに設置されてある大きなプール、その向こうは砂浜と海が広がっている。
「ね、ね、泳ぎに行こうよ!」
恵ははしゃぎながら後ろに振り返り、ミケーレ達に言った。
天草はベッドの傍らに、ルドガーはベッドの向かいに立ち、ベッドの上に座っている御霊の様子を窺っている。
一人用のソファーに座って背中を預けるジャスパーは、恵に苦笑いを向けただけで何も言わない。先程、プラットホームから急いで戻ってきたばかりだ。
「あー、メグミ、今ててこんでてヨ~~~」
「立て込んでる?」
「あ! うん、ソレ」
ベランダに出てきたミケーレは、恵に言い直されたあと、苦渋に満ちた表情で言葉を継いだ。
「“心臓”また見失ったから、イロイロ大変」
「? それって、ここにあるんじゃなかったの?」
「それがヨ、とっさに追っパラッタとかで、もうここには戻らないって言ってル。ジャスパーも骨オリゾン、だナ―――」
ミケーレがからかうように言って、ジャスパーは「【う、うるせえよ】」と目を泳がせて言い返す。
「え―――!? せっかく遠路ハルバル…、ってアレ? 戻らないって…、“心臓”って動くの? タマちゃん、薬って言ってたよ」
「うん、生きてるからネ」
(生きてる…?)
薬だと聞いていたのに、ミケーレの現実離れした返しに、恵は不思議そうな顔をした。
「そんなワケで、回収できる分は回収シヨって話してル。メンドムサイ事になりそ」
そう言うミケーレと一緒に、恵は部屋へと戻る。
傷まみれの身体にシーツを纏う御霊は、宙を見つめ、不気味な笑みを浮かべていた。
天草と御霊を交互に見るジャスパーの額から、冷たい汗が流れ落ちる。
その夜、ジャスパーは、天草を連れてホテルから出て、海岸沿いをしばらく歩いた先にあった崖へとやってきた。
その間、天草と会話を交わすことはなかった。
天草も、どうしてホテルから離れてまで、とは聞かなかった。
崖の下から、波がぶつかり合う音が聞こえる。
潮風もやや強く、髪が頬を何度も叩いた。
明かりもない場所で天草と向き合い、目を合わせ、ジャスパーは口を開く。
天草に、プラットホームで起こったことを全て話した。
由良とレンのことも。
ジャスパーが報告を終えるまで、天草は腕を組んで黙って聞いていた。
聞き終わると、指をアゴに当てて考える仕草をする。
「そうか…、あの男、生きていたのか。どちらもしぶといな…。由良匠と北条レンが合流したとなると、勝又様の御命も危ういかもしれない…」
「【………し…、“心臓”はどうする気だ?】」
その問いに、天草は薄笑みを浮かべ、自身の胸の中心に手を当てた。
「案ずることはない。“欠片”を持ってさえいれば、場所の特定はつく。勝又様から新たな指令が来るまでに、奴らを抹殺することを優先するつもり……」
「【もうやめろ!】」
「!」
これ以上は聞きたくなかった。
天草は驚いた表情で、言葉を遮ったジャスパーの顔を窺う。
「なに…?」
ジャスパーはコブシを握りしめ、戸惑った表情を浮かべて間を置いたあと、強めの口調で言った。
「【軍側の“欠片”の所有者が言ってた。「役目を終えれば死ぬ」ってな!】」
一瞬、天草の視線が泳ぐ。
それを見逃さず、ジャスパーは責めるように言葉を継いだ。
「【アキセンパイと勝又のおっさんは知ってるクセに、そんな話、オレ達は一言も聞いてねえよ!!】」
「……………」
「【“欠片”を持ってたら死ぬんだろ!? ……いや、御霊に殺されるって言った方がいいか!?】」
それでも御霊に隷属する理由がわからない。媚びるくらいなら、避けるべきだ。
広瀬に殺されてしまったが、由紀恵のように抗ってもいい。フリードキンのように逃げてもいいはずだ。
天草は視線を逸らし、口を開く。
「……ジャスパーは、どうしたい?」
小さな笑みを浮かべながら問いかける天草を見て、ジャスパーは試されているような気持ちになった。
それでも、動揺を隠して捲くし立て、手を差し伸べる。
「【ミッキー達と一緒に逃げるに決まってるだろ! 御霊と戦う気はない! 今ならまだ間に合う! アキも一緒に……】」
「勝又様を裏切るのか?」
その言葉に耳を疑った。
重大な隠し事をされていただけでも、十分な裏切りじゃないのか。
「【このままだと、センパイ達と同じ捨て駒じゃないか!! ハンだって死んだのに!! オレ達は、ついていく奴を根本的に間違えてる!!】」
「くく…、北条レンと似たようなことを言う…。……ああ、ホテルに戻る前に、由良匠になにか忠告されたのか…」
その口元は、明らかな嘲笑。
その眼差しは、明らかな見下し。
それはジャスパーが知らない天草だった。
それでも引くわけにはいかない。
今更、冗談では済まされない状況になってしまったからだ。
「【アキも、ルドガーも、ミッキーも、メグミちゃんも失いたくないだけだ!!】」
「……昔の仲間と重ねるのはやめろ」
「【!!】」
ジャスパーは思わずたじろいだ。
何もかも見透かす瞳と、三日月のような不気味な微笑を浮かべる天草。
一歩一歩近づいてくるに天草に対し、ジャスパーは一歩一歩下がった。
冷や汗が額に浮かび、頬を流れていく。
(【それ以上…、言うな…!】)
絶壁まで追い詰められていくと、天草は再び低い声でさらに追い詰めた。
「私を、凌辱の挙句惨殺された、貴様の恋人と重ねるのも…、やめろ」
ジャスパーは身震いする。
忘れようとしていた過去を掘り起こされ、瞳に涙が浮かんだ。
天草は「くす」と冷たく笑うと、右手を自身の腰にまわし、左手をジャスパーの背中にまわして身を寄せる。
天草の冷たい肌にビクリとした。
そして、恐ろしさのあまり、身動きが取れない。
「……せめて、私も勝又様と同じく、“洗脳”が使えたのならば、貴様を元の道に戻してやることも叶ったというのに…」
ドス!
腰に提げた小太刀を鞘から引き抜き、ジャスパーの左胸を一気に貫いた。
「勝又様を否定した時点で、貴様は敵だ」
「【あ……】」
ジャスパーは能力を発動させる隙さえ与えられなかった。
貫かれた小太刀を一気に引き抜かれ、傷口から血が噴出する。
天草の顔に血がかかった。それでも、天草は無表情のままだ。
左胸が酷く熱く、ぎゅっと握られたかのように苦しい。
傷口を両手で塞ごうとしたとき、ドン、と天草に右手で軽く突き飛ばされた。
足がつかず、ジャスパーはそのまま仰向けに崖から落ちていく。
「貴様もまた、脆く哀れで愚かな人間に変わりはない」
天草は憐れむような目で、ジャスパーが崖から落下していくのを眺め、ジャスパーもまた、水面に遮られるまで、自身を見下ろす天草から目が離せなかった。
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