38:勝手に
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数日後、太輔は、由紀恵の葬儀が終わって別荘に戻った。
由紀恵が死んだあと、伶達の態度が変化したことには薄々気付いていた。
太輔と目を合わせようとせず、腫物を扱うように避けて通って行く。
広いリビングなのに、酷く窮屈になった気がした。
2人部屋に顔を出すと、片方のベッドに奈美、もう片方のベッドに葵が座りながら向かい合っていた。
葵の表情は依然、心ここにあらずといったところだ。
「ア―――オイ」
太輔は声をかけてみたが、無反応を返される。本当に聞こえていないみたいだ。
「どう?」
「ううん…」
太輔が部屋に来るまで、奈美は葵と向かい合って語りかけていたみたいだが、反応はまったく変わらない。
葵はまるで、人形のように無表情だ。
(純兄は、軍側の能力者に洗脳されたって言ってたけど、まだ解けないのか…? ユキエさんが亡くなったこと、わかってんのかな…)
由紀恵の葬儀でも、葵が泣くことはなかった。
心配で葵の顔を窺った時、廊下からドタドタと忙しない音が聞こえた。
気になって出入口から顔を出すと、ペットボトルのジュースを歩き飲みをする泥だらけの勇太が、部屋の前を通過していく。
「ユータ! ひとりでどこ行ってたんだよ、危ねーな! よそん国だぞ!」
「―――うるせえよ。太輔、メシ! フロ入って寝る!」
息を切らしながら、勇太は太輔を睨んで命令口調で言ったあと、浴室へと足を向けた。明らかに不機嫌な様子だ。
「んなっ…。オレはおまえさまのなに!?」
太輔は勇太の態度に腹を立てた。
奈美は、サッスガ、と一蹴するほどの太輔の扱いに感心する。
その時、葵は立ち上がってフラフラと奈美の前を通過した。
「あっ」
奈美は引き止めようとしたが、葵は廊下へと出ていく。
ちょうど純と杏が肩を並べてこちらにやってくる途中だったので、葵は2人の前で立ち止まった。
純と杏は太輔と目を合わせると、葵を連れてそそくさと反対の方向へ戻っていく。
先程の伶の態度といい、2人の態度といい、さすがに奈美も気付き始めていた。
「急によそよそしくなったね…」
奈美は純と杏の背中を見つめながら呟く。
太輔は、2人部屋に入ってため息をつき、喪服のネクタイを緩め、ベッドにうつ伏せに倒れた。
(なんでこんなことに…)
その時、枕元から、ガサリ、と音がした。
顔を上げると、積み重ねられた紙があることに気付く。
それには見覚えがあった。
「……コレ……」
寝転んだまま手を伸ばしてそれを取ったあと、ベッドの端に座り、その紙に描かれたものをじっくりと眺めた。
由良が描いた、由紀恵の絵だ。
上から覗いた奈美が、それを見て驚いた。
「ゆ…、由紀恵さん? 誰が描いた?」
「……………」
名前は知らない。
だから答えようがない。
「……あいつかな、死んだ能力者って…」
マクファーソンの言葉を思い出した。
『おまえの能力者(なかま)も、1人死んだ…』
この部屋で、このベッドに座って楽しげに絵を描いていた由良の姿が脳裏をよぎる。
「……誰?」
「ナミも会ってる…」
(それとも―――)
続いて、レンの顔が脳裏をよぎった。
プラットホームで一度も会っていないが、いたに違いないと心のどこかで思う。
葬儀の時、霊園を見渡してレンの姿を捜したが、どこにもいなかった。
思わず指に力が入り、そこから小さな皺が跡をつける。
「……なんで、こんなに人が死ぬんだ」
(使ってみた能力がある。ずっと前に、ユータを石化から止めた―――能力(アレ)。でも、完全に死んでしまっていたユキエさんには、効果はなかった)
由紀恵の胸の中央を心臓マッサージするように両手で押しながら能力を発動させたが、由紀恵は生き返らなかった。
“心臓の欠片”を失ったことでただの人間に戻った由紀恵は、そもそも限界だったのだ。
「利用されようにもオレ…、なんの力にもなれなかった!」
利用されてもいいから、由紀恵を助けたかった。
(力が欲しい。そう思った)
*****
時計の針は深夜2時をまわっていた。
太輔はむくりと起き上がり、トイレへと足を向ける。
家の中はとても静かだった。廊下を渡る自分の足音しか聞こえない。
その時、どこからか、ガタ、という音が聞こえた。
誰かが起きたのだろうかと思ったが、隣の空き部屋から聞こえる。
(……なんだ?)
扉が閉められた空き部屋の前で立ち止まって耳を澄ます。
今度はゴトゴトという音が聞こえた。
(ど…、泥棒!?)
警戒心を覚え、扉のノブに手をかけ、一気に回して扉を開けて突入する。
「誰だ!?」
「!!」
薄暗い部屋の中で、侵入者と目が合った。
太輔は、目の前の人物に驚いて目を見開き、声を上げる。
「レン!?」
「た……」
レンははっとして慌てて開けっ放しの窓から出て行こうとする。
「お、お邪魔しました―――!」
「ちょ、ちょっと待って!」
太輔は追いかけて手を伸ばし、レンの長袖白シャツの右袖をつかんだ。
「!?」
右腕の肘から先が空っぽなことに気付き、思わず動きを止めた。
(右腕が……)
「……………」
右袖をつかんで見つめたままの太輔を見て、レンは諦めたように大人しくなり、太輔に振り返る。
同時に、太輔の手から、右袖がするりと抜けた。
太輔は顔を上げ、レンと目を合わせる。
「やっぱり、レンもあの場所で…」
「………怒らないのか?」
「え?」
キョトンとしている太輔に、レンは申し訳なさそうに目を伏せながら言った。
「勝手に仲間になって、勝手についてきて、勝手に出て行ったのに…」
太輔は「あ」という顔をしたあと、腕を組んで眉をひそめ、わざと偉そうに言い放つ。
「ああ、勝手だ! バカ!!」
瞬間、レンは肩を落としてズーンと沈んだ。
太輔は「あれ?」と首を傾げる。
「太輔に…「バカ」って言われた…」
「どういう意味だ―――!!?」
相当ショックだった様子だ。
そんな反応された太輔もショックを受ける。
「でも、生きていてくれてよかった…」
「太輔…」
笑みを浮かべた太輔を見て、レンも笑みを返した。
だが、すぐにその表情は曇る。
「……ごめん。落とし物回収しに来ただけなんだ。さっき見つけたし、すぐに出ていく」
「なんで? 誰も責めねえよ。オレが見てなかっただけで、おまえも戦ってたんだろ?」
レンの右肩をつかんで言ったが、レンはそんな太輔の手首を優しくつかんで理由を話した。
「由紀恵さんが死んでから戻ってくるなんて、厚かましいにもほどがあるだろ? 戻ってヘラヘラできるほど、あたしは器用じゃねえんだよ」
太輔の手が、レンの右肩からゆっくりと離れる。
「……これから…、どうする気だ?」
「……まだちょっとうまくまとまってない…。あいつと一緒に考える」
そう言ってレンは苦笑した。
「「あいつ」?」
太輔の頭に、由良の顔が浮かぶ。
同時に、レンは窓際に近寄り、右足を窓枠にかけた。
「じゃあな」
「レン」
太輔に呼び止められ、レンは振り返る。
「勝手に戻ってきていいんだぞ。オレ達、勝手に待ってるから」
レンは驚いて目を見開き、感謝の笑みを返した。
「……また会おうな」
そう言ったあと、窓枠を飛び越えて別荘をあとにする。
(……ここでも、いい仲間に会えた…)
戻ってきていい、と言われただけでありがたい。
来た道を歩きながら、レンはポケットに手を入れ、別荘で見つけたものを取り出した。
由良のパスポートだ。
(あいつと一緒に考える、とは言ったものの…)
「そもそも、この先…一緒にいてくれるのか…?」
パスポートを開き、写真の由良に問いかける。
.To be continued