06:知ろうともしなかったんだ
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ガツガツガツガツガツガツガツ……
食堂で、由良は森尾が作った朝食を頬張っていた。
大皿に盛られた具だくさんのサンドイッチ、カボチャのスープ、フルーツヨーグルトだ。
「あ…、朝からすごい食欲だな」
向かいの席で朝食を食べる森尾が言う。
「おまえ、料理うめーな! 嫁に行けるぞ!!」
「嫁…?」
いつも和食だったため、由良としては飽きてきたところだった。
しかも森尾は、和・中・洋、どれでも作れるのでのちに料理当番が決定する。
しばらくして、レンと華音が来た。
しかも、
「あのCD、店内の隅っこにあってさー。誰かがいい加減に入れたおかげで、売り切れ寸前で手に入れたんだ。最後の一枚だったし」
「あのCDって、もうどこ捜してもなかったのよねー」
「じゃあ、あとで貸してやるよ」
「ひゃはっ、レンちゃん、やっさし~♪」
いつの間にか距離感がぐっと縮まり、共通の話題で盛り上がっている。
((仲良しになってる…))
唖然とする由良と森尾は同時に思った。
レンと華音が向かい合わせに座り、由良は横の席に座ったレンに小声で話しかけた。
「誰だっけ、リアクションに困るって言った女は」
「いや…、気が……合ってな…」
弱い声で言いながら、レンは朝食のサンドイッチを口に運んだ。
その瞬間、はっとして、目を輝かせた。
「………うまい…!」
「だろ? モリヲが作ったんだとよ」
「森尾が!?」
声を上げてモリヲに顔を向ける。
「口に合ってよかった」と森尾は笑みを浮かべ、「合う合う!! 嫁に行ける!!」とレンは由良と同じことを言った。
「嫁……」
森尾は複雑な表情を浮かべる。
そこでレンは食べるのを止めて、由良の顔を窺った。
頬杖をついてニヤニヤと何か言いたげに笑っている。
「……なに笑ってんだよっ」
「べっつに~♪」
わざと挑発的に返した。
何が言いたいのかは察しがつくものの、察したからこそ、こみ上げる恥ずかしさでレンの顔が赤くなる。
「おまえ、バカにしただろ!?」
「単純♪」
「なんだと!?」
「へぇ、レンちゃんって、怒鳴るんだ!?」
「カノン、そこ関心するとこか? オレなんか、しょっちゅう怒鳴られてるぞ」
「まぁまぁ」
見かねた森尾がなだめたその時、勝又が遅れて食堂に入ってきた。
「おや、すっかり仲良しだね」
安心したよ、と笑顔を向ける。
「あ、勝又さん」とレン。
「おはようございます」と丁寧に挨拶する森尾。
「おはよーございまーす」と華音も返す。
「よー」と手を上げるのは由良だ。
「あ、レンちゃん、ごはん食べ終わったら華音の部屋に来て!」
「え?」
「いーい!?」
「わ、わかった……」
朝食を食べ終えた華音がレンに声をかけて食堂から出て行った。
「レンって、押しの強ぇ奴に弱ぇな。チョロイン?」
「……うっせーよ。自分でもびっくりだ。チョロ…何?」
レンは華音より少し遅れて朝食を食べ終え、約束通りの華音の部屋に足を運んだ。
「ほい、CD」
レンは一度部屋に戻り、CDを取りに行っていた。
「ありがとー♪」
受け取ったCDを胸に抱く華音。
「華音のオススメ貸すねー」
そう言って、CDが収納された小棚を漁りだす。
その間、レンはベッドの端に座って待つことにした。他人の部屋は落ち着かないのかそわそわしている。
「あ、これカドにヒビ入ってる、サイアクー」と華音の独り言が聞こえたかと思えば、「ねえ」と声をかけられ、「んー?」と返した。
「レンちゃんって、健ちゃんに会ってどう思った?」
「「健ちゃん」? …ああ、森尾健一郎だから健ちゃんな」
「そー」
「あー…、最初は警戒したけどさー、けっこういい奴だな。料理もうまいし。由良よりは全然まともだ。由良の時は第一印象最悪だったからさー」
「華音たちが来る前から、由良とはずっと一緒にいるの?」
「ずっとじゃねえよ。ここに由良に連れてこられてやっと1週間越えたところだ」
「なーんだ、仲良さそうだったから。…付き合ってんのかと思った」
「どこか仲良しだっ。え、今なんつっ…た?」
反射的に否定し、添えられた一言に遅れて耳を疑った。
「フ―――ン?」
肩越しにこちらを見る華音の口角が意地悪く上がっている。
「なんだよ…」
表情の意味も質問の意図もレンには理解できなかった。ただただ困惑の感情が募るだけだ。
呆れながらレンは視線を華音の部屋にある鏡台に移す。
鏡台前には数々の高級化粧品が並べられ、すごい数だな、と感心した。
(これ…、あの小さい顔に全部使うのか…?)
普段化粧品をほとんど使わないレンにとっては、並べられた化粧品のひとつひとつの役割が皆目見当もつかない。
改めて、女性の部屋だと実感した。
華音からもほんのりとフローラル系の香水の匂いがする。
興味本位のままに部屋中を見回したところで、華音の視線に気づいた。何か言いたげな顔だ。
「あ、悪い、見すぎた。…女子の部屋、あんま来たことなくてさ…。あたしも一応女子だけど」
「……………」
「?」
反応がない華音に小首を傾げると、片手に5枚のCDを重ねて持ってくると、流れるようにレンの隣に座った。
「……そっかぁ、レンちゃん、やっぱり男の子みたいだからかな…」
「え?」
何かを思い出したのか、華音の表情がわずかに影を落とし、レンと目を合わせる。
「ね。メイクしたことないの?」
「ない。母さんに化粧水つけるようには言われてたからそれはやってたけど」
「えー、ありえなーい! 化粧水、乳液、美容液は絶対必須じゃん!」
素っ頓狂な声を出したあと、立ち上がってクローゼットと鏡台をまわり、右手にメイクセット、左手に女物の服を持ってレンの前に戻ってきた。
レンは嫌な予感を覚え、顔を真っ青にして立ち上がる。
華音がニヤリと笑みを浮かべ、レンは反射的に身構えた。
「な、なんだ、それをどうする気だ!?」
華音が近付くにつれてレンはじりじりと後ろに下がるが、華音は逃がしてなるものかと一気に距離を詰めた。
「観念しなさ―――い!!」
「ギャ――――――ッ!!」
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