38:勝手に
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ベッドの上に、タオルケットを被ったまんまるの物体がひとつ。
そのベッドの傍で由良は、先程買ってきた菓子類を床に広げながら声をかける。
「おいそこのまんじゅう。いい加減出てこいよ。おもしろ発作笑われたのがそんなにショックか?」
「……………」
タオルケットの中に閉じこもってしまったレン。
由良と顔を合わせるのがとても気まずい。
由良も先程の光景を思い出しては笑っていた。そして今は「イモムシがサナギになった」と腹を抱えている。
「~~~~……あたし…、途中から記憶がないんだけど…」
「そらそーだろ。右腕の止血不足、頭部・肩口の負傷による出血多量でぶっ倒れて、そのまま2日くらい眠ってたんだからな」
告白した直後に糸が切れたように倒れたとか。
情けなくて押し黙っていたかったが、気になっていたことを尋ねる。
「それで…、そのあと、どうやって脱出を…? アンジェラは…?」
「レンが倒れたあと、勝又んとこの能力者が出てきた」
「!?」
由良は思い出しながら詳細を話した。
『おい、レン』
糸が切れたように前のめりに倒れたレンを支え、由良はその頬を手の甲で軽くペチペチと叩くが、レンが起きる気配はない。
慌てて駆け寄ったアンジェラは、レンの顔を覗き込んだ。わずかに血の気を失っている。
『レンちゃん! …あかん…、血ぃ流しすぎや…。体力も限界やったんやろな…。ここに着いてずっと動き回ってたし、ケガもしまくっとった。ウチの能力(ちから)、疲労は回復できひんから…』
ゴゴゴゴ…ッ
『『!?』』
プラットホームがさらに傾いた。支柱を保っていられるのもそろそろ限界だろう。
『急いで出るぞ』
『うう…。間に合うやろか……』
由良はレンを右肩に担いで立ち上がる。ふらつきそうになったが耐えた。
アンジェラも不安で涙目になりながら追いかけようとする。
『【そこのお三方】』
『『!』』
上から聞こえた声に、由良とアンジェラははっと見上げた。
同時に、すぐ近くの建物の屋上から、声の主が目の前に着地する。
軍服を着ているが、ありえない高さから落ちて無傷のため、すぐに能力者だとわかった。
由良は片眉を吊り上げる。どこかで見た顔だ。
『おまえ…』
ニューヨークで、勝又のアジトの前を去ろうとした時、すれ違ったことを思い出した。
『勝又の仲間か』
『【その通り! やっぱりアンタ、センパイか! オレ様はジャスパー】』
『え…』
怪訝な表情のアンジェラは、由良とジャスパーの顔を交互に見る。
『ご紹介どーも。……で、そいつがなんの用だ?』
口角を上げているが、由良は警戒していた。
『【隙あらば、タイスケって奴ごと“心臓”を回収してくれって勝又のおっさんから頼まれてたんだよ。その前は、レンセンパイも仲間としてもう一度迎えたいから、拉致ってくれとも言われたな…】』
『……穏やかな話ちゃうなぁ…』
アンジェラも一気に警戒する。由良とレンを背中に隠すように前に出た。
『ふぅ―――ん。その言い方だと、レンの拉致に失敗してるし、“心臓”もうまく回収できなかったんだろ? そのケガ、こっぴどくやられたな、おまえも』
挑発的に言う由良の言葉は図星だ。
苦笑するジャスパーは抉れた左肩に手を触れる。筋肉を操作して盛り上げ、一時的に止血を施していた。
『……“心臓”がここを離れた…ってことは、ジジイの計画も一旦宙ぶらりんになった状態か…。手土産にもう一度レンを狙うか?』
由良が不敵に目を細めると、周囲にシャボン玉が浮き上がる。
ジャスパーは『【ストップストップ!】』と両手を上げた。
『【今はここから脱出することが先決だろ。こっちだって、能力者ふたり相手にするほどのガッツねーよ! オレが乗ってきたボートに、お三方も同乗するかって聞きに来ただけだって。……この状況だ。隠したボートが壊されてなかったらな。そん時は、最初に来た時みたいに、オレは最悪泳いで帰るけど】』
『え。なにおまえめっちゃいいヤツ?』
パパパ、とシャボン玉を消す由良。
『【基本的にオレ様、女性にも“仲間”にも優しいぜ】』
『絆されとるやん、もう…』
乗せてもらえるなら願ったりかなったりだ。
プラットホームの完全崩壊まで時間はない。今にも支柱が崩れてすべてが海に落下してもおかしくはないのだ。
隠した部屋は穴だらけだったが、ジャスパーが乗ってきたボートは奇跡的に無事だった。
由良、レン、アンジェラ、ジャスパーはボートでプラットホームからの脱出を果たした。
海を移動中、アンジェラはジャスパーに治療を施す。
『【痛っっっでええええ!!】』
左肩の治療を受けているジャスパーが悲鳴を上げた。
アンジェラはそれを無視し、抉られた左肩に両手をかざしてゴールドリングを出現させて能力を発動させ、治療を続行する。
自身の体にもたれさせたレンを支える由良は、『オレん時よりマシ。死んでたし…』とげんなりした顔をした。
ジャスパーは暴れ回ろうとするが、治療を受けて光に包まれている部分は固定されているかのように動かすことができないようになっている。
『男やろが! ガマンせんかい、ど阿呆!! ウチもケガ人なんやぞ!!』
『【もういい!! 自力で治す!!】』
『お礼は受け取っとかんかい!!』
怒鳴りながら、容赦なく治療を続けた。
『【やっぱり泳いで帰ればよかった…】』と漏らすジャスパーは涙声だ。
桟橋に到着し、ジャスパーは自身の左肩を見て口笛を吹いた。
『【へえ、スゲーな。完治してる…】』
『それがウチの“能力”やからな』
アンジェラは救命ボートの端に背をもたせかけ、腕を組んで誇らしく言った。
由良はプラットホームの方へ目を向ける。見るも無残な姿で完全に倒壊していた。
あと少し遅れていたら、一緒に海に沈んでいただろう。
こちら戻って来る時も、軍用ヘリのプロペラ音で上空が騒がしかった。
『……ホンマになんもしてこーへんの?』
ジャスパーの一挙一動を気にするアンジェラは、おそるおそる確認するように尋ねる。
『【治療してもらった恩人に手出すわけないだろ】』
ジャスパーは苦笑するだけだ。
由良は再びレンを右肩に担ぎ、ジャスパーと向き合った。
『助けてもらった礼に忠告してやる。すぐに勝又のジジイから離れろ。…オレ達みたいになりたくなかったらな』
そう言ってジャスパーの横を通過し、モーターボートから降りる。
振り返るジャスパーは『【ご忠告どうも、ユラセンパイ】』とわずかな皮肉を込めて言いながら由良の背中を目で追った。
アンジェラも、立ち上がってジャスパーの横を通過し、桟橋に降りた由良の背中を追いかける。
『送ってくれておおきにー』
振り返って礼を言うアンジェラに、ジャスパーは手を振って見送るだけだ。
それからホテルに戻ってきた、と由良は説明した。着替えもアンジェラが用意してくれたと言う。
由良のツナギも、前回着ていたツナギがすっかり破れてしまったため、新しくフード付きの黒いツナギをちゃっかり買ってもらって着ていた。
「ちなみに、ホテルの宿泊代の方は、オレの分も含めてアンジェラが追加で払ってくれたぜ」
「うわ…。めちゃくちゃ世話になってる…」
タオルケットの中で黙って聞いていたレンがこぼす。申し訳なくて左手で顔を覆った。
「……で、アンジェラはどうした?」
「金貰ったり、手当てしてくれたり、色々と面倒見てもらったけど、その日の内にどっか行った」
「どっか行った!?」
「あとはよろしゅう、って」
「軽くない!?」
深手ではないとはいえ、アンジェラも怪我を負っていたはずだ。
プラットホームまで送ってもらったり、敵を一緒に倒したり、由良の右腕も元に戻したり、諸々に世話になっている分、見送ることもできなかった。連絡先も知らない。
(……アンジェラも目的があってあたしと一緒に行動してたけど…、結局、アンジェラは達成できたのか…?)
アンジェラも何か目的があってレンに近付いてきた様子だが、詳しくは聞けずじまいだった。
『【イザベラ…】』
何かに対して必死になっていたことだけは見受けられた。
「……………」
目的の詳細を聞きたいわけではないが、もう少し話をしたかった、とレンは寂しくなる。
「うっ」
突然、タオルケット越しに指で背中をつつかれた。
「メシだメシ。腹減ったろ。オレもなんだかんだ丸一日眠ってたんだ、早く食べようぜ」
「やめっ、つっつくな!」
「顔はここか?」
適当に右手で鷲掴みにする由良。
「わあぁ!?」
つかんだ部分とは反対の方で声がした。つかんだのは尻の部分だった。
小突かれて怒られる由良。額に小さなコブを作った。
少ししてようやくタオルケットから出てきたレンは、ベッドの下の惨状を目にする。菓子の食べカスや袋、クッキー缶が散らばっていたのだ。
「ホテルの人に怒られる…」
「まあまあ、とにかく食えって。なんでもあるから」
「なんでもって…モガモガ」
「ほぼ菓子じゃねーか」と言いかけたところで、一口サイズのクッキーやビスケットを口に詰め込まれた。
口の中に甘みが広がり、もそもそする。喉が詰まりそうになって水を求めると、オレンジジュースのビンを手渡された。
押し流すように飲み込んだが、口がカラになるとまた由良が右手でつかんだ菓子類を突っ込もうとする。
「あたしはヒナか」とつっこみながら、「自分で食べる」と由良の手を避けた。
「遠慮すんなよ。アンジェラが「これで好きなもん買って食べー」っていっぱいお小遣いくれたからな」
「おまえはもう少し遠慮しろよっ」
「ドーナツに、キャラメルポップコーン、チョコレートスナック、マネキンの腕、ポップキャンディー、わたあめ…」
「お菓子じゃないやつ混ざってねえか!? なんだ、マネキンの腕って…」
「マネキンの腕」
どん、と目の前に置かれたのは、肘から先部分のマネキンの右腕だ。
「本物のマネキンの腕じゃん! 非売品だろ!?」
「……………」
口周りが食べカスまみれの由良はニパッと笑う。
「笑って誤魔化すな!!」
「ちょうどよさげなサイズだったから…、ほら、腕出せ」
レンの右の二の腕をつかんでわずかに引き、試しにマネキンの腕をくっつけてサイズを確認してみる。
あとでベルトをつけて義手っぽくするつもりだ。
右手の部分は左手と比べて一回り小さいが、ライダー用のレザーグローブを装着すれば誤魔化せる。
「どーよ。これで並んで歩いても、片腕ペアルックが目立つことはあるまい」
自信ありげな由良の顔を見たレンは、思わず噴き出した。
「おま…っ、プクク…ッ、単体で十分目立ってんのに今更…っ。ハハハハッ!」
久々に、レンはツボにはまる。
由良が「なんだよ…、元気じゃねーか…」と拗ねるように口を尖らせるものだから余計に面白かった。
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