37:拝啓、神様へ
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『絶対てめえのことなんか、一生忘れてやらねえからな!!』
(ああ…、そうだった…。あいつ、たしか……)
蘇った記憶は、2年前のあの日の続きだ。
『残念だったね。人の記憶に残ったよ』
勝又にそう言われ、自分はどんな顔をしたのか、由良自身は覚えていない。
ただ、その表情を見たレンは、少し考える仕草をしたのち、肩越しに由良に振り返って声をかけた。
『―――由良…』
左手で自身の左目を覆い、舌をベッと出すレン。
『じいしきかじょ~~』
『…………あ゛?』
あまりにもバカみたいな顔で言ったので、逆にバカにされていると気付くまで少し時間がかかった。
『なんだそれモリヲのマネか? 似てねーよ』
レンはフンと鼻を鳴らし、被っているキャスケット帽を外す。
『人の記憶に残ったところで、ずっと残ってるわけねーだろ。人間いつか死んで消えてなくなって、他人どころか自分のことも全部忘れるんだからさ』
きょとんとする由良。
レンはキャスケット帽に付けている缶バッジを指先で撫でた。
『あたしやおまえだって、いつか誰からも忘れ去られるんだ。誰だって、いなかった人間になるんだよ。……由良が気にすることねーから』
由良は、今オレは慰められているのか、と怪訝な顔をする。
(……オレ、そんな気にしてる顔してたか?)
思わず自分のアゴを擦った。
レンは外したキャスケット帽を見下ろしながら言う。
『……由良が絵を壊すのを見て思ったんだ…。どんな生き物だって、生きてる間は、ずっと未完成な状態なんだなって…。死ぬ(完成した)時は…あんな感じになにもかもなくなるんだ…ってさ…』
『……………』
(未完成…)
何も残さない美学に関して、今の状態が未完成であることは意識したことがなかった。
ほう、とレンの視点に感心してしまう。
『レンって詩人みたいなこと言うよな』
『おまえに言われたかないわ!』
肩越しに振り返ってつっこむレン。意識してしまうと途端に恥ずかしくなってきた。
誤魔化すように咳払いし、帽子を被り直して立ち上がる。
『大体、おまえみたいな奴、忘れることの方が難しいだろ。…あたしに忘れられてほしかったら、あたしより長生きしろよな』
照れのあまり、その場から逃げるように部屋を出たレンの姿に、思わず笑ってしまったのを思い出す。
『なに言ってんだ、あいつ…。ああは言っても、それでもずっと残していたいから、オレより先に死ぬつもりもねえクセに…』
手と手が一瞬離れたレンとアンジェラは、突然割り込んできた人物を凝視する。
由良は目が覚めると同時に駆け寄って身を乗り出し、右手を伸ばして落下する寸前のレンの左手をしっかりつかんだ。
(縛られるのは好きじゃねえ。身軽がいい。なにかを背負うのはたくさんだ…。……そう思ってたのに…)
「なんだ…、思ったより軽いな…」
目を大きく見開いて驚くレンと目が合い、意地悪な笑みを浮かべてそう言った。
「ユラ君…!?」
「アンジェラ、手伝え」
アンジェラと由良は協力してレンを引き上げる。
いつの間にか広瀬の猛攻は収まっていた。“アクロの心臓”の気配もない。
3人は息を弾ませ、まだ安定する場所に移動し、座り込んだ。
肩口のアンカーボルトも引き抜かれ、アンジェラに手当てされるレン。
レンと由良は向き合った状態だ。
うつむく由良は、なくなったはずの自身の右手のひらを静かに観察している。
レンは頭部と肩口の痛みに耐えながら、ここに至るまでの怒りを思い出し、「このバカ…!」と由良の頬を叩こうと左手を振り上げた。
その時、ポタ…、と由良の右手に水滴が落ち、レンはぎょっとしてフリーズする。
由良が、静かに泣いていた。
「オレの…右手だ……」
爪、手指の形から指紋まで、由良の右手は元通りだ。
初めて目にするその様子に、手を振り上げたままのレンはおろおろと戸惑い、しばらく唸って悩んだ挙句、諦めたように大きなため息をつき、由良の頭部を優しく撫でて肩口に引き寄せる。
「……しばくんちゃうの?」
「泣きっ面にハチかますほど鬼じゃねーわ」
ププ、と堪えて小声で言うアンジェラに、レンも唸り交じりに小声で返した。
ズビズビと鼻を啜り、由良はレンに尋ねる。
「……言いたかったことって?」
「へ?」
「オレに、なんか言いたいことあったんだろ?」
「……………」
レンの顔がカアッと赤くなる。
そのリアクションに興味を示したアンジェラがよく聞こうと近付いてきたが、レンは「アンジェラちょっと離れて」と恥ずかしがりながらしっしと手を振った。
「…………その…、あたし…さ……」
ちょうどいい位置だ。
そのまま、由良の耳元に囁くように告げる。
「あたし…、由良が好き」
.To be continued