37:拝啓、神様へ
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アンジェラが、気を失ったままの由良を背負ったまま急ぐように小走りし、レンは由良が落ちないように左手で支えながらアンジェラと歩幅を合わせた。
早速、右腕を失ったことによる不便さを痛感する。本当ならレン自身が由良を背負いたかったからだ。右腕の欠損部分はアンジェラのスカーフで縛られ、一時的に手当てされてある。
移植・結合するために能力を使ったことで、アンジェラも体力を消耗していた。
由良のツナギからできるだけ海水を絞ったが、それでも背の高い成人男性を細身の女性が背負うのは大変だろう。
少し歩いただけでアンジェラの息が上がっている。
「……やっぱり代わるって。肩に担げばなんとか…」
「なに言うとんねん。右腕の切断したとこかて本当はゆっくりと治したいとこやのに……」
ゴゴゴゴゴゴッ!!!
「なんかヤバいことになっとる―――!!」
「広瀬だ!! 逃げろ逃げろ逃げろ―――!!」
疲弊した体に鞭を打って必死に急ぐ理由がこれだ。
暴走する広瀬の無差別攻撃は、レン達がいる場所まで届いていた。
現在、プラットホームは虫食いだらけの状態だ。
レンとアンジェラは由良を連れて建物と建物の間を走り、プラットホームの端にある、ヘリコプターデッキから外れた広い場所へと出る前に、兵士の姿がないか確認してから、その場に立ち止まって息を整える。
どんな物でも貫通してしまう広瀬が放つ閃光から逃れるのは至難の業だが、体力が底を尽きそうだった。
がむしゃらに逃げたところでどんどん消耗するだけだ。
「あかん! どんだけ離れても意味ないわ! プラットホーム全体が危険地帯や!」
「せめてボート見つけないと…! 哨戒艇に救命ボートがないか…」
「とっくに沈められとるわ! さっき見たもん!」
復活したばかりの広瀬の攻撃が当たったことで、哨戒艇は沈められ海の藻屑となっていた。
最初に決めていた頼みの綱が絶たれてしまう。
「レンちゃんのお友達もここにおるんやろ? 一緒に脱出できるか頼めへんの!?」
「ぐ…。別行動とるって言った手前もあるが…、こいつ嫌われてるからなぁ…!“心臓”が復活した際いらんことしてる気がする…!」
苦虫を噛み潰したような顔で由良を指さすレン。「こいつは乗せてくれないかも」と肩を落とした。
「起きたらしばく」
「うわ。鬼や…」
「言っとくけど、いまだにこいつには腹立ててんだからな! 相談もなく抜け駆けみたいに人のこと置いていきやがって…!」
「けっこう初期の方で怒っとる…」
あくまで右腕のことではなさそうだ。
「朝起きたらいないってデリカシーなさすぎだろ! カッコつけてるつもりかよ!」
「……………そ、それって……昨夜はお楽しみだったってこと……」
つい勢いで言ってしまったレンは「しまった…」と左手で熱くなる顔を覆った。
「そら怒るわ~」とニヤニヤのアンジェラ。
レンは「そうだ!!」と思いついたことをわざとらしく大声で発する。
「プラットホームにも救命ボートはあるはず…! 生き残ってる軍人でもとっつかまえて聞き出すか!?」
「や、野蛮な方法やけど、その方がええか…。ちょっとヤケクソになってへん?」
アンジェラは渋々賛成した。
どちらにしても、行動を起こさなければ、穴だらけにされてしまう。
プラットホームもいつまで原型を保っていられるか、わからない状態だ。
頃合いを窺い、広い場所へ飛び出すレンとアンジェラ。
適当な建物から地下へと移りたかったが、ムチャクチャに放たれる閃光がそれを阻む。
「【うぐ!】」
「アンジェラ!」
アンジェラの右のふくらはぎの側面に細い閃光が貫通し、小さな穴を空ける。
バランスを崩しそうになったが、踏み留まるアンジェラ。
さらに飛んできた太く大きな閃光が近くの鉄柵に当たり、鉄柵は下のコンクリートごと大きく円状に抉り取られる。
その光景を目にしたレンとアンジェラは息を呑んだ。
広瀬が放つ閃光を遮るものは何もない。それさえも消してしまうのだから。
ズン!!!
プラットホームの支柱となっているコラムが破壊されたのか、バランスが崩れ、プラットホームが衝撃とともに傾く。
「うわ!!」「【きゃああ!!】」
つかむものがなく、レンとアンジェラと背負われた由良はプラットホームが傾いた方向に倒れる。
「く…っ!」
レンはアンジェラの手首をつかみ、転がらないように耐えた。
そこでアンジェラははっと上を見上げる。
「レンちゃん上!!」
「!?」
プラットホームの中心部にあった鉄塔がへし折れ、周りの建物を押し潰しながら轟音を伴って倒壊する。
倒れた鉄塔はレン達から逸れて直撃はしなかったものの、プラットホーム全体に響き渡る衝撃で再びレン達の体は一瞬宙に浮き、鉄塔の破片や建物の残骸が周辺に飛び散った。
粉塵が舞い、一時的に視界を奪われる。
咳き込みながら、アンジェラは辺りを見回した。レンの姿がない。
「レンちゃん!? どこや!?」
レンは、先程広瀬の能力で切り取られた柵部分の向こうへ放り出され、咄嗟に手を伸ばしてコンクリートの端に片腕でつかまり、宙ぶらりんの状態となっていた。手を放せば、高所から海へと落下するだろう。
アンジェラは一度由良を背中から下ろしてその場に横たわらせ、そちらへ近づいてレンを発見した。
「おった!」
レンの位置から、プラットホームは斜め下に傾いているアンバランスな状態だ。
アンジェラは落ちないようにレンの方へゆっくりと近付き、両手を伸ばしてレンの左手首をつかみ、引き上げようとする。
「…う…」
レンは頭部と左肩に生温かい血の感触と、痛みを覚えた。
鉄塔が倒れた際、レンはアンジェラと由良に覆いかぶさるように庇ったのだ。
飛んできた小さい瓦礫の一部がレンの頭部に当たり、さらには細長いアンカーボルトがレンの肩口を後ろから容赦なく貫いた。それから揺れの衝撃に耐えきれず吹っ飛び、柵の向こうへ落ちそうになっていた。
アンジェラに手を貸されてはいるが、自力で這い上がることも、体力が消耗している非力なアンジェラが引き上げることも難しい状況だ。
ずるずるとアンジェラの身体も徐々に下がり始めた。このままでは一緒に落下してしまう。
「アンジェラ…、放せ…。…大丈夫だから…。由良のこと…頼む……」
「大丈夫なわけないやろ! 五体満足の時と違って、左腕とそんなケガで泳げるんか!? せっかく追いついてユラ君助けたのに、こんな…!」
必死な形相のアンジェラに対し、フ、と苦笑するレン。
「あたし…、自分でもびっくりするくらいしぶといから…、すぐに追いつくって……」
「それに…」と目を閉じる。
「―――追っかけるのは…、慣れてる……」
閉じた瞼の裏に、黄金のアトリエと、キャンバスに向かう由良の背中が浮かんだ。
そして、小さく笑い、レンはアンジェラの手を振り払おうとする。
その時、横たわる由良の指先が、ピク、と動いた。
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